2024年から読む『ようこそ実力至上主義の教室へ』感想

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衣笠彰梧・トモセシュンサク『ようこそ実力至上主義の教室へ』は、希望する進学、就職先にはほぼ100%で応えるという全国屈指の名門校を舞台に生存競争に励むライトノベルです。

『このライトノベルがすごい!』の読者投票数では、2019年から5年連続上位を獲得し殿堂入りを果たしました

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2024年冬にもアニメ3期(学期末まで)が放映され、歴代ライトノベルの名作として名を連ねるレベルに達しています。

しかし、今から読んでみるとどういった小説に感じ取れるのでしょうか? とあることをきっかけに原作1巻へ手を出した人の感想です。

目次

『ようこそ実力至上主義の教室へ』Pickup

以下ネタバレが含まれます。

座席に平等はあるのか

あなたは通勤時間中の窮屈なバス内で優先席に座っています。目の前に老人がいました。立ち上がり交代するべきでしょうか

作者は1巻に登場するキャラクターの端的な特徴を、一場面だけでまとめて見せました。

  • 高円寺六助……法的な義務はなく、どうして譲る必要があるかを力説⇒唯我独尊な性格
  • 櫛田桔梗……社会貢献を根拠に席を譲ることを推奨する⇒他人の目を重要視する性格
  • 綾小路清隆……事なかれ主義と自称。最小限の手間で地位を守るために席を立たない
  • 堀北鈴音……席を譲ることに意味はないと主張⇒主張が薄い、問いの受け取り方を勘違いしている

今回に関しては言い方はともかく高円寺の考え方が正しい、と私は思っています。

優しさという問題ではなく、今回の場面がいかに譲りにくい状態であるかを高円寺が話してくれています。

  • 若者であろうとも座っているときよりも体力を消耗することは明らかである
  • 無償で立ち上がる利点がみられない
  • 社会貢献に必要性を覚えるかは個々人の判断に委ねられる。
  • 車内は混雑している
  • 他にも我関せずと居座り黙り込んでいる人はたくさんいる
  • この状況において優先席・非優先席の区別に必要性はあるか

座席を恩恵への椅子取りゲームだと考えると、周りの甘言に騙されて席を立つことが間違っているのかもしれません。

櫛田桔梗の仮面

よう実の原作を見るのが初めての人でも、RTA小説の解説のために一部分を調べていました。そのため櫛田については本性の方が印象に残っており、社会貢献の発言にも違和感があふれていました。

そもそも原作1巻を読むきっかけになったのは、下のツイートからです。

これを育成すると眼を開く差分があり、コラボ元のキャラクターも仮面被りの二面性少女となっています。更には1人当たり1つの称号も彼女だけはanotherバージョンがある優遇ぶりでした。

それにしても綾小路への脅迫として、制服の胸の部分を触らせて保存させるという手段を取るとは思いませんでした。この方法を取るには制服の予備が必要になりますし、そのためにポイントを割かなければなりません。

どれだけ本性を晒したくないのか、ブラフだとしても彼女の本気ぶりがうかがえる場面でした。

綾小路清隆の猫かぶり

原作後半の冷酷ぶりは何処に行ったのか、1巻の綾小路は終盤を除いてスケベな男子高校生です。この頃に流行っていた省エネ系の性格のように演出されており、主体性を持った行動をしていません

強いて挙げるとすれば、小テストの点数を一律で50点に、正答率をガン無視して作り上げたことでしょう。

それも彼の過去を考えると当然のことです。普通の高校生というものを知らず、近くにいたのは一部に優れるものの素行不良の学生も多いDクラス。配属先に染まったというべき変化であり、利用価値があるかも怪しい櫛田へ劣情を抱いているような反応をしていました。

とはいえ綾小路の魅力は終盤にちゃんと出ていました。

高度育成高等学校では1ポイント1円相当のポイントで何でも買える。

言葉の意味をきちんと捉え、過去問を15,000円で入手したり須郷(友達)の点数を10万円で堀北と購入したりしています。

この時点ではどうして人気キャラクターに成長するのか見て取れません。彼の活躍の本番は3巻の夏季合宿まで待つことになるでしょう。

茶柱佐枝への疑念

1巻の時点で最大の謎だったのが『Aクラスに上がらせたい茶柱が、どうして客観的に一番厳しい対応を取っているのか』です。

月初めにクラスポイントに応じた金額が振り込まれるSシステムを隠蔽していた点はまだ分かります。痛い目を見なければ人は成長せず、学生として有り余る行動をしていたのは間違いなくDクラスです。

しかし、彼女の問題は一芸を有しているDクラスの強みを活かす気がない点でしょう。最終的に中退させる目的があったとしても、彼らの才能は本物です。

学力だけで成績を図らない。かつて高度育成高等学校にいたのであれば、中立的に弱点を提示することも可能でした。特に須藤らの学力は説明が最も簡単な部類です。

しかし、彼女が中間テスト期間の際に行った行動は他クラスよりも試験範囲変更の通知を1週間遅らせたことと、綾小路を脅迫したことの2つです。生徒に対して失望したと言っていますが、周囲もまた彼女に対して失望しているに違いありません。

結果的に彼女のクラスを貶めていく行動が、綾小路というジョーカーのDクラス編入に繋がったのは確かです。しかし、小テストで彼の価値に確信を持ってからも行動を変えない、クラスの妨害をしつつ受動的に綾小路が率いることを願う行動原理は擁護できません

まとめ:挑戦的な意欲作なのだが、違和感が凄い

堀北は、ただ真っ直ぐ、笑顔の眩しい櫛田を見つめて言った。

「あなたは私のことが嫌いよね?」

「おいおい……」

何を確認するのかと思ったら、またとんでもないことを。

「どうしてそう思うの?」

「そう感じるから、としかその質問には答えられないけれど……間違ってる?」

「……あはは、参ったな」

鞄を持ちあげた手をゆっくりと卸す。そして変わらぬ笑顔を堀北へと向けた。

「そうだね。大っ嫌い」

そして、そうはっきりと伝えた。隠すことなく、真っ直ぐに。

中間テスト より

個人的に1巻で最も好きなシーンです。今までのらりくらりと躱してきた櫛田と、強硬策で逃げてきた堀北。その2人が中間テストの目標に向けてようやく合致していました。互いに『真っ直ぐ』という表現を用いて嫌いだと告げるシーンは、本性を隠し続ける主人公たちと比較して清々しく感じられました

衣笠彰梧・トモセシュンサク『ようこそ実力至上主義の教室へ』は、希望する進学、就職先にはほぼ100%で応えるという全国屈指の名門校を舞台に生存競争に励むライトノベルです。

果たして平等は正義なのか。

挑戦的で面白い題材とは裏腹に、1巻の時点では不明瞭な要素が多すぎます。感情が揺れ動く要素が殆どありません。

今だから名作だと断言できる作品ですが、正直これだけを出されていたら切っています

単品として紹介するならば同じ平等を問う学園モノでも『バカとテストと召喚獣』の方をおすすめする、というのが個人的な結論でした。

シリーズとして見るならば、どちらも屈指の名作だと考えています。

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