【鵜飼有志『死亡遊戯で飯を食う。』感想】デスゲームへの異質なリアリティ

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鵜飼有志/ねこめたるによる『死亡遊戯で飯を食う。』の感想・紹介記事です。デスゲームを生業にする、異質のテーマと主人公像が特徴です。デスゲームを舞台としたライトノベルの中で、本作はドキュメンタリーに近い、新たなリアリティを読者に見せつけました。

想像できてしまうグロテスク描写には注意です。しかし本作はそれ以上の魅力があり、衝動を求めている・退廃的な少女が夢に生きるまでを眺めたい人へおすすめします。

目次

『死亡遊戯で飯を食う。』小説情報

あらすじ

目を覚ますと、私は見知らぬ洋館にいた。
メイド服を着せられて、豪華なベッドに寝かされていた。

寝室を出て、廊下を歩いた。
食堂の扉を開けると、そこには五人の人間がいた。
みな一様に、私と同じくメイド服を着せられていて、少女だった。

〈ゲーム〉の始まりだった。
吹き矢、丸鋸、密室に手錠、そして凶器の数々。人間をあの世にいざなうもので満ち満ちている、そこは〈ゴーストハウス〉。
館に仕掛けられたトラップのすべてをくぐり抜けて脱出するしか、私たちの生き残る道はなかった。絶望的な現実に、少女たちは顔色を悪くする――

――ただ一人、私だけを除いて。

なぜかって? そりゃあ――私はこれが初めてじゃないから。

プレイヤーネーム、幽鬼《ユウキ》。十七歳。
自分で言うのもなんだけど、殺人ゲームのプロフェッショナル。メイド服を着て死の館から脱出を図ったり、バニーガール姿でほかのプレイヤーと殺し合ったり、そんなことをして得た賞金で生活している人間。

どうかしてるとお思いですか?
私もそう思います。
だけど、そういう人間がこの世にはいるんですよ。
おととい励まし合った仲間が、今日は敵になる。
油断すれば後ろから刺され、万全を尽くしたとしても命を落とすことがある――
そんな、死亡遊戯で飯を食う、少女が。

死亡遊戯で飯を食う。|書籍|MF文庫J オフィシャルウェブサイト

主要登場人物

幽鬼(反町友樹)

青白い肌と生気のない顔が特徴の少女。17歳で昼夜逆転の生活を送っているため、定時制の高校に通っている。生存率7割のデスゲームへ27回(ストーリー開始時点)生き残っているプロ。

自身が生き残る確率を上げるために、最大数の生存者が出るように行動する。

70%の勝負に27連勝する確率は0.0066%(約15,000分の1)である

白亜(白津川真実)

デスゲームの最古参で幽鬼の師匠。ウェーブがかかった白の長髪と無駄をそぎ落としたような細身が特徴。99連勝することを目標に掲げ、96戦目キャンドルウッズで幽鬼(9戦目)と再会する。

70%の勝負に95連勝する確率は0.00000000000019%(約520兆分の1)、作中で触れられているように前代未聞の数字である

『死亡遊戯で飯を食う。』ストーリーPickup

以下ネタバレ注意です。

従来のライトノベルと一線を画す、デスゲームへのリアリティ

本作屈指の特徴はデスゲームへの独特なリアリティの高さだと考えています。デスゲームの要素を○個に分けて紹介していきます。

最初は目的です。本作のデスゲームは上流階級の玩具として成り立っています。参加者は見栄えを重視して、客人にとっての美女を中心に集められます。服装も主催者のフェチに合わせて、メイド服からセーラー・スク水・チャイナ・バニー……と彩豊かです。餓死せず目標に突き進んでもらうため、安全地帯に食料も確保しています。グロテスクな死亡シーンに配慮して人体改造(通称:防腐処理)まで行う様はエンタメに徹しているといえるでしょう。

次に始まり方です。『ソードアート・オンライン』や『ダンガンロンパ』などであった、人を集めてゲームマスターがデスゲームの開始を宣言し何も知らない主人公がパニックになる。本作はそんな展開に囚われません。ほとんど全員が経験者で相手の探り合いから始まる舞台もあれば、案内役をリンチにすることも恐喝政治が始まることもある。そもそもの主人公幽鬼がベテランで油断はあれど突然の展開に驚いていません。主人公は経験者だと最初に提示することで、俯瞰的に状況を伝えていました。

3つ目は死亡率です。主催者の意向によってデスゲームの死亡率は跳ね上がります。『ソードアート・オンライン』は主人公の発想によって約40%に抑えられましたが、本来は安全地帯が消えるシステムが搭載されていました。『魔法少女育成計画』は主催者が殺人鬼であったため16人中14人が死亡しています。『賭博黙示録カイジ』の電流鉄骨渡りは主催者の悪意ある仕掛けから10人中落下9人失格1人となっています。『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』に至ってはコナンたちがいなければ100人全員殺すつもりでした。

本作の平均30%はデスゲーム界隈で見ても低い値で、エンタメとして成り立たせることを意識しているのでしょう。しかし、デスゲーム経験者を含んでの確率な点、初心者の死亡率が高い点には注意が必要です。

最後の要素は死亡描写です。死亡描写はデスゲームの華ともいえる一方、グロテスクな描写は人を大きく選んでしまいます。故に死んだ原因を見せない描写やデフォルメ化が用いられています。

  • ソードアート・オンライン:死因は脳みそ電子レンジだが、描写はポリゴンの爆散
  • 電流鉄骨渡り:死因は地面との衝突だが、落ちる段階までしか描写されない
  • 名探偵コナン ベイカー街の亡霊:(死亡させるまえに助けられたが)、脱落描写は機体の落下のみ

そして、三つの音が連続した。

一つめは、高速で飛来した<それ>が○○の頭を貫いた音。小さくて、乾いていて、人間の脳を貫いたとはまるで思われぬ音だった。二つめは、自立できなくなった○○が<それ>から受けた衝撃の方向そのままに倒れた音。そして、三つめは、彼女の取り落した鍵束が、テーブルの上に帰った音だった。

『死亡遊戯で飯を食う。「1.ゴーストハウス(28回目)」』49ページより引用、ネタバレ防止のため固有名詞は隠している

特に1巻前半となるゴーストハウス編では、キャラクターの死因がストレートに描写されます。著作人の書評の1つに含んだ描写と記載されていましたが、とんでもありません。近年の読者は、膨大なネット小説の不自由な表現を受け取るように努力して、包み隠す風潮に対応するように想像力を培ってきました。その中で(R-15で許される範囲で)直球ストレートな本小説は、グロテスクな表現に弱い人にとっては毒になってしまうでしょう。

目的、始まり方、死亡率、死亡描写。どれをとっても異端の作品であったと考えます。

理解できるけど共感できない主人公の動機

主人公幽鬼は社会不適合者です。午後7時に起きて午前7時に眠る。冷蔵庫の中身は腐っていて、家具よりも捨て忘れたゴミ袋の方が多い有様です。防腐処理によって体臭が無くなったため、清潔にも気を配らなくなりました。とある理由で学校に通うまで、ひたすら引きこもっている17歳です。

体力も知力も欠けている。頼る親もいない。孤独な少女にとって死亡遊戯は生きる術でした。幸い少女には生き残る才能がありました。偉大な師匠白亜に出会え、物語が始まるまで27連勝、最低でも8,000万円(初回賞金が約300万円)稼いでいます。

しかし、彼女が狙うのは生き延びることではなく、前人未到の記録を打ち立てた師匠を超える99連勝の達成です。30連勝で超一流だと認められ、名誉や金銭目的ではそれ以上を狙う価値はありません。どうして目指すのかは第2章キャンドルウッズ編で語られ、理解はできる構成となっています。しかし、彼女の立場でいきなり当時の11倍の場数を踏もうとする人はどれだけいるでしょうか。

端的にまとめるとデスゲームに魅入られ天職と信じている幽霊のような少女、となるでしょう。リアルなのに人のつながりがなく希薄な様子が、死亡遊戯中の姿を強調していました。

SFから外れて(個人的賛否両論点)

作者鵜飼有志は本作の刊行に際して独創的な作風に注目され、どうしてこうなったのかとよく聞かれたとあとがきに残しています。世界的に暗い情勢だった2021年、コロナショックに加え生活も執筆も立ち行かなくなった。死に方を決める自由を考え始めるくらいに追い詰められた経験が本作につながったそうです。

しかし、私が聞きたいのはそこではありません。終盤までオーバーテクノロジーはあれど現実的な表現が続いていました。死亡方法も大半が失血死でバトル描写も現代武器のやり取りです。

死亡遊戯の運営らはどうして最後の最後に『呪い』の存在を示唆したのでしょうか。

30回目周辺で生存率が急低下するジンクスがあると、作中で触れられています。幽鬼もそろそろ30回であり、2巻のあらすじで異常事態を匂わせていました。

果たして呪いが科学的に解明できるものなのか、個人的に気になっています。

まとめ:活躍できる場所で生きる

鵜飼有志、ねこめたるによる『死亡遊戯で飯を食う。』の感想・紹介記事でした。

  • 主人公の参加動機=死亡遊戯を天職だと考えているから、殺すのは手段の1つに過ぎない
  • 死亡遊戯の目的=金持ちの道楽でしかない
  • 始まり方=千差万別だが主人公が説明役に回る
  • 死亡率=30%程度と低水準
  • 死亡描写=肉体改造によって視聴者へ配慮をしているが、読者にはストレートに表現
  • 物語の結末=あっけなく終わって退廃的な日常に帰ってくる

主人公の動機、死亡遊戯の目的、始まり方、死亡率、死亡描写、結末。どれをとってもデスゲーム作品の中では異端の作品です。しかし、竹町(著スパイ教室)の書評で触れられているように、修正するとつまらなくなってしまう、どこも崩せない程面白くなるような構成が整っていました一方で想像できてしまう、リアリティ豊かなグロテスクには注意です。

衝動を求めている・退廃的な少女が夢に生きるまでを眺めたい人へおすすめします。

大概1巻で満足する私ですが、今回は続巻を買います。

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