【転生王女と天才令嬢の魔法革命 感想】少女は憧れを叶えまいと実験する

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鴉ぴえろによる『転生王女と転生令嬢の魔法革命』は、魔法が宗教として根付いた国を舞台としたファンタジーです。魔法が使えない主人公が、憧れを叶えようと突き進む様子が描かれます。

現世の発想を中世ファンタジーに持ち込む作品は数多くあります。本作は独特の発想や伝統との衝突を中心に描かれました。2023年の冬にアニメ化し、百合ファンタジーとして名高い評価を受けています。

本記事ではアニスフィアの発明と独特の発想『魔学』の影響を中心に取り上げます。

読みどころ4選

  • 主要人物の名前に込められた想い
  • きさらぎゆり先生の挿絵の可愛さ
  • 一方通行の発展と伝統の衝突
  • 足りないものを補い合おうとする少女たち
目次

小説情報

あらすじ

パレッティア王国の王女、アニスフィア・ウィン・パレッティアはひょんな事から魔法使いに憧れていた前世の記憶を思い出した。
魔法がある世界に転生したのに魔法が使えない!? それなら自分が使える魔法を開発するしかないじゃない!
夢に向かって周囲を振り回しながらも邁進するアニスフィア。やがて彼女は王国一の問題児として噂されるようになっていく。
そしてある日、アニスフィアは弟であるアルガルドが婚約者であるユフィリアへと婚約破棄を突きつける場面へと乱入してしまう。
魔法に愛されず、それでも魔法を愛した王女様はどこに向かうのか!? 転生者である王女様によるドタバタ劇がここに始まる。

転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】

主要人物

アニスフィア・ウィン・パレッティア

パレッティア王国の王女17歳。魔法で空を飛びたい。ひょんな願いから始まった数々の奇天烈な行動から、王家の問題児と扱われている。

現代社会の知識のみを引き継いだタイプの転生者。転生者だと分かっているが、前世の思想は残っていない。性認識は見た目通り女性。しかし、貴族からの陰口によって女性をめとりたいとは思っている。

  • 空を飛ぶために風を利用しようとして、壁にめり込む
  • 風呂を作ろうとして火加減を間違え、全身火傷を負う
  • 素材のために国を飛び、冒険者として魔物を狩る
  • 箒で空を飛ぶ実験の最中、窓から舞踏会へ乱入する

可愛い、奇天烈、大馬鹿。そのような一言では隠せない一面を秘めている。

名前の元ネタはおそらくuni+sphere(一つの星)。

ユフィリア・マゼンダ

パレッティア王の右腕を務めるグランツ・マゼンタ公爵の娘。全ての属性の魔法を扱える異端児。容姿や文武にも優れている。しかし求められるものを全うしすぎる気質がみられる。

アルガルド王子の許嫁であったが、序章で一方的な婚約破棄を宣言された。無実の罪にうろたえる中、アニスフィアが窓から乱入し救われる。

何を為したいのか。王女候補を演じ続けた少女は願いを求める。

名前の元ネタはおそらくyou+philia(あなたへの好意

「転生王女と天才令嬢の魔法革命」ストーリーPickup

以下、ネタバレ注意です。

アニスフィアという少女の魅力

©2023 鴉ぴえろ・きさらぎゆり/KADOKAWA/転天製作委員会

アニスフィアという少女を一言で表すなら『目標へ無我夢中に追いかける少女』だと考えています。自らの手で魔物を狩って、その素材を次の実験に用いる。挿絵のように魔物の血で濡れることもためらいません。血が付いていても騎士団の方々へ眩しい笑顔を振りまけるヒロインは中々いないでしょう。

欲望に忠実なだけのキテレツではありません。とっさの場の対応力や善性にも優れています。弟アルガルドの婚約破棄の場に突入して数秒で状況を把握しました。そして事態を解決する最善策としてユフィリアを会場から救い出しています。

他にも下に挙げるように、多くの事を成し遂げています。

  • 安全衛生向上のための下水道敷設の提案および監督
  • 魔物討伐による街道の安全確保
  • 騎士団・メイドへの装備普及による防犯性の向上
  • 発明品および魔学による平民の雇用体系の確保(予定)
  • 魔法の有無による平民ー貴族格差の改善(予定)

自分は国にとって劇薬である。魔法の使えない自分ではなく、民の声を聞ける弟アルガルドこそが王座に相応しい。そう考えた結果、彼女は表舞台から身を引きました。

アニスフィアは誰かの笑顔になることを目指し、日々羽ばたいてしています。

数々の確執から目を背けて。

魔学の発展と産まれた確執

アニスフィアの魔学は、十余年の間に数多の神秘を科学に置き換えました

  • 魔法適正はどの精霊に好かれるかの性質の違いによるもの
  • 魔石は精霊が固まった化石のような物体
  • 魔法欠乏症は魂の魔力の需給バランスが崩れた症状
  • 魔法は術式によって再現できる

狐火、かまいたち、雷……。現実でも化学の進歩により神秘的な現象の真実が明かされています。彼女がもたらす『魔学』の進化は著しく速く、王族の権威もありました。

アニスフィアを担ぎ上げる勢力も軍部中心に一定数います。対して魔学の進化に反対する勢力は2つに分けられます。

1つは劇薬となり得る進歩を危惧する勢力です。主に父オルファンスや従者イリアが属しています。

できないことができるようになるときよりも、できることができないことになる方が大きなストレスがかかりがちです。少しずつ受け入れらてる範囲で広めていかなければなりません。論文発表の内容も父親によって事前に精査されています。

「魔道具は”便利過ぎる”のです。姫様の見ている世界はあまりにも私達には理解し難い。故に、一度知ってしまえば戻れないのです。その価値を知る故に」


『2章 転生王女様の家庭訪問』より

もしアニスフィアによる発展が限界を迎えたら。もし魔道具を作る資源が枯渇したら。民の不満は今以上に爆発するでしょう。価値があっても世に出して良いものか、人類は問い続けられています。

もう1つの勢力は精霊信仰の神秘性・貴族の優位性が失われると否定する方々です。魔法省や貴族の多数が当てはまります。

自分たちだけが持っているものが周りにも普及する。魔法をステータスだと感じている人にとっては大きな屈辱です。他にも魔学の発展は、300年余り続いてきた神秘性を下げることに繋がります。

魔法省は魔法を研究している政府機関です。しかし、大半が有意差をより大きくするための学問で、アニスフィアの主張を聞いてくれた人は僅かだと書かれています。

正確さよりも権威を維持する。『早く子を産んで欲しい』という陰口をトラウマになる程言われたこともあり、アニスフィアは彼らを嫌っています。

魔法省はこの国で大きな政治派閥を築いているから発言力がある。だけど私はあの人達が嫌いだ。貴族の特権と言える魔法を神聖視して、上から目線で平民や魔法を扱えない者への風当たりが強いから。本当、選民思想って嫌い。


『3章 転生王女様による魔学講座』より引用

アニスフィア視点なので全否定されていますが、魔法省の意見も理解できないわけではありません。

伝統は親世代から教わってきて、脈々と受け継がれてきました。理論武装された批判をされたとして、果たして素直に受け止められるでしょうか。遠い世界の他人より自分を優先して欲しいと思わずにいられるでしょうか。

アニスフィア発明品(1巻時点)

アニスフィアは現代の知識と魔法を組み合わせることで新製品を作り上げています。身近なものから表に出せないものまでまとめました。

保温ポッド

©2023 鴉ぴえろ・きさらぎゆり/KADOKAWA/転天製作委員会

お湯を沸かすための道具です。台座は特殊な細工をしており、火の精霊石を用いています。現実のものと比べてコードレスなのが強みです。

画像のように王室にもあり、独りで茶を飲むときに愛用されています。

アニメ版にて似顔絵が描かれていることが判明しました。

ドライヤー

前世の記憶を再現した代物。従者のイリアがいないときに使っているらしい。

飛行魔道具_魔女箒

アニスフィアの願いが産んだ代物。

パレッティア王国は空を飛ぶ手段が発達しておらず、魔法でも空を飛ぶことはできません。

自爆検証の末に完成した魔女箒は、国で唯一の飛行手段といわれています。しかし、制御の難しさから未だアニスフィアの専用となっています。

箒は王城から拝借していました。

マナ・ブレイド

魔力で刀身を生み出す仕組みの魔剣です。柄の重量だけで軽く、刀身の調整がしやすい点が強みとなっています。汎用性の高さから、父親も珍しく絶賛している。

アニスフィアは両方の太股につけたホルダーに差し込んでいます。信頼のおける侍女たちにも配布しており、護身用として活躍中です。

マナ・シールド

マナ・ブレイドの盾版です。こちらは父親とイリアしか持っていない貴重品です。

『剣はロマン』を掲げていたアニスフィアは、盾の方が高評価だったことにへこんでいました。

アルカンシェル

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©2023 鴉ぴえろ・きさらぎゆり/KADOKAWA/転天製作委員会

アニスフィアがユフィリアへ送った専用のレイピアです。

太陽を模した持ち手に六属性の精霊石が埋め込まれています。刀身に精霊石を練り込むことで、杖としても剣としても使えるようにされていました。アニスフィアがユフィリアへ抱いたイメージと、ユフィリアの要望を掛け合わせた逸品です。

名前の元ネタは虹のフランス語であるarc-en-ciel。

魔薬

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©2023 鴉ぴえろ・きさらぎゆり/KADOKAWA/転天製作委員会

身体強化と興奮作用をもたらす危ないお薬。服用者はアニスフィアのみで、彼女も流通させる気はありません。

砕いた魔石を中心に色々と混ぜることによって作られています。共同研究者ティルティと数年をかけて開発されました。理性の枷が外れる副作用を抱えており、映像版だと中々弾けた笑みを見せています。

まとめ:誰かの笑顔のため

相対するものは王都に向かうドラゴン。アニスフィアが独りでできる手は尽くし、魔薬による熱も冷めました。

それでもアニスフィアは戦うことを選びます。王女として、『魔法使い』としてのプライドが、戦線を引くことを許しません。

ユフィリアはドラゴンとの闘いを見守っていました。アニスフィアに無茶だと諭してもいました。しかし、闘い続ける彼女の想いを知って、演じ続けた少女は初めて自分で決断します

アニスフィアらの初めての共同作業はドラゴンの討伐でした。

鴉ぴえろによる『転生王女と転生令嬢の魔法革命』は魔法が宗教として根付いた国を舞台としたファンタジー小説です。魔法が使えない主人公が憧れを叶えようと暴走する様が描かれます。

アニスフィアは夢を追いかけた結果、一段階人から外れてしまいました。ユフィリアは夢を描くことができ、寄り添う先が見つかりました。彼女たちの今後は、どのような形であれ煌めいていることでしょう。

2巻では第1章の後編として、『弟アルガルドが婚姻破棄した理由』の真相が語られます。輝き過ぎたアニスフィアがもたらしてしまったもの、国中に続く病のような格差。アニスフィアが目を背けていたものと向き合うことになりました

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