【一次創作紹介】月兎耳のべる『好きな人を幸せにする能力【一話完結】』

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月兎耳のべる『好きな人を幸せにする能力【一話完結】』は、原作死亡キャラに出会ってその人生を変えるために足掻いた青年を描くファンタジー作品です。

チート: 好きな人を幸せにする能力のタイトル名に反した重たいストーリー展開に、原作を変えようとした青年へ向けられた届かない恋慕。青年たちの生きた証が心に刻み込まれました

本作は中編とはかくあるべきというくらい情報が詰め込まれ、綺麗にまとまっています。5話しかありませんが合計約18万文字の大作、青年の生き様を見ていきます。

目次

小説情報

基本情報

あらすじ

異世界転生した結果、原作死亡キャラと出会ってその人生を変えられるとしたら…貴方はどうしますか?

「その人を幸せにしたい!」
「でも主人公の代わりにらぶらぶちゅっちゅするのは、余りにもおこがましいからひたすら遠くから眺めて、幸せな様子を愛でたい!」

これはそんな事を考えてるオリ主君のお話。

https://syosetu.org/novel/192518/

作中設定の概略

  • 転移先はタワーディフェンス型のゲーム
  • 主人公は伝説の軍師の息子として、並み居る敵を跳ね返すのが目的
  • 敵は種族を問わない魔獣たち
  • ネームドキャラは、剣士舞台、弓兵部隊、重装部隊、回復部隊、魔法部隊の部隊長

主要登場人物

○○

特殊クラスの狙撃部隊、レベルは中堅程度。アリアドネ中隊の1モブユニット。「クリムゾンレッドファンタジア」の世界に異世界転生した。アリアをストーリーの死から救うことが目的

第1話『チート;好きな人を幸せにする能力』の視点人物。

ミストルテイン

ピンク髪ツインテの気品と気位がカンストしたかのようなお嬢様。苛烈な物言いと確かな実力、そして大胆なツンデレで人気を博したスナイパーで、青年の上司にあたる。アリアは一番の友達。20代前半でロリ体型なため、○○にいじられては罰を下している。

第2話『好きな人の幸せを継ぐ為に』などの視点人物。

アリア=ディオルド

少し跳ねの多い黒髪ウルフヘアーの20歳。ツリ目がちな眼差しと、特徴的なギザっ歯の重装騎士。戦雷卿という通称を持つ。原作では未熟な主人公をサポートする立ち回りを見せるが、子供に化けた魔物に殺された。

クリスト

伝説の軍師の子供で、「クリムゾンレッドファンタジア」のチート主人公(15歳)。奇抜な指揮をするらしい。仲間からはクリスと慕われている。

ミーナ

クリストの幼なじみで、クリストが好きな暗殺者。敵の策略でミストルテインに撃たれたが、新メンバーによって一命をとりとめる。その後はより強固な肉体を手にして、諜報として活躍している。

第3話『好きな人の幸せを叶える為に』などの視点人物。

『好きな人を幸せにする能力【一話完結】』ストーリーPickup

以下、ネタバレ注意です。

ヤドリギとは……半寄生性の常緑樹。特長は鳥の巣のような大きな塊

ツンツンミストルテインによる指導

軍に入って早々アリアのために働きたいと○○は発言しています。上司ミストルテインは同じような志の者がすぐに倒れていくことを知っていました。彼の精神力を試すため、無茶な目標を提示します。10周どころか5周(25km)もできれば上出来だと考えていました

結果は44周(220km)、部下の進言を受け入れなかったミストルテインの意地と、アリアを救いたいという○○の意志の強さが為し得た結果です。

 チート能力とかもらってないけど頑張りますサー、エンヤトット。

 

「――ま、たそんな軽々しい発言ッ……他ならぬ私に二度も舐めた態度を取って……ッ! 大体なにがサーイエッサーよ! 言うならイエスマムでしょ!? い、いいわ。そこまで言うんだったらこうしましょう? 新兵のあんたには特別メニューを課してあげるわ、まずは城壁を50周してきなさいな。日が暮れるまでに。フル装備で。そんな事も出来ないのならあんたにディオルドは」

 

 サーイエッサー。ハードッコイショ。

 

「救えないって事。分かる? まあ新兵以下のあんたなら出来て10周でしょうね。ここの城壁の外周はおよそ5Kmだから――っていない!? あ・い・つ……あいつ~~~~~ッッ!! 出来なかったら絶対撃ち殺してやるわ!!」

「好きな人を幸せにする能力【一話完結】『チート: 好きな人を幸せにする能力』」より

○○の適性は凄まじく、ミストルテインも1を聞いて5近くを理解すると評しています。先代アリアドネ隊長が編み出した弾道操作の特別メニューを指導し、敵がヘルメットを被って現れれば、3cm以下の隙間を撃ちぬくよう指示します。自分並を求める無謀な挑戦を、○○はなんとかやりきりました。

地獄のシゴキを耐えきるだけの力を身に付け、半年でミストルテイン隊の副隊長に任命されました。

想いと矛盾したミストルテインの作戦

「まごまごしてたからこうなっちゃうのは当たり前じゃないの。もう今更しらばっくれたりしないで、早く好意を伝えなさいな。アリアも大概鈍感な子よ、言われないと気づかないタイプのね」

「好きな人を幸せにする能力【一話完結】『チート: 好きな人を幸せにする能力』」より

『アリア”も”』には様々な意味が含まれています。アリアを崇拝しているように見えて、本当は大好きだった○○。一途にクリストを見ていて、周囲からの好意に気づかなかったアリア。そして、何よりも○○を鈍感なアリアに気付かれるほど好きだと仕草が示しているミストルテイン

ミストルテインは傍観者の意見を無視して、アリアと○○のデートを取り付けます。しかし、鈍感な2人は共通の友達である彼女を誘って鈍感三銃士の飲み会になってしまいました。

ミストルテインは一度決めたことを守り続ける、非常に初志貫徹が強い少女です。態度を変えることができず、つんつんしたまま終わりを迎えてしまいました。

後々のストーリーでは彼の幸せのために、自分を犠牲にすることを○○から継承してしまっています。願いを守るために部下の信頼を無くし、親友とのつながりが薄くなる。それでも恋を捨てなかったミストルテインへ、傍観者は『呪い』だと評しました。

運命の日

原作でアリアが殺される運命の日。ミストルテインに○○は無理を言って、別動隊として行動していました。目的はアリアを殺した別動隊の壊滅。しかし、それは一騎当千の魔物に狙撃手が単身で挑むことを意味していました

今日憧れのアリアがクリストに告白することも原作知識で知っています。彼女にとって最高の日を描くために、彼は自らを犠牲にしようとしました。「あなたが報われない」ミストルテインの言葉よりもアリアの幸福を○○は選んだのです。

ミストルテインが全てに気が付き追いかけたときには手遅れでした。お嬢様と称された少女の号哭は部隊にも届くほどです。知る機会がありながら防げなかった、後悔以上の想いがあふれ出ていました

主人公の語り口が軽く、読みやすい成り上がり物かと思ったらこの仕打ちです。

『好きな人を幸せにする能力』とミストルテインは名付けたとき、アリアは告白に喜び、ミストルテインは○○を見届けるために悲しみを押さえつけています。彼女の辛さが、好きな人に選ばれなかった事実を突きつけていました

描写が作り込まれている分、心情が大きく揺さぶられ、そして名作と出会えたことへ心が湧きたちました

 自分勝手に生きないで。自分の世界に浸らないで。

 自分以外にもっと目を配って。自分が支えられている事を理解して。

 自分の事を蔑ろにしないで。自分が好かれている事を自覚して。

 それに何より――自分の幸せをもっと願ってよ。

「好きな人を幸せにする能力【一話完結】『好きな人の幸せを継ぐ為に』」より

ミストルテインが○○の遺書を見たときの反応です。会ってから共に過ごした期間、過ごしているうちに変わっていった○○への文句が並んでいます。

どうしてもっと早く気づけなかったのかという後悔、どうして呼んでくれなかったのかという憤怒、何よりも一緒に歩みたかった恋慕の感情が入り混じっていました

決意への冒涜

ミストルテインが自分の心に整理を付けられていない合間も四天王の侵攻は止まりません。

きっかけは亡くなった兄と闘った証言からでした。実体を持った英雄の死体(幽鬼部隊)が毎夜襲い掛かるようになります。特に狙撃技術を持つ死者が劇毒をばらまくことで、被害は迅速に拡大していきました。

彼らは敵四天王の『サモン・アンシエントヒーロー』で仮初の命を貰い操られています。もちろん狙撃手も例外ではありません。正体が分かっているミストルテインは、倒れ行く味方の中見つからないことを祈っていました

それでも限界は来ました。特効薬と引き換えに親友のミーナがやられてしまったのです。アリアを囮に狙撃手を狙う作戦を提案します。

狙撃手がいることでアリアが傷つき、○○の決意を無駄にしてしまう。○○に誓ってアリアを一生幸せにしなければならない。アリアを傷つけるのであれば、狙撃手に意志は残っていない。だから潰す。ミストルテインの心は未だ○○に囚われていました。

そして、銃線から○○を見つけ出したとき、最後の指導が幕を開けました。

「本当に教科書どおりのきれいな狙撃をするじゃないの○○。私も教えた甲斐があったわ……でもね。あんたの狙撃は、

 私は懐から一枚の手鏡を取り出し、ゆっくりと息を整える。

「――最後のレッスンよ○○。アリアドネ部隊隊長の絶技、身を以って知りなさい」

 そして、私はそれを――空高く放りあげたッ!

「好きな人を幸せにする能力【一話完結】『Re:好きな人を幸せにする能力(後編)』」より

○○の死を知って絶望するミーナ。並々ならぬ想いを持って、人を騙す技術を身に付けてまで○○の願いを守ろうとしたミストルテイン。死を知らなくても友人たちの精神が不安定になっていると分かっているアリア。絶望的な精神状態から追い打ちをかけるように、戦況も悪くなっていきます。

ここから作者は見事なまでにハッピーエンドに持っていきます。大半は意識が復活した○○の知識と持ち前の明るさによるものでした。

しかし、○○は既に死んでいて朝日と共に消え行ってしまいます。前回と違ってミストルテインにはある程度の余裕がありました。あのとき中途半端になった想いを伝えて別れを告げる。最期の『――うそつきっ』と美しい朝日という地の文が、少女の霧は晴れたのだと教えてくれました。

まとめ:自己犠牲の少女たちが報われるまで

本作は自己犠牲的な少年少女たちが印象に残ります。誰かを救うために自分を犠牲にする。英雄的行為とも呼ばれますが、死んでまで行う自己犠牲は果たして素晴らしいものなのでしょうか。

○○の死によって崩れていった少女たちの関係が物語の中盤を象徴していました。

「馬鹿が。大馬鹿共が。○○もミストもミーナも履き違えている。ッ。あぁ腹立たしい……ッ、他者を救うために自分を犠牲にすることのどこが素晴らしいんだ、どこが崇高で、どこが尊いというんだッ、自分に酔って、周りを鑑みない独善的な自慰行為をして、どうして幸せが生まれると思うんだ……ッ!」

(中略)

「――生きろよ! いいから生きろよッ! 恥知らずでも、外聞が悪くてもいい、汚くてもみっともなくても見苦しくてもいいから生きろよッ! 生きている限り周りを幸せにする道を、そして何より自分を幸せにする道を探してみせると言ってみせろよッ!」

『Re:好きな人を幸せにする能力(前編)』よりミーナへの俯瞰的な医者の言葉

月兎耳のべる『好きな人を幸せにする能力【一話完結】』は、原作死亡キャラに出会ってその人生を変えるために足掻いた青年を描くファンタジー作品です。

チート: 好きな人を幸せにする能力のタイトル名に反した重たいストーリー展開に、原作を変えようとした青年へ向けられた届かない恋慕。青年たちの生きた証が心に刻み込まれました

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