【ひきこまり吸血姫の悶々_感想】引きこもり少女コマリ、変人に囲まれつつ見栄を張る

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著小林湖底、絵りいちょの『ひきこまり吸血姫の悶々』は、将軍にさせられた引きこもりテラコマリが、今日を生き延びるために見栄を張るファンタジー小説です。主人公テラコマリ、通称コマリはいじめとトラウマから3年間引きこもりを続けていました。

将軍にならないと爆発弱みを見せてしまえば下剋上、右も左も変人ばかり。絶望的な状況の中で、テラコマリは生きるために見栄を張ることを選びます。

本ブログで紹介した中では『ライアー・ライアー』に近いあらすじです。周りによって嘘を吐くことを強いられた点、従者に助けられながら生き延びていく点などが重なります。

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次の3つが『ひきこまり吸血鬼の悶々』の強みだと考えています。

変態なキャラクターを許せる人で、主人公が少しずつ成長していく物語が見たい人へオススメします。

  • 多く含まれる変態従者によるギャグ風味
  • 主人公コマリの精神的な成長描写
  • ペテン師と違って、最後には正面から問題を打倒
目次

「ひきこまり吸血鬼の悶々」小説情報

あらすじ

引きこもりの少女「コマリ」ことテラコマリが目覚めると、なんと帝国の将軍に大抜擢されていた!しかもコマリが率いるのは、下克上が横行する血なまぐさい荒くれ部隊。

名門吸血鬼の家系に生まれながら、血が嫌いなせいで「運動神経ダメ」「背が小さい」「魔法が使えない」と三拍子そろったコマリ。途方に暮れる彼女に、腹心(となってくれるはず)のメイドのヴィルが言った。

「お任せください。必ずや部下どもを勘違いさせてみせましょう!」

はったりと幸運を頼りに快進撃するコマリの姿を描いたコミカルファンタジー!
引きこもりだけど、コマリは「やればできる子」!?

「ひきこまり吸血姫の悶々」特設サイト – GA文庫より引用

主要人物

テラコマリ・ガンデスブラッド

名家ガンデスブラッドの長女。趣味は読書で、小説家になるのが夢。吸血鬼ながら血を飲めず、低身かつ低体力となっている。

ひょんなことから七紅天大将軍の1人として、下剋上上等な荒くれ第七部隊を率いることとなった。

自分に力がないことを誰よりも信じている。

名前の由来は接頭辞のテラ+困る。

ヴィルヘイズ

ムルナイト帝国軍、準三位特別中尉でテラコマリの専属メイド。清々しいまでの変態で、作中の所業は数知れず。

毒に関する能力と、血を吸われた者の未来を視る【パンドラポイズン】という烈核解放を持つ。

烈核解放:作中世界観では命を落としても数日経てば復活できる。その権利を諦め、才あるものだけが身に付けられる奥義のようなもの。

コマリの右腕四人衆

  • べリウス・イッヌ・ケルベロ中尉:コマリへの忠義に厚い獣人。罪は『憂さ晴らしの殺人』
  • カオステル・コント中尉:枯れ木みたいな背恰好の変態。追跡能力を用いてサポートする。罪は『幼女誘拐の疑い』
  • メランコシー大尉:ラップをこよなく愛するテロリスト。罪は『宮殿爆破未遂』
  • ヨハン・ヘルダース:炎の魔法を自在に操るルーキー。罪は『国家反逆犯との協力』

ミリセント・ブルーナイト

学院時代コマリをいじめていた首謀者。家の都合でストレスが異常に溜まっており、はけ口としてヴィルヘイズやテラコマリを利用していた。

3年前に学園で起きた大殺戮の犯人として除名処分された。しかし、”テラコマリ・ガンデスブラッド”からすり替えられたとされ、彼女の行方に謎が残る。

「ひきこまり吸血鬼の悶々」ストーリーPickup

以下、ネタバレ注意です。

コマリの周りは変態だらけ

1億年に1人の美貌だと自負するテラコマリの周りには変態しかいません。

上司である皇帝は色情魔かつ生粋の同性愛者です。テラコマリの母親と恋人関係にあった彼女は、テラコマリの容姿を認めていました。出会い頭に2cmの距離まで近づいたり、『唾液を口に流し込んで契約した』と冗談をついたり、パーティーで下腹部を優しく撫でたり。TPOが感じられない変質行動を犯していました。

従者のヴィルヘイズはテラコマリへ欲望を向けています。ストリップショーと称して着替え風景を観察し、嬉々として風呂に同席しました。特に裸で布団に入り込んだことはテラコマリに驚かれています。

将軍の1人、カオステルは髪の毛を蒐集するほどテラコマリを好んでいます。報酬を貰えると聞くと、特注のカメラによるファッションショーを開いています。また『おみ足ぺろぺろ券』のために情報伝達を遅れさせ、騒動を拡大させました。

他の部下も大して変わりません。ドアに潰されて死んだヨハンへ、同じように潰されたいと憧れを見せています。

しかし、テラコマリが愛されていなかったわけではありません

皇帝は彼女の隠された実力を知っており、七将軍に相応しい逸材になると願っていました。

従者のヴィルヘイズはかつてテラコマリに救われ、テラコマリの優しさを見出していました。

部下の将軍らは強さを前提としたうえでも、かつての上司と違い自分たちに向き合ってくれるテラコマリを信頼しています。

望むかは別として、テラコマリは愛されていました

心の傷

かつてテラコマリはミリセントという少女の反感を買いました。盗難から暴力まで。エスカレートする仕打ちにテラコマリはひたすら耐えるしかありません。軍閥のガンデスブラッド家の娘として、助けを乞うことは許されませんでした。いじめられる日々は、3年前の夏に突然終わりました。

事故死した母親の形見を取り上げられる。テラコマリの動揺はミリセントを楽しませ、取り巻きを傷つけた代償として小指を差し出すよう告げました。テラコマリの記憶はそこで終わっています。

恐怖や不安をせき止めるため、少女は引きこもりの道を選びました。

故にミリセントによるヴィルヘイズの誘拐は3年前のトラウマを思い出させました。外に出られていた少女は再びふさぎこみ、屋敷に閉じこもります。

しかし、今のテラコマリには変態な部下との思い出が付いていました。

  • ヴィルヘイズが支えてくれるきっかけを知った
  • べリウス中尉が身を呈して守ってくれた
  • カオステル中尉が居場所をかぎつけた

ヴィルヘイズの告白文と部下たちの想いによって、テラコマリは再び立ち上がります。

どんなに無様でもいい、どんなに情けなくってもいい、とにかくヴィルを連れ戻して第七部隊に凱旋し、また戦争を――するのはやっぱり嫌だけど、いつも通りの騒がしい日々を満喫してやるのだ。


『ひきこまり吸血鬼の悶々「5 引きこもり吸血鬼の闇」』より

死なない世界と烈核解放

本作は、特別な理由がなければ死なない世界観です。本当の意味で死ぬのは寿命と神具による殺害だけ。ドアで圧死したヨハンも数日後には復活し、轢殺しています。だからこそ戦争や領土争いが娯楽となるのです。

一方で死なない権利を引き換えに、己の中に眠る特別な力を引き出す奥義もありました。類まれなる才と一度きりの生をして得られる力を烈核解放と呼びます。

烈核解放は発動条件を満たすことで、常識から外れた奇跡を引き起こします。例としてヴィルヘイズの【パンドラポイズン】は、血を吸われることを条件に精度100%で吸った人の未来を見通せます

一方で才なき人にとって烈核解放は呪いでした。ミリセントは父の言いなりに苛烈な修行を繰り返し、精神的に病んでしまっています。ヴィルヘイズをいじめたきっかけも、彼女が烈核解放を持っているといううわさからです。3年前に歯が立たなかった烈核解放を実力でねじ伏せる。国家転覆を企んだ少女は、自分の価値が示されることを願っていました

それでも届かないものがある。ミリセントとテラコマリの闘いは互いにとって想定外な結末を迎えました。

まとめ:一夜を明けて、テラコマリは

他人の血を飲むことで発動する烈核解放。吸血鬼にとって食事の一部だと知っていたミリセントは可能性に気付くことができませんでした。テラコマリにとっても血を毛嫌いしていて、弱者であることを信じていました。

2人の予想を壊すように、テラコマリの烈核解放【弧紅ここうとむらい】はあっけなく舞台を下ろしました

「後でゆっくりご説明しましょう。――とにかく、コマリ様は最強なのです。どんな敵も余裕で屠ることができます。事実ミリセントも余裕で死にました」
「信じられるかそんなこと! あいつの頭上にたまたま隕石が振ってきて余裕で死にましたって言われたほうがまだ納得できるわっ!」


『ひきこまり吸血鬼の悶々「0 エピローグ」』より

著小林湖底、絵りいちょの『ひきこまり吸血姫の悶々』は、無理やり将軍にさせられた引きこもりテラコマリが、今日を生き延びるために見栄を張るファンタジー小説です。

将軍にならないと爆発弱みを見せてしまえば下剋上、右も左も変人ばかり。絶望的な状況の中で、テラコマリは生きるために強く見せることを選びます。

似たような作品群の中では、周囲の変態さと主人公テラコマリの成長模様が特色です。変態を許せて、主人公が少しずつ成長していく物語が見たい人へオススメします。

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