【負けヒロインが多すぎる！２　感想】知ってしまったその先に

雨森たきび/いむぎむるによる「負けヒロインが多すぎる！２」は恋の争いに負けたヒロイン、負けヒロインが次のステップへ歩みだしていく青春ラブコメディのシリーズです。本作の鍵となる青年、綾野光希は高校生になってから朝雲千早に告白され付き合い始めました。綾野のことが小学校の時から好きだった焼塩檸檬は、恋心を胸に秘めていく予定でしたが……。

今回も東三河に特化した記事を作成予定です。東三河要素を省いた100%のラブコメ模様、鈍感だった少年たちの行く末についてみていきます。

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「負けヒロインが多すぎる！２」小説情報

あらすじ

夏休み後半。
たまたま喫茶店でだべっていた俺と八奈見は、驚くべき光景を目にする。

焼塩と、その思い人である綾野が２人きりで会っていたのだ。
さらには、２人を尾行する綾野のカノジョ――“勝ちヒロイン”朝雲千早ともニアミスしてしまう。

「私は光希さんと焼塩さんの浮気を疑っています」

あれよあれよと巻きこまれた俺たちは、朝雲とともに真相を探ることに。

焼塩にかぎってそんなことはと思う。
でも、２人きりのときの、あの想いがにじんだ顔は――。

負けヒロインが多すぎる！２　BOOK☆WALKER

主要登場人物

温水和彦

ツワブキ高校１年C組のぼっち。ぼっちに達観しており、学校中の水道の味を夏までに覚えきった猛者。趣味はライトノベル。投稿サイトでの評価は思うように伸びなかった。

２つ下にパーフェクトな成績とブラコンを両立する負けヒロイン温水佳樹がいる。

八奈見杏奈

負けヒロインことマケイン１号。袴田とは十二年来の幼馴染で、子供の頃に結婚を誓った仲だった。振られて以降は食事の描写が目立つ女の子。

父親のボーナスがそうめん３０万円分で支給され、そうめん生活に飽きが来ている。

焼塩檸檬

こんがり日焼けした体育会系少女でマケイン２号。Dクラスの綾野光希に惚れていたが、塾で付き合った千早という少女の存在を知り振られる。こうみえても大学教授の孫。

２巻の物語は焼塩が綾野と密会していたことをきっかけに展開される。

小鞠知花

不愛想な文芸少女、マケイン３号。文芸部の部長に惚れていたが、部長が副部長と恋人になったことで振られてしまった。

『久遠ウサギ』として異世界転生の恋愛作品を書いており、総合８位を獲得した。

綾野光希みつき

眼鏡のかけた背の高いイケメン。塾に通っており成績は優秀。温水のことを仲の良い友達と思っており、高い評価を付けている。

朝雲のことを夢を共有できる彼女だと考えている。

朝雲千早

バレリーナのような容姿をしている勝ちヒロイン。綾野・焼塩とは塾仲間の同級生で成績は学年トップ。

発明が得意なストーカー気質で、盗聴器などを自作していた。

「負けヒロインが多すぎる！２」ストーリーPickup

以下、ネタバレ注意です。

休日デート

八奈見杏奈は初恋を諦めていません。しかし、電撃的な恋愛をした２人は別次元の雰囲気で会うたびに暗くなって帰ってきます。その日も温水に愚痴を話すために喫茶店へ呼び出しました。

綾野と焼塩が一緒に歩いて話している。焼塩の楽し気な雰囲気に略奪愛の危機感を覚え、名物のホットケーキを頼まずに追いかけます。途中で不審者朝雲と遭遇し、何故か温水宅で相談会が開かれることとなりました。

「いえ……最初から分かっていました。私、あの二人の仲に割り込んでるって」

　言葉を失う俺と八奈見の前で、朝雲さんはパッと明るい笑顔に戻る。

「だから光希さんの本当の気持ちを見極めて、彼の本当の気持ちが焼塩さんにあるのなら」

　言葉を切って、背を伸ばす。

「――身を引く覚悟です」

「負けヒロインが多すぎる！２『～１敗目～　八奈見杏奈は匂わせたい』」　p.90

朝雲は綾野に告白してから、焼塩と綾野の関係を知りました。だからこそ２人の関係の邪魔をしてしまったのではないかと心配し、後をつけていました。ただし、彼女は綾野にGPSを付けて追跡をしています。温厚で純粋な綾野だから許してくれているような案件です。

朝雲に付き合わされて２人で豊橋駅に潜入しますが、綾野に追い詰められてしまいました・

綾野の真意は朝雲とどこまで関係性を進めればいいか分からないというものです。自分に好意を向けている少女へ他人との恋愛模様を相談する。デリカシーのない行動に、温水も綾野の評価を落としています。一方で誰よりも先に焼塩に相談していることから、幼なじみとして重要視していることも伝わってきました。

　朝雲を庇って、第三者に恋愛相談をしていたと嘘を吐きました。やはり温水のヒロインと最適な距離を維持する能力は優秀だと思います。GPSやストーカーの前科、疑心暗鬼がバレないように、何とかごまかせる程度の嘘に留めています。

気付いているのか、いないのか。綾野はダブルデートに焼塩を入れた５人で遊ぶことを提案しました。

鈍感系主人公の失着

普段の綾野は恋心に鈍感でした。焼塩の気持ちに気付かず、朝雲の嫉妬にも軽く応対しています。しかし、このときばかりは気づいてしまいました。

焼塩の『あたしの惚れた男』という失言をキャッチしてしまいます。すぐに青ざめた焼塩に対して、しばらく置いてから冗談みたいに顔を赤くしてしまいました。これには焼塩もたまらず逃げ出してしまいます。

追いかけようとする綾野を朝雲が引き留めます。友達として大切にする思いと、恋人としての責任。理知的に考えて留まることを選びました。

誰も焼塩を追いかけてくれない喪失感。負けヒロインには逃げた先に想い人が付いて来てくれるハッピーエンドはありません。代わりに向かった自分を執行人だと温水は自嘲しています。何もできなかったとしても、温水の勇気は焼塩にとって救いになっていたのではないかと思っています。

• それから３日間、連絡が付かず陸上部にも顔を出さなかった
• 朝雲の別れるかの相談　いい加減な気持ちではなかった、焼塩が報われないと恋仲を尊重

――ひょっとして綾野が追ってきてくれる。

あいつの中に、そんな小さな細い希望があったに違いない。

どんなに無理でも、すがりたくなる希望。

俺はその希望の灯火を消しにきた執行人みたいなものだ。

「負けヒロインが多すぎる！２『～２敗目～　朝雲千早は惑わせる』」　p.146

それから３日間、焼塩と連絡が付かず陸上部にも顔を出しませんでした。連絡の途絶に一番凹んでいたのは朝雲でしょう。綾野は何も言わなければ友達の焼塩を選んでいた。それだけ２人の関係が深いと改めて知りました。

彼女は別れるかべきか温水に相談します。しかし２つの理由から温水は継続を提案しました。

ワンチャンへかける思い

副部長の提案で、焼塩の実家へ部員ほぼ総出で向かうこととなりました。

宴会が行われて夜も静まった頃、八奈見は焼塩が走っていった姿を見たと温水へ話します。八奈見はもっと積極的に行かなかった焼塩も、恋人を疑った朝雲も両成敗で不干渉を貫くと述べています。一方で盗み取ってしまえばいいと、八奈見自身にも重なる本音をこぼしていました。

焼塩は神社でラップタイムを計り続けていました。温水が来たことを知ると、階段に座ってぽつぽつと語り始めます。

焼塩は想い人が恋愛をしている現実を理解していました。友達として恋愛相談に乗ってあげています。ただ隣にいるだけで楽しく、気を利かせるようになっていきます。しかし、悪い心から『可愛いと思って欲しい』『別れて欲しい』と欲望が湧いてきてしまいました。

焼塩は２人に申し訳なく思い、新城の奥地にまで逃げていたのです。

ほとんど焼塩自身が解決できていた問題です。温水の説得も友達のエピソードを話すだけの簡単なものでした。

「隙あらばワンチャン……そのくらいやりかねない雰囲気がある」

「わんちゃっ?!　それって悪い女じゃん！　ぬっくん、悪い女の友達いるの?!」

　いるんだ。残念ながら。

「だけど二人の仲を壊したくはない。だからその子は、新しい関係を作ることを選んだ。付き合いだした二人を心から祝福できるように、新しい距離感を今もずっと探ってる。自分の好きって気持ちも、側にいたいって気持ちも否定したくないから」

「……言葉は綺麗だけど、その子ワンチャン狙ってるんだよね？」

　うん、多分。

「負けヒロインが多すぎる！２『～３敗目～　振られたことのない者だけが負けヒロインに石を投げなさい』」　p.222

悪い子がいる中で、出てきてしまった感情１つに罪悪感を感じる必要はない。優しい子だと背中を押しました。

物語とは関係ありませんが、八奈見杏奈を友達として扱っている貴重なシーンです。焼塩に思われるくらい温水はぼっちを貫いていました。知人から友達にランクアップしている点、本質をとらえている点がシリーズ通しての成長として描かれています。

恋だと気付けなかった両想い

焼塩は小学２年生の秋、ブランコから飛んで捻挫をしてしまいました。運動を禁止されて暇になった焼塩が、本を読んでいる綾野に絡んだのが始まりでした。綾野は後にガキ大将に絡まれたと話しています。本を読むのは苦手でも綾野に読んでもらうのは心地よいと感じていました。だから足が治っても、理由を付けては一緒に読書に興じています。

焼塩は中２の夏、綾野を追って県内有数の進学校であるツワブキに進学することを決意しました。学内下位の発言にほとんど信じてくれませんでしたが、綾野は的確なアドバイスで焼塩を応援しました。

焼塩は全てを実行し、ツワブキに進学できました。綾野にとって焼塩は一緒に通いたい人であり、それだけ尽くす価値があると考えていました。この時期、気持ちは伝わっていませんが２人は両想いといえます。

しかし、綾野はその気持ちが「恋」と呼ばれるものであることを、朝雲と付き合うまで知りませんでした。

「だってさ、こんなに幸せなことがある？　好きな人が、自分のことを好きだって。それだけであたしは十分幸せだよ」

――たとえ、あなたの傍にいられなくても。

檸檬はその言葉を胸の奥に閉じ込める。

　これは気づいた瞬間に終わった恋だ。

「負けヒロインが多すぎる！２『～４敗目～　焼塩檸檬は口を開いた』」　p.222

まとめ：友達としてのリスタート

雨森たきび/いむぎむるによる「負けヒロインが多すぎる！２」は恋の争いに負けたヒロイン、負けヒロインが次のステップへ歩みだしていく青春ラブコメディです。本作の鍵となる青年、綾野光希は高校生になってから朝雲千早に告白され付き合い始めました。綾野のことが小学校の時から好きだった焼塩檸檬は、恋心を胸に秘めていく予定でしたが失言で伝わってしまいました。

最終的に両想いだったこと、これからも友達であり続けることを２人は決意します。いい子の焼塩は奪うことをせず、２人の恋路を応援することを選びました。挿絵の笑顔と綾野との契りは彼女の性格らしい、さっぱりとした読了感を出しています。

３巻では初期から文芸部にいた小鞠知花に焦点が当たります。諦めないことを選ぶ、友であり続けることを誓う。年の差ゆえの離別がある小鞠はどう答えを出すのでしょうか。