「RTA小説」「RTA風小説」といったジャンルが、一時期二次創作小説界隈で流行っておりました。走者は原作を踏襲しつつ、より速く目的を達成しようと目指します。その中でのテクニックのユーモアさや周りの人との認識の違い(すれ違い)が魅力だと考えています。
本記事では「RTAと通常攻略の違い」をスタート地点としてRTA小説の特徴をまとめて、具体的な作品名を載せていく方針です。
RTA小説について
RTA小説とは
RTA小説は「キャラクター」が「既存のストーリーを準拠」しながら、できる限り最短で目標を達成することを目指す小説です。
走るためなら倫理を軽くする走者一行と周りの温度差を楽しむコメディー要素、自己犠牲になりがちな走者が雁字搦めの中心となるシリアス要素、作者によって持っていきたい方向性は異なっているジャンルとなっています。
キャラクターによる一人称だけでなく、実況者視点(Biim兄貴リスペクト)、協力者視点といった視点の移り変わりを活かすことによって、「謎行動⇔種明かしのサイクル」「勘違い要素」などといったものも入れることができます。
RTAとは
RTAとはReal Time Attackの略であり、目標を達成するために用いた現実時間の短さを競う種目です。タイムアタックと、セーブ&リセットや休憩・調整時間の扱いが違っています。
目標と禁止事項によって、幾つかのレギュレーションに分けられます。記載のない場合、Any%であることが大半です。
- Any%:エンディングを見るためになんでもあり
- Glitchless:バグの利用を禁止する
- 100%:コンプリートを目標とする
- NG+:別のデータで仕込みを行う(エンディング経由のアイテム引継ぎ、乱数調整など)
通常プレイの延長線上の最適化から、解析・人力TASのようにシナリオが崩壊するものまで、レギュレーションごとにシナリオの生存確率は大きく異なっています。
1.動作の最適化
ゲーム内で可能だと想定された動きを用いたRTAです。大規模なバグを用いているわけではないので、ストーリーの流れは無事です。(ただし、会話文は時間の無駄になるため飛ばされる)Any%_(Glitchless)の大半が当てはまります。
洗練されてくると、TAS(Tool Assisted Sppedrun)と区別がつかなくなってきます。実力が問われるため、競技性の高い部門となります。時折、新たなバグの発掘もしくは運営の修正でタイムが更新されていきます。
具体例:(Part 1リンク)
【RTA】星のカービィSDX 100% 1:13:35(ぷーれ様)
【RTA】 星のカービィ 参上! ドロッチェ団 100% 59分44秒(キャベツ様)
【Cevio実況】1時間26分で惑星を破壊するRTA(ひょっとこハム太郎様)
Super Mario Bros. Any% Speedrun in 4:54.881 *WR*(Niftski様、speedrun.com)
2.バグの利用
開発者の想定していないバグを利用してでも、RTA走者は最速を求めます。その結果、シナリオの順序は崩壊しますが、ゲーム画面に支障はきたしません。
ドラクエ8最短クリア(=バグ有RTA) 7時間29分(けいる様)
【RTA】ファイナルソードDE Ver.1.0 new Any% 41分04秒(John Doe様 無編集版[Youtube])
なお、バグありが進化すると、もはや関係者以外意味が分からない種目へ様変わりします。無事ではないですが、エンディングには辿り着いているのでRTAではあるのです。
FF6 ドアタイマー持ち込み NG+RTA 20:49.21(エディ様)
『ファイナルファンタジー2 なんでもありRTA』気楽なRTAがしたい茜ちゃん #7(ピロ彦様)
(実況動画)FC版 ドラゴンクエスト3 なんでもありRTA ホットプレート温度調整、電撃ボタンありゾーマ討伐チャート 11:29(ひっしー様)
RTA小説の強みと弱み
RTA小説はAny%_Glitchlessを想定して作られています。基本的な動きが洗練されたうえで、ミスを挽回することを含めてストーリーが作り出されていきます。TASと比べると人間味のある、個性を出しやすい点も向いていたのでしょう。
この分野の強みは「新規性の作りやすさ」や「勘違い要素の作りやすさ」にあると考えます。RTA小説として、原作準拠でありながら短縮するために行動をします。その行動の目新しさが作品・作者の独自性を生み出すのです。
また、最速を目指す行為は対象を知っているからできるものです。対して、作中の人物は操作キャラクターを含めて理由を知りません。故に、操作キャラクターは速度のために人間性を捨てる人物になりやすく、勘違いの種を生むこともできます。実況者の操作を受け付けない描写を挟むことで、キャラクターの困惑や覚悟の強さを表すこともあります。
一方、「実況パートの難しさ」が問題です。実況パートは、ゲーム版を想定した設定の管理、分岐やミス地点の作り出しといった小説作り以外の技能も求められます。その結果、次の実況が思いつかずに筆を折るケースやRTA小説でなくなるものが多々見られました。
長所・短所から一次創作と二次創作では、テンプレートのある二次創作向けのジャンルといえるでしょう。
具体的なRTA小説
この項目では、RTAに関わる小説の紹介記事をまとめております。
- 各紹介記事は完成し次第、更新していく予定です。
- 数が増えてきた際、原作順へ順序替えを行います。
高坂穂乃果の廃校回避RTA【完結】
鍵のすけ 様による、ハーメルン内で二次創作のRTAを扱った最古の小説。何度も繰り返した結果、クリアに必要な最低限のフラグを覚えた主人公_高坂穂乃果が最速で廃校回避を成し遂げる物語です。

【WR】がっこうぐらしRTA_全員生存ルート【完結】
アサルトゲーマー 様による作品。原作をモデルとした架空のゲームを舞台に、脱出のRTAを行った作品。瞑目の少女が周りと協力することで、原作で為しえなかった全員生存を目指す作品です。システムの拡張性の広さが好評を博し、これを先駆者とした多数のきらら系原作RTAが追走されています。
SAOメインメニュー縛りRTA
アルシャ 様による作品。とある事情によりメインメニューの使用を封じられた主人公が、タイムを縮めるために死に物狂いとなる作品です。問題点をどのように解決するか、ミスをどう挽回していくかが見ものとなっています。神様転生が賛否両論の元凶となっており、要素の相性を考えさせられました。

がっこうぐらし!ver2.0_RTA 『一人ぼっちの留年』ルート≪参考記録≫
ゆキチ 様の作品。一部のコアな嗜好を楽しむ作品のはずが、ミスにミスを重ねた結果凄まじい展開を迎えていく作品です。実況者とキャラクターの見る世界の違いが、ストーリーの面白さに拍車をかけています。現在も更新を続けています。

【完結】まちカドまぞく/陽夏木ミカン攻略RTA
兼六園 様の、キャラクターの一人陽夏木ミカンと付き合うことを目的としたRTA小説です。原作準拠、バグなしの中でもキャラクターの味がしっかりと出された作品でした。作者が追加した好感度・愛情度のシステムはこの後、さまざまな小説に用いられることとなります。
エリス様とめぐみんのパンツを手に入れるRTA
サンキューカッス 様作の、タイトルが出落ちの作品。犯罪者にならないようにパンツを盗む姿は、RTA小説が掌編かつどんなレギュレーションでも作ることのできる自由度の高さを見せつけていました。果たして操作キャラクターはどんな気持ちで動いていたのでしょうか。

マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート
みみずくやしき 様作の、メロン大好き少女がひた走る小説。小説としての完成度の高さに加えて、実況者特有の不思議な動きを体現してしまった少女の不可思議さが味を出しています。
少女の活動が生み出していった数多の波紋……想いの変化と粘り強さに魅せられる作品でした。
マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート
スパークリング 様作の、力に極ぶりしたちびっ子傭兵が次の世代の少女たちを導いていくRTAです。走者としてはミスの少なさが、ストーリーとしては寿命が殆どない故の焦りが特色でした。
残り短い命をどう使うか、なぜ救われたいと思わないのか。問題が解決される日は来るのでしょうか。
乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった2周目に転生してしまった…
蒼樹物書 様作の、群像劇型小説。何も知らない主人公の横で、前世の記憶を持った人達が彼女と付き合うために策謀を立てていくます。複数人が同時にRTAを走っていると互いの利のために邪魔をしあうため再送案件である、そんなことを伝える作品となりました。
多分一番得をしたのは、農園を発展させられた主人公カタリナではないだろうか。

【RTAネタ】吾輩はE.M.M.I.である
気力♪ 様作の二次創作小説で、走者ではなくRTA被害者の視点から展開していったのが特色です。シリーズを知らなくても異常だと分かるスキップの数々、徐々にサムスに慣れていく語り部のリアクション、2つが強みだと考えています。

よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート
月島さん 様の、天才以上の天才が1人の男を落とし最速で消化試合へ持っていくRTAです。フラグをへし折る見事なチャート完走を成し遂げた小説は殆どなく、独自色を出しています。
原作主人公綾小路が切望していた青春は、こんな形で良かったのか。まあ、本人は滅茶苦茶笑顔でした。
ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート
半純ケツのホモ 様の、生きる意味を見つけられなかった女性が世界をぶっ壊すRTAです。誰にも気づかせず虐殺するための手筈を整えていく、数十年単位のRTAとなっています。
ヴォルデモート勝利という珍しいレギュレーションです。原作ラスボスの彼ですら、元親友(キャラクター)の凶行を認識できないという恐ろしいサイコパスを描いていました。
プリンセスブレイド団体戦・個人戦優勝RTA_男子TSチャート_1時間15分33秒
にじくじゃく 様作の、お姫様を決める女子高生のバトルへ乱入する男を中心としたRTAです。オリジナルゲーム『プリンセスブレイド』の団体戦、個人戦の優勝を目指していきます。
なぜか女子限定の競技に、どうしてか男性で挑む縛りプレイ。偽装して女子高から参加するルール違反を初手からやっており、負ければ社会から一発退場です。練られたシステムと作者の性癖が存分に込められている作品でした。
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