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【ステラ・ステップ2巻 感想】相棒と見つけ出した自分だけの”心の色”
林星悟/餡こたく「ステラ・ステップ2巻」は離れ離れになった2人が、再び集い自分だけの心の色を探し出すライトノベルです。名前を奪われたアイドルが、資源を奪い合う〈道具〉として戦わされる。独特の世界観で物語が繰り広げられます。作者は本作のジャンルを定めず、読者の思うままで良いと語るほど多くの要素を含んでいました。
2巻はフレアが幾度となくレインに挑んだ裏事情などが描かれます。『鉄の国』はかつてのレインが欲しい。無知なハナはレインの隣にいたい。知ってしまったレインはハナを救いたい。すれ違った想いがどう執着するかが見どころです。
共心石の真相を始め、とにかく読者の感情を激しく揺さぶるシリーズです。絵柄や淡い百合展開に興味を持った方以上に、絶望の中で輝く少女たちを見たい方におすすめしたいと考えています。
読みどころ3選
- 鉄の国の独裁国家による弊害
- Rein×Carnationの残り火
- レインが見つけた自分の色
目次
「ステラ・ステップ2巻」小説情報
あらすじ
〈暴力〉に置き換わる〈道具〉として少女たちが戦う世界。
レインはハナの真実に心がついていけず、彼女とまっすぐに向き合うことができずにいた。
彼女の心とは無関係に、戦舞台で敗北した2人を『鉄の国』へ運ぶ心動車。
だが、彼女たちを乗せた車は突然止まり、1人の少女を降ろして再び動き出す。「と、止まって……置いてかないで……」
ハナと離ればなれにされてしまったレインはひとり、悩みながらも〈道具〉として歌い、踊る。
一方、研修生としてレインと引き離されたハナにも笑顔の裏に知らなかった感情が芽生え――。
紅く暗い『鉄の国』。
ステラ・ステップ2|ステラ・ステップ|書籍|MF文庫J オフィシャルウェブサイトより引用
“彼女”が隣にいない世界で、キラキラを探す少女たちが紡ぐ絆と愛の物語。
主要人物
レイン(天地 愛夢)
藍色のショートヘアをした、感情が希薄な15歳の少女。戦舞台で無敗の伝説を打ち立て、砂の国で最強の『アイドル』だった。共心石の波動は青色。
ハナと離れ離れになって普段より実力を出せていない。
ハナ(鈴木 花子)
ピンクブラウンの髪と七色にきらめく瞳を持つ少女。見る価値がないとされるレインのライブを、楽し気に観戦していた。共心石の波動は薄紅色。
訓練生が集う『鉱組』に配属される。研修番号1178番。劣悪な環境でも彼女のきらめきは薄れていない。
フレア(高町 燦)
鉄の国で屈指のアイドル。燃えるような技術と心に灯した炎をもってレインによる犠牲を減らしていた。Rein×Carnation(レイン&ハナ)に勝ったことにより、2人を鉄の国に輸送する。
かなりのお人好しで、鉄の国に慣れていないレインたちをサポートする。
ランタン
鉄の国でハナの指導役となった少女。研修番号1136番。脱走癖のあるハナを助け続けた聖人で、底なしに明るい姿に惹かれていった。
フレアの支えになりたいという祈りから、ランタンと名付けた。
舞台背景
70、80年前に隕石が落ちてきて、国家がバラバラになった世界です。数年後に隕石辺の破片から、『人の感情に反応してエネルギーを発する性質の石』共心石が発見されました。
本作の鍵となる共心石は、感情によってエネルギーを産み出します。故に『橋の国』はエネルギープラントとして、アイドルの定期ライブを考案しました。
国家間で貧富の格差が問題になっていたころの出来事です。資源供給量を左右する『橋の国』の国際大会は、闘争に変わる戦争と扱われます。
光り輝くアイドルは戦争のための道具『アイドル』となり、ライブは武力を誇示する戦舞台となり果てました。
目的は他国の兵器に勝つこと。判定基準はどれだけ上手に動きをなぞれるか。
『アイドル』は誰からも愛されていません。勝敗だけ分かればいいからです。エネルギープラントとして、資源争いの道具として、今日も戦舞台は繰り広げられます。
「ステラ・ステップ 2巻」ストーリーPickup
以下、ネタバレ注意です。
鉄の国の弊害 兵器としてのアイドルの生産
鉄の国は設備を徹底的に差別しています。他国と戦う『鉄組』は入った途端家具一式が揃った個室を案内されます。施設も豪華な作りとなっていました。
一方、訓練生が集う『鉱組』はボロ小屋で集団生活を強いられます。周囲も鉄条網で囲まれており、外から情報が侵入することを防ぐ仕組みとなっていました。
ただし、鉄の国が求めるアイドルは『かつてのレインを理想とする』淡々と戦舞台を遂行する兵器です。教育方針も兵器思想が反映された過酷なものとなっています。
- 1vs多数のダンス訓練……歌は1だけが歌い、曲が終わるごとに徹底的に非難される。喉が潰れたら交代。
- 名前の否定……『鉱組』のメンバーは研修番号〇〇番と呼称されていた。アイドルとしての名前を持てることにインセンティブを与えるのが目的とされる。人間としての名前は常に否定されるが、これは砂の国も同じだった。
- 敗北の否定……戦舞台で敗北したもの、総帥にとって不甲斐ない演技をしたものを『特別訓練場』へ1週間送り出す。『特別訓練場』は巨大な赤の共心石の直近にあり、ずっと踊らせ資源として消費することでエネルギーを生産する。共心石の近くにいる都合上、急速に星眩みが進行してしまう。
- 戦舞台を主催する『橋の国』は鉄の国の教育方針をどう思っているのか
-
戦舞台によるエネルギー生産が減ったと否定的。盛り上がりに応じて大量の感情エネルギーが得られた旧来のアイドルと違って、今は敗者1人の絶望分しか得られなくなっている。彼らが理想とする『万感の感情』はハナのスタイルに非常に近い。鉄の国と真逆の方針であるハナの活躍を期待し、何らかを企てている。
- レインのスペックをよりあげることができたのか
-
隔離的かつ差別的な訓練によってむしろ低下している。差別的な環境変化、寂しさによって落ちているのも挙げられる。しかし、最大の要因はハナをアイドル以下と扱い隔離したことにあった。快復しつつあった星眩みを再発させかけ、対戦相手を壊すかもしれないという葛藤が不甲斐ない演技をする結果となった。
砂の国で最も戦いたくない相手
『鉄の国』のレインにとって初戦は、クローバー(日吉 早幸)になりました。2人に授けるためにクローバーは一度降りた舞台に上がることを決意し、演目表の名を見て様相を察していました。立ち上がったクローバーを蹴落としてしまうかもしれない。勝ち負けが決まって欲しくないという思いに囚われ、自由曲に身が入りません。
レインの葛藤は『グッドラック』と名付けられた自由曲によって晴らされます。40曲の自由曲に名付けていて、一番長い付き合いのクローバーの曲に名前を与えていなかった。自分が心無い偶像になっていたことを悔やみ、今からでも向き合うことを選びます。
課題曲19番、宝物のスコアブックに記した『ワンダーナイトウェイ』を告げる声が重なりました。
勝ち負けなんて余計なこと、今は考えなくていい。
……たった一人でステージに立つことが怖い?
違う。一人きりのステージなんてない。戦舞台には、必ず相手のアイドルがいる。
そしてそれは、倒すべき敵なんかじゃない。
ステージの上、一緒に歌う仲間のはずだ。
きっと、クローバーも同じ気持ちでいてくれている。
ステラ・ステップ2「第二章 不安は風に乗って」p.115
1巻で行われたRein×Carnationとフレアの戦舞台は2人の少女に届いていました。1人はレインの、1人はハナの。ごく僅かとはいえ、この世界に失われた『ファン』が復活しました。少女たちは一対の指輪をレインに手渡します。共心石がはめ込まれた指輪は、星眩みを恐れハナとの別離を悲しむレインを立ち直らせるきっかけになりました。
この後レインは総帥の指示で特別訓練場へ送られてしまいます。そのときも小さな指輪がハナとの再会を誓う支えとなっています。
煌めいてしまった灯火
フレアにはセレナという、星眩みから治して欲しい少女がいました。かつて2人で特別訓練場に送られ、セレナの犠牲によってフレアはアイドルとして生きています。『橋の国』の星眩みを治療する場所へ、戦舞台の賞金を渡していました。そんな経緯からフレアは特別訓練場の共心石の赤色を最も嫌っています。
フレアはハナが星眩みの特効薬として設計されたと知っていました。レインに代わってハナを完成させるため、製作者の一花母と共謀します。まず『鉱組』への技術指導という名義で、ハナのいるグループに近づきました。希望を灯すため、『鉄の国』の意に反したほめる指導を重ねます。さらに少女たちに夢となる名前を付けることを認めました。
ハナの灯火は瞬く間に伝染していきました。1人1人と希望を信じ旧来のアイドルのような明るさを身に付けていきます。技術指導の集大成として、彼女たちはフレアに知らせず街中でゲリラステージを行いました。アイドルは人ではなく兵器である。『鉄の国』を独裁する総帥にとって、民の意志が揺らぐことを許してはなりません。
無期懲役の特別訓練場行きを命じる。実質上の死刑宣告をするほど、総帥は度し難い行動だと判断しました。
星眩みとは
『星眩み』は感情を失っていく病です。原因は共心石の光とされ、強い恐怖や絶望を感じることで一層悪化します。その性質上、共心石の採取業者や共心石に 囲まれながら戦うアイドルがなりやすい病です。
現実の精神病と違って、『星眩み』患者は最終的に死に至ります。初期は感情が乏しくなるだけですが、いずれ記憶が欠けていきます。体の動かし方も忘れていき、最終的に共心石になり果ててしまいます。
戦舞台で並べられている共心石は絶望した『アイドル』の成れの果て。治療法があると豪語する『橋の国』がやっていたのはただの廃品リサイクル。
フレアは『橋の国』の真相を知らなかった。
『太陽』に立ち向かえる、たったひとつの色
ハナたちが特別訓練場に訪れたとき、レインは疲れ切っていました。一緒に歌ったら特効薬に近づいてしまうことを分かっています。それでもレインはハナと歌いたいと心の奥底から思いました。ハナの七色の瞳に向き合い、自分の色を見つけたと告げます。何も分からなかった初期からの成長を感じさせました。
選んだのはレインの自由曲。ハナが憧れたきっかけの曲ですが、当時からの踊り方の違いが印象に残ります。
「……『雨彩明路』」
昼も夜もない、星空も見えない真っ赤な地獄で、レインが見出した「自分の色」。
沈むことなく輝き続ける『太陽』に立ち向かえる、たったひとつの色。
虹よりも多彩で、夜よりも自由で、鏡より正直な、レインのキラキラの色。
ステラ・ステップ2「第四章 心の色に輝いて」p.227
巨大な赤の共心石の色『紅の太陽』に照らされた世界が青色に輝き、鉄でできた床に花が咲く。訓練生たちは再びの軌跡を目の当たりにしました。曲の終わり、レインはハナに向き直って手を差し出すように言います。きょとんと出された左手の薬指に預かっていた指輪をはめ込みました。
『鉄の国も、特効薬も関係ない』
もう一度2人でステージに立つ。レインの決意が実るのはもう少し先のお話でした。
「ステラ・ステップ2」まとめ:壊すべき世界
Rein×Carnationの舞台は工場にも影響を及ぼしていました。絶望よりも希望の方が多くのエネルギーを生産する。奇跡がもたらした過負荷によって大人たちは対応を迫られています。秩序を守ってきたフレアにとって、Rein×Carnationは災害にも等しい脅威でした。
セレナを見捨てた自分は人間ではない。国の言うとおりになって破壊してきた。屋上から突き落とせば、今までの鉄の国を守れる。フレアの心は自分への憎しみとセレナへの憧れに満ちていました。
それはフレアを支えてきたシズ、ではなく総帥の側近であった賤々岳が許しません。
「……セレナは治療院にはいないっす。……『赤の一票』。あの共心石が、セレナっす」
フレアの最後の支えを、粉々に圧し折る真実を。
ステラ・ステップ2「第四章 心の色に輝いて」p.242
『フレアを諦めたのか? 賤ヶ岳』
「あのままでは、フレアがレインとハナを害する危険性が高かったので、緊急措置として例の件を伝えました。……それにフレアの精神は、もう限界です。これ以上の運用は不可能と判断します」
『そうか。フレアの管理はお前に一任している。その判断を尊重しよう』
ステラ・ステップ2「第四章 心の色に輝いて」p.246
1巻で決着をつけた『赤の一票』、その正体が亡くなったセレナでした。拠り所を失ったフレアは一花以上の星眩みに陥ってしまいます。
淡々とランタンをフレアの代替とする。レインたちを軽度の星眩みの回復施設として使う。逆らえないことを利用して、鉄の国のためにライブ方針を決める。
総帥はRein×Carnation、花の国が目指す理想と真逆の位置にいました。
たった今欠けたフレアの穴を、別の戦力で補填するための、あまりに無慈悲で機械的な命令。
その態度を受けて、レインは確信した。
この男が、私たちの「壊すべき世界」そのものだ。
ステラ・ステップ2「第四章 心の色に輝いて」p.254
林星悟/餡こたく「ステラ・ステップ2巻」は離れ離れになった2人が、再び集い自分だけの心の色を探し出すライトノベルです。名前を奪われたアイドルが、資源を奪い合う〈道具〉として戦わされる。独特の世界観で物語が繰り広げられます。作者は本作のジャンルを定めず、読者の思うままで良いと語るほど多くの要素を含んでいました。
2巻はフレアが幾度となくレインに挑んだ裏事情などが描かれました。今回は総帥にとって大勝利といってもいい状況です。最強の兵器フレアを超えるものを手に入れ、使い捨ての道具に再利用の手段が生まれました。この後、レインとハナがどう反逆していくのか見ものです。
絵柄や淡い百合展開に興味を持った方以上に、絶望の中で輝く少女たちを見たい方におすすめしたいと考えています。
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