【僕らは『読み』を間違える 感想】ひねった感想と青春の読み外し

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水鏡月聖「僕らは『読み』を間違える」は1年前の未練を追いかけた3人を中心にしたライトノベルです。信条を定めた後に両思いだと勘違いした。一言が足りずに恋人を失った。素直に想いが伝えられず片思いのまま道を違えた。偶然出会った3人にトラブルメーカーの太陽少女を加えて、かつての未練へと向き合っていきます

彼らは事件の裏にある恋心を『読み』違えていきます。けれど勘違いによるコメディではありません。作者はミステリーと評していますが、私は青春劇ととらえました。本と絡めた群像劇が好きな人、絡み合った青春模様が好きな人へオススメします

読みどころ3選

  • 文豪作品への尖った感想・推理
  • 登場人物に合わせた本の選定と読了後の変化
  • 青春らしさ感じる恋の『読み』違え
目次

小説情報

あらすじ

学生という生き物は、日々「わからないこと」の答えを探している。明日のテストの解答、クラス内の評判、好きなあの子の好きな人。かく言う僕・竹久たけひさ優真ゆうまも、とあるというに直面していた。消しゴムに書かれていた『あなたのことが好きです』について。それは憧れの文学少女・若宮わかみやみやびとの両想いを確信した証拠であり、しかしその恋は玉砕に終わった。つまり他の誰かが? 高校に入学した春、その”勘違い”は動き出す。「ちょうどいいところにいた。ちょっと困っていたとこなんだよ」太陽少女・宗像むなかた瀬奈せなが拾い集めてくる学園の小さな謎たち――それらは、いくつもの恋路が絡み合う事件ミステリーだったんだ。

水鏡月聖「僕らは『読み』を間違える」、角川スニーカー文庫(2022)のあらすじを引用

登場人物

竹久 優真

主人公かつほとんどの章での視点人物。中学生のとき若宮雅に片思いしたことをきっかけに読書家になった。彼が皮肉めいた推察をするのも、若宮雅に認められたことが始まりである。

鳩山からは良い所を持っていく凄い人、黒崎からは罪を解ったうえで支持してくれる優しい人と思われている。肯定感は比較的低く、恋模様へは鈍感といえる

黒崎 大我

もう1人の主人公。完璧であることを親から求め続けられた青年。中学生のとき葵と付き合っていたが、周りの非難に対応できずに別れてしまった。

葵との再会をきっかけに更紗と付き合う。

笹葉ささば 更紗

成長していく系ヒロイン。中学生のとき好きな人がいて図書館へ通い続けていたが、素直な気持ちを伝えられずにいた。

黒崎と付き合ったのは、完璧な人相手ならば初恋の記憶を消せると思ったから。

宗像 瀬奈

トリックスターのような他称太陽少女。更紗の友達で調理科に所属している。

入学式初日に竹久と出会っているが、そのことを思いだすまで数か月かかった。

2巻時点では彼女視点が意図的なまでに省かれている。彼女が本をほとんど読まないことが理由の1つだと推測される。

3人+1人以外

葵 栞

漫画研究会の部長で高校2年生。R18のBL作品を愛しており、同人誌の業界では壁サークルとなっている。

黒崎と別れて以来、友達を必要としなくなった。

鳩山 遥斗

竹久の中学時代の友人。若宮雅に片思いしており、自筆の小説を紙飛行機として飛ばしていた。

照れで恋のきっかけをつぶしてしまう、葵に目を付けられ売り子になるなど可哀想な少年。

若宮 雅

竹久、鳩山が中学生のときに片思いしていた文学少女。現在は進学校に通っている。

竹久からの告白は断ったが、今でも同じ電車に乗って話し合うくらいには仲が良い。

マスター

タルトタタンが有名な喫茶店のマスター。かつて小説家を目指していたことがあり、自作の小説を竹久に見せる。

俯瞰的な大人として主人公たちを支える立場。彼の経歴は2巻で触れられた。

「僕らは『読み』を間違える」ストーリーPickup

以下、ネタバレ注意です。

結末は導かれず、解釈は定まらない

芥川龍之介『蜘蛛の糸』でカンダタはどうするべきだったのか?

本作は1冊の本をきっかけに変化していく日々をつづった物語といえます。第1章で栞が竹久へ聞いた暇つぶしのような使い方もあれば、第6章のように人間関係にメスを入れるものや、第3章・第7章のように過去を振り返るきっかけを作るような用途までありました。

感想は数学のように1つに定まった結論がありません

  • そもそも蜘蛛を殺さないだけで、チャンスが与えられたのがおかしい。初めから出口などなく諦めるべき(中学時代の竹久)
  • 欲深さより、楽観的なままに上るべきだった(竹久)
  • 悪事でも目に留まることが大切。烏合の衆に足をすくわれなければよかった(栞)
  • 糸が切れる心配をするなら、下にいる人たちを落とすより上り切ることに専念するべき(瀬奈)

本作のトラブルの大半は、解釈の違いに起因しています。過去の積み重ねが生んだ感想が誤解を招く。本の感想を通じて徐々に関係が進んでいくさまが、「僕らは『読み』を間違える」屈指の魅力だと考えています

追究し過ぎた少年少女たち

本作の主要人物3人はスタイルにこだわり過ぎて何かを失っています

竹久優真は蜘蛛の糸の感想を初恋の少女に褒められて以来、ねじ曲がった発想を美徳としていました。瀬奈たちにもひねくれたな性格と扱われています。黒崎に贈った本『グレート・ギャッツビー』を深読みされて、黒崎の人間関係を変えてしまうきっかけになりました

黒崎大我は周囲に関係性を非難されたときに栞を褒められず、別れてしまった経歴を持っています。それでも栞を諦めることはなく、学歴のルートを外れてまで追いかけました。それでも自己が薄いと卑下して、栞の拒絶と劣等感から更紗に告白しています

笹葉更紗は初恋の男の子に、消しゴム越しのメッセージしか送れませんでした。偶然2人とも有名進学校に落ちて、滑り止めの芸文館高校に進学します。運命の出会いなはずが、彼=竹久は気づいてくれません。運命に浮かれて加減をせず努力をし過ぎて、別人のように変わっていたからです。入学式から1週間後に瀬奈から指摘されるまで、更紗は見落としていました。

同じ高校に通うことになった瀬奈はいろいろウチに気を遣ってくれた。『サラサはとっても美人なんだからもう少し気を遣わなきゃだね!』そう言ってウチにメイクの仕方を教えてくれた。髪も明るい色に染めて、眼鏡もコンタクトレンズ、しかもカラー入りにした。ダイエットにだっていくらか成功した。


「『ティファニーで朝食を』(カポーティ著)を読んで 笹葉更紗」より引用

糸を繋げたかった3人+1人の邂逅

正体に気付かれなかった更紗は、竹久と交流を結びたいと考えていました。春の文化祭(部活の勧誘会)で誘うことを決意します。しかし、照れて緊張していた彼女は回りくどい手段を取ってしまいました

  1. クラス1のイケメン黒崎と友達なことに注目して、竹久を誘う口実にする
  2. 男女の人数を合わせるため、瀬奈を連れていく
  3. 適当なところで瀬奈と黒崎を2人きりにする
  4. 残った2人で会話を弾ませる

竹久視点だと、明らかに黒崎を意識しているようにみえます。そもそも更紗と自分を場違いだと考えており、黒崎の名を聞いて納得しました。しかし、律儀に約束を守ったことで、竹久は入学式に出会った瀬奈と運命の再会を果たします

運命の出会いを果たしたかった少女が、想い人の運命の出会いの運び手となってしまいました。竹久自身も変わり果てた文学部の姿と栞の性格に振り回されます。2人+瀬奈の部活は関係性を他の人に邪推されるようになりました。

黒崎視点は、竹久と仲良くなるきっかけとして応じました。元カノ栞のいる漫画研究会に訪れるため、元々文化祭に参加するつもりでした。しかし、集合前に黒崎は栞に拒絶されており、旧校舎に足を踏み入れる勇気が湧きません。瀬奈に連れられて旧校舎に行った竹久が認められたのは想定外だったのでしょう。

交流を結ぶための行事が、栞に否定され竹久と会う機会を減らしています。黒崎の救いは、竹久が後々栞との復縁に協力してくれたことでした。

更紗視点は竹久とのデートを望んでいました。しかし、瀬奈が旧校舎へ行こうと言い出したときに風向きが変わります。旧校舎の伝説から入ることを拒むと、瀬奈は竹久を連れて行ってしまったのです。竹久を追いかけて計画したはずが、黒崎に告白される始末。終いには瀬奈へ竹久の印象をアシストしてしまっていました

総じて文化祭での退屈なダブルデート?は、三者三様に皮肉めいたスタートとなりました

失った恋を追いかけて

黒崎は竹久への劣等感から、更紗は瀬奈への劣等感から2人は付き合いだしました。両者が相方でない人を好いており、互いに友達以上に進む気がない。ささいなきっかけで崩れるような恋人関係です。

自分の心は偽り続けられない。ある夏の雨の日、黒崎は別れを告げました。どちらも恋心を捨てきれなかった自分が全面的に悪いと信じています

  • 竹久に栞を取られるかもしれないという黒崎の恐怖
  • 黒崎に真意を見透かされているという更紗の罪悪感
  • 『栞は黒崎を誘うと信じて3人目を求めている』という竹久の考察

全体を見た読者にとっては、3つとも勘違いだと分かっています。しかし、自分の考え方しか分からない登場人物にとっては、自分の解釈を信じて行動に移しました

まとめ:素直である選択肢

自分の思うがままに動いて、ときにはトラブルメーカーとして関係性をかき乱す。宗像瀬奈は太陽のような性格と評された少女です。

ある日の午後3時、2人きりで今日の夏祭りに行こうと竹久を誘いました。花火が咲き誇る中、瀬奈は少し遠い川沿いで線香花火を取り出します。セクションの合間、静かな暗闇で2人は何を感じ取ったのでしょうか。

二人は空を見上げ、少しおぼろげな月を見つめた。
瀬奈がぽつりとつぶやく。
「月が……きれいだね……」
瀬奈が柄にもなくそんなことを言った。
「月は……太陽の光を浴びてはじめて輝くことができるんだよ……」

「『無題』(著者名無し)を読んで 竹久優真」より引用

水鏡月聖「僕らは『読み』を間違える」は1年前の未練を追いかけた3人を中心にしたライトノベルです。信条を定めた後に両思いだと勘違いした。一言が足りずに恋人を失った。素直に想いが伝えられず片思いのまま道を違えた。偶然出会った3人にトラブルメーカーの太陽少女を加えて、かつての未練へと向き合っていきます

  • 竹久は太陽のような瀬奈をきっかけに『真っすぐに進む生き方』を知った
  • 黒崎は支持してくれる竹久をきっかけに『眠っていた復縁への想い』を形にした
  • 更紗は竹久との運命の再会をきっかけに『殻を破り積極的に動くこと』ができるようになった

彼らは事件の裏にある恋心を『読み』違えていきます。けれど勘違いによるコメディではありません。本と絡めた群像劇が好きな人、絡み合った青春模様が好きな人へオススメします

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