【ステラ・ステップ 感想】アイドルが戦争の〈道具〉と化した世界への特効薬

広告

この記事には広告が含まれます。

著者:林星悟、イラスト:餡こたく『ステラ・ステップ』の感想記事です。名前を奪われたアイドルが、資源を奪い合う〈道具〉として戦わされる。独特の世界観で物語が繰り広げられます。

感情をどこかに置いてきてしまった最強のアイドル・レインは、ある日感情豊かに歌う少女・ハナに出会いました。ハナとの交流によって再び芽生えるレインの感情。『アイドル』の価値と隠された真実

本作はとにかく読者の感情を激しく揺さぶる作品です絵柄や淡い百合展開に興味を持った方以上に、絶望の中で輝く少女たちを見たい方にオススメしたいと考えています。

読みどころ4選

  • 『アイドル』が戦争の〈道具〉と化した独特の世界観
  • 壊れない人形になりかけたレインの変化
  • 救いどころがほとんどない真実
  • 世界にアイドルの輝きを届けたい少女たち
目次

「ステラ・ステップ」小説情報

あらすじ

少女たちが強いられたのは〈道具〉として、――ただ歌うこと。

突如飛来した隕石により地上は荒廃。人々は新しい国家を建て、闘争や略奪を繰り返していた。
国家間の戦争の手段として「暴力」と置き換えられたのが、少女たち「アイドル」だ。
砂漠で覆われた「砂の国」に、国民からは崇められ、少女たちからは恐れられているアイドルがいる。
技術を高めることだけに関心を持ち、感情はどこかに置いてきてしまったかのような少女・レイン。
最強を誇る彼女の無敗記録はずっと続くはずだった。
だが、感情豊かに歌う少女・ハナによってその記録は止められる。
このハナとの出会いは、レインの胸にこれまで知らなかった感情を芽生えさせ――。

色のない世界で生まれた、少女たちの愛と絆の物語。

ステラ・ステップ|書籍|MF文庫 オフィシャルウェブサイト

主要人物

レイン(天地あまどころ 愛夢あめ

藍色のショートヘアをした、感情が希薄な15歳の少女。戦舞台ウォーステージで無敗の伝説を打ち立て、砂の国で最強の『アイドル』とされる。共心石シンパシウムの波動は青色

決められた動きと寸分違わぬ動作を体に染みつけた。代わりに飲食を忘れるくらい日常に興味のない姿勢は、もはや偶像アイドルに近いといえる。

ハナ(鈴木 花子)

ピンクブラウンの髪と七色にきらめく瞳を持つ少女。見る価値がないとされるレインのライブを、楽し気に観戦していた。共心石シンパシウムの波動は薄紅色

音程は外れ、踊りはぎこちない。しかし、周りを盛り上げようと歌う姿勢はまさしくアイドルである。

プロデューサー(天地 大志)

砂の国のプロデューサーの1人。最強の『アイドル』であるレインを輩出した。後続に恵まれず、担当はレインだけになってしまっている。

鈴木一花を壊してしまったことがトラウマになっている。

クローバー(日吉 早幸)

天地事務所の新人スタッフ。兄から貰ったバイクを使った運搬など、レインたちを支える。

本来は天地事務所の元アイドル。成績が振るわず、第一章で国から引退を通告された。

舞台背景

70、80年前に隕石が落ちてきて、国家がバラバラになった世界。数年後に隕石辺の破片から、『人の感情に反応してエネルギーを発する性質の石』共心石シンパシウムが発見された。

新資源を活用する技術を見出した国家は、『橋の国』を名乗り各地の復刻を支援した。

砂漠と化した国家『砂の国』、機械生産に長けた独裁国家『鉄の国』が中心。他にも『霧の国』『森の国』が確認されている。

「ステラ・ステップ」ストーリーPickup

以下、ネタバレ注意です。

『アイドル』という意味の変化

隕石で国が滅んだとき、世界を照らす光を放った少女たちがいました。彼女たちアイドルは、人々を勇気づけるために国を越えて無償のライブを行います。アイドルはこの世界の人たちが再起するきっかけとなりました。

本作の鍵となる共心石シンパシウムは、感情によってエネルギーを産み出します。故に『橋の国』はエネルギープラントとして、アイドルの定期ライブを考案しました。

国家間で貧富の格差が問題になっていたころの出来事です。資源供給量を左右する『橋の国』の国際大会は、闘争に変わる戦争と扱われます。

光り輝くアイドルは戦争のための道具『アイドル』となり、ライブは武力を誇示する戦舞台ウォーステージとなり果てました

目的は他国の兵器アイドルに勝つこと。判定基準はどれだけ上手に動きをなぞれるか。

本作の開始時点で、『アイドル』は誰からも愛されていません。勝敗だけ分かればいいからです。エネルギープラントとして、資源争いの道具として、今日も戦舞台ウォーステージは繰り広げられます。

一瞬を咲き誇るハナと星明かりをさえぎるレイン

プロデューサーが怒り方を忘れてしまったレインに休暇を命じました。早幸は無気力だったレインへスカウトの試験官を頼みました。

小さなステージのうえで、レインとハナは出会います。

レインは何百何千何万とレッスンを繰り返し、動きの全てを体に刻みつけました。『私なら、絶対に壊れないお人形になれるよ』 かつての決意を体現するように、レインのステージは理想を再現します。

ハナのステージはレインのものと全く違いました。振り付けと関係ない方へ顔を向けるからダンスが滅茶苦茶になる。感情を乗せようとするから時々声が不必要に上ずってしまう。減点要素がたくさんあるのに、レインにとってハナの舞台は不思議と魅力的に映りました

舞台袖の共心石シンパシウム薄紅色に輝いて。人知れずレインの無敗伝説は終わりを告げました。

レインにはそれが歌に聞こえなかった・・・・・・・・・・・・
ひとつひとつの言葉を、慈しむように紡いでいく、そんなものが。
レインにとって歌詞というものは、特定の音程と長さと子音と母音を伴った音の連なりでしかない。意味を伝える必要などないから、言葉とは本質が違う。
それなのにハナは、まるで歌詞が言葉であるかのように。
優しく、柔らかく、語り掛けるように歌っている。


「ステラ・ステップ『第一章 砂漠に振る雨』」より

レインはどうして自分が負けたのか分かりません。お茶会に応じれば分かるかもしれない。ハナの誘いに乗って、彼女の家を訪ねることになりました。

ハナがアイドルになりたいと考えたきっかけは、1枚の写真でした。隕石が落ちる前のライブの1シーン。キラキラしたアイドルがステージに立って、観客が色とりどりのサイリウムを振っている。

みんなにキラキラを届けたい、とハナは熱弁します。レインはそれが心の底から良い夢のように思えました。今まで感情を捨ててきたレインから感情が戻ってきた瞬間です。ふと湧いた思いを『知らない何か』ととらえたところが、捨ててきた期間の長さと異常性を物語っていました。

彼女の家には七色の花が咲き乱れる花園がありました。花園で出会ったハナの瞳は緑色の光を映しています

共心石の真実と『星眩み』

元アイドル鈴木一花とレインの再会は悲しい現実を突きつけるものでした。壊れた人形のように少女は動かず、瞳は虚空を映しています。ハナが一花へ語り掛ける中、一花の母親の椿によって病を伝えられました。

『星眩み』は感情を失っていく病です。原因は共心石シンパシウムの光とされ、強い恐怖や絶望を感じることで一層悪化します。その性質上、共心石シンパシウムの採取業者や共心石シンパシウムに 囲まれながら戦うアイドルがなりやすい病です。

現実の精神病と違って、『星眩み』患者は最終的に死に至ります。初期は感情が乏しくなるだけですが、いずれ記憶が欠けていきます。体の動かし方も忘れていき、最終的に共心石シンパシウムになり果ててしまいます

戦舞台ウォーステージで並べられている共心石シンパシウムは絶望した『アイドル』の成れの果て。治療法があると豪語する『橋の国』がやっていたのはただの廃品リサイクル。負の側面は『アイドル』に隠されていました。

  • 日常生活に無関心
  • 表情の変化が希薄
  • 周りにいたアイドルの顔を覚えられない

今まで読者が思っていたレインの性格は、病気による影響が含まれています。プロデューサーがレインへ休暇を命じたのも、彼が『星眩み』の兆候を感じ取ったからでした。

しかし、レインはハナと歌うことで少しずつ感情を取り戻していきます。そして、自分がどれだけ『星眩み』を産み出していたかを自覚してしまいました。

 止まらない歓声と拍手、終わらないステージ。リハーサルの日、ハナと立ったステージの光景を、彼女の言葉を思い出す。
――すっごく、すっっっっごく、楽しかったです!
「……私、もしかして『楽しかった』のかな……?」

「ステラ・ステップ『第三章 止まない雨に花束を』」より

少年少女の前でパフォーマンスしていたとき、ハナの瞳は青く煌めいていました

砂漠に雨を降らし、花を咲かせて

レインは『星眩み』の事実に打ちひしがれて、花園から逃げてしまいます。大切なものに気付いても、雨は雲に戻れない。わずかに取り戻した心へ罪悪感が降り注ぎました。

ハナはレインと歌えることを楽しく思っていました。彼女にとってレインは憧れで、レインと繋いだ手を離したくありません。ハナはレインを捕まえて、もう一度一緒に歌おうと提案しました。


作者は本作のジャンルを定めず、読者の思うままで良いと語っています。もしこの作品が百合ファンタジーならば、このシーンがピックアップされるだろう。『砂の国』の砂に共心石シンパシウムが含まれていたからこそ起こる、幻想的で煌びやかな奇跡が2人を包みました。

恵みの雨が降り注ぎ、砂一面の世界に花が咲き誇る

雲に置いてきてしまった感情も帰ってきました。記憶を取り戻した少女はかつての夢を思い出して、再起を誓います。

レインの努力とハナの笑顔で世界を変える。ステージしか見られなかった少女は、未来への願いを抱けるまでに回復しました

奇跡を起こしたとき、ハナの瞳は七色に輝いていました

奇跡を起こしたとき、ハナの瞳は七色に輝いていました

Rein×Carnation 世界を壊す歌

戦舞台には「ユニットは勝てない」というジンクスがあります。1人では気づかれないようなズレが、隣に誰かがいると目立ってしまうからです。それでも、世界と戦うため、奇跡を起こすため、少女たちはユニットで舞台に上がることを選びました

ユニット名はRein×Carnation。レインとハナの名前を掛け合わせ、世界を再起させる願いが込められています

対戦相手に選んだのは、プロローグでも戦っていた『鉄の国』のフレアです。フレアであれば絶対に壊れないから安心できる。同事務所のアイドルすら忘れていたときから変わったと感じさせる、フレアへの素直な敬意でした。

「……私、戦うよ・・・。アイドルとじゃなくて、アイドルを道具みたいに利用しようとする人たちと……そんな世界と戦う。それで、一人でも多くのアイドルに、あなたとのライブ楽しかったよって伝えるの。それが私の戦舞台ウォーステージなんだって思うから。……それにね」
浮かべるのは、不安を流し去るような力強い笑み。
「誰にも負けないアイドルになりたいって『夢』も、大切にしたいの」

「ステラ・ステップ『第四章 戦場に虹は歌い』」より

Rein×Carnationとフレアの戦舞台は、本作でも特に細かく書かれています。フレアは今までで一番洗練された熱量を放出し、Rein×Carnationは目の前にいない観客に向けて心を込めて。それぞれに数ページを割いた描写は、方向性の異なる奇跡を感じさせるものでした。

かつてない膨大なエネルギーを発生させた戦舞台。共心石シンパシウムの票は『鉄の国』の赤『花の国』の白に2分されました。

勝負を分けたのは『赤の一票』。とある少女が託した願いが互角の勝負に決着をつけました。

とある少女ことセレナの願いは『ステラ・ステップ』2巻にて明かされます。

まとめ:世界を救う特効薬

『アイドル』は人ではなく、兵器として扱われます。故に戦利品としてレインとハナは『鉄の国』へ送り届けられることとなりました。

17回も戦ったのに全く話したことのない。ハナを迎えに行く最中、護送車の中でレインとフレアは会話を交わします。レインは初めての敗北を乗り越えた成長を、フレアは世話好きの印象を、それぞれ感じさせられるシーンでした。

「…………っ、あんた、本当に変わったわね……前はもっと、冷たくて、無感情で、底知れないアイドルで……そんな柔らかい笑顔、絶対誰にも見せるわけなかった」
「…………そんな風に思われてたんだ、私」
「お互い様でしょ」
「私が変わったなら、それは間違いなくハナと出会ったおかげだよ」


「ステラ・ステップ『エピローグ 花に降る雨』」より
物語の根幹にかかわる重大なネタバレが含まれます

ハナの正体は一花の正の感情を共心石シンパシウムにコピーして創られた人形です。内臓から瞳まで共心石で作られており、瞳の色が場面場面で違う描写が為されていました。製作者椿の目的は、前向きな感情を結晶の中で成長させて一花に還元することです。そのためには『負けて悔しい』というノイズは要りません。

レインが戦舞台に不要なものを置いていったように、一花の治療に不要なものをそぎ落とす。母親のスタンスはかつてのレインと重なっていました

ハナと心を重ねて歌うほど薬は完成に近づくが、完成してしまえばハナは死ぬ。『最悪のシステム』だとレインは考えています。それでも、天地愛雨はハナを救うことを諦めません。

愛夢が得た願いと記憶を消されたハナの立場が、物語初期から逆転していました。

著者:林星悟、イラスト:餡こたく『ステラ・ステップ』の感想記事でした。ストーリーが進むにつれてレインの心に色が付いていく描写が光ります。一方で2人の道中はとても順調とはいえません。独裁国家に敗北し、兵器として『鉄の国』に送りだされてしまいました。

2巻はフレアが幾度となくレインに挑んだ裏事情などが描かれます。『鉄の国』はかつてのレインが欲しい。無知なハナはレインの隣にいたい。知ってしまったレインはハナを救いたい。すれ違った想いがどう執着するかが見どころです。

共心石の真相を始め、とにかく読者の感情を激しく揺さぶるシリーズです絵柄や淡い百合展開に興味を持った方以上に、絶望の中で輝く少女たちを見たい方にオススメしたいと考えています。

あわせて読みたい
【ステラ・ステップ2巻 感想】相棒と見つけ出した自分だけの”心の色” 林星悟/餡こたく「ステラ・ステップ2巻」は離れ離れになった2人が、再び集い自分だけの心の色を探し出すライトノベルです。名前を奪われたアイドルが、資源を奪い合う...
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次