【クロス・コネクト 感想】入れ替わりから始まるムリゲー攻略

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久追遥希『クロス・コネクト』は最強クラスのゲームプレイヤーが、抜け道を使って突破不可能だと思われるVRゲームを攻略していくサイエンスファンタジー作品です。

裏ゲームに勝利すれば世界的な企業が叶えられる限りなんでも貰える。過去にクリアしたことのある青年が、ある日唐突に裏ゲームに招待されました。どうしてか表紙に映っている容姿の人工知能『春風』と入れ替わって。 誰よりも虚弱なステータスでゲームクリアのターゲットにされる。絶望的な状況の中で主人公はどうにかクリアを目指します。

『春風』はただゲーム用に作られた存在ではありません。意志を持った1人として素直になれない主人公の代わりに現実を彩っていきました。最初は拒絶していた主人公も次第に絆されていきます。

一見不可能なように見えて抜け道のある物語設計、主人公が人に頼ることを再び覚える成長。両面において高く評価しています。

VRゲーム系の小説が好きな人、可逆的な入れ替わり・TSFに抵抗のない人へおすすめしたいライトノベルでした。

読みどころ3選

  • konomi先生の可愛いイラスト
  • 世界観と入れ替わり要素
  • わずかな勝機を詰将棋の如く潜り抜ける主人公たち
目次

小説情報

あらすじ

陰キャで人間嫌い、だがかつて開催された『伝説の裏ゲーム』を全世界で唯一クリアした少年・垂水夕凪(たるみゆうなぎ)。平凡な高校生になった彼だったが、あるきっかけから「100人の凄腕プレイヤーが『姫』を殺す」新たな裏ゲームに強制的に招待された――『姫』として。しかも本来のゲーム内の『姫』である電脳神姫・春風(はるかぜ)は、夕凪と身体を入れ替えて現実世界へ。次々とトンデモな出来事を起こし、夕凪の人生(リアル)を激変させていく。
そしてゲーム内の『姫』の死=春風の死だと知った夕凪は、『約束された敗北』を覆すため、一つのミスも許されない究極のゲームクリアに挑む。
『入れ替わり』から始まる超本格ゲーム――「俺たちはこれから、このゲームを完膚なきまでに攻略する!」

主要人物

垂水夕凪

世界的大企業、株式会社スフィアが運営する『伝説の裏ゲーム』を4年前に攻略した実力者。現在は陰キャの高校生。とある少女との出会いによってデビューすることとなる。

幼馴染の雪菜のため、勝者に望むものを与えるという裏ゲームに参加。現代医療で不可能な症状の治療を成し遂げてもらった代償に、メンタルが病んでしまった。

雲居春香

腰付近まで伸びるプラチナブロンドのストレート、年相応に膨らんだ胸をした、おとぎ話から飛び出したお姫様みたいな少女。

正体は春風と命名された電脳神姫バグナンバー五番機イプシロン。天道白夜に道具として所有され、次の計画のために闇堕ちさせられそうになる。

姫百合七瀬

鮮やかな紅のツインテールをした変態少女。夕凪[春風]との初対面でぱふぱふしてきた。春風の肉体を愛している疑惑があるが、あくまでもキャラ付けの一環。

佐々原雪菜

夕凪の隣の一軒家に住む幼馴染。柔らかい印象の童顔、肩の下辺りまで伸ばした茶系のゆるふわウェーブをしている。性格など含めても隙の無い。

本作の活躍は春風[夕凪]の介抱および夕凪の説得。現実側から彼らのメンタルをサポートした。

雪菜が話の中心になるのは3巻となる。

株式会社スフィア

作中の22年前に起業した零細ゲーム制作会社。三次元没入視覚機能、脳内信号疑似抽出法、完全自律型AIなどオーバーテクノロジーを世界に提供し続けてきた。物理学者が解説を放棄するほどの所業に、魔術師メイガスと恐れられている。不定期・非公認で裏ゲームを開催しているという都市伝説が散見される。

1巻に登場する人物は姫百合七瀬と春風の所有者こと天道白夜。どちらもスフィア先進技術開発部門第三課に所属している。

ストーリーPickup

以下ネタバレ注意です。

突然の入れ替わり

タイトル通り唐突な入れ替わりを体験する主人公。非現実性を助長するかのように、容姿やスフィア・裏ゲームの設定が組み込まれています。入れ替わり創作物において恒例行事である、身体の違いに戸惑う微量のエッチや人間関係の変容も描かれていました。

後述するように、作中で「どうして入れ替わりを起こしたのか」「どうして垂水夕凪でなければならなかったのか」の解決が図られている点が興味深いです。シリーズを通して、理論だった筋道を築く方針が伝わってきました。

絶望的なバランス

本作の著者は一分の隙を残した、絶望的なバランスのゲームを作ることに長けています。このルールでどう攻略していくか、ご都合主義に思わせない調整が肝心な部分です。

1巻のゲームRule of castersの勝利条件は下の3点となっています。如何にして主人公・一般挑戦者の両方の勝ち筋を狭めていくかが重要です。

  1. 城下に散らばった五つの”呪われし秘鍵”を揃え、古の祭壇に捧げよ
  2. 微かな反意を抱く”王の腹心”四名を唆し、味方に引き入れ”反乱軍”を結成せよ
  3. 君たちの手で直接――姫の首を刈り死骸を晒せ

1つ目の条件、”呪われし秘鍵”は7枚のカードを駆使して戦うというPvPのゲームバランスへ影響を及ぼします。位置情報・戦力の公開、ログアウト不可、プラス2枠消費、継続ダメージ、入手時の即死(復活可能)。1つ1つへの影響は軽微でも、組み合わせで加速度的に難化するような設計です。莫大な報奨と単独勝者のシステムが集団の形成を遮り、組み合わせによって単独でのクリアを不可能にしています。

夕凪にとっては更に絶望です。継続ダメージのせいで25秒しかHPが保てません。可能性を残したゲームマスターの粋な計らいとして残された25秒、どう活用するのかが焦点となります。

2つ目の条件、”王の腹心”は城下街に4人潜んでいます。それぞれ複雑な条件を達成することで、協力を取り付けることができるシステムです。途中まで裏技的難易度なのですが、残り2人が大きな矛盾をはらんでいます。

「勇者」の加入条件は対象が姫以外かつ、任務を達成すること。姫の体を持つ夕凪にとって、正真正銘不可能な条件です。

「侍従隊隊長」の加入条件が姫へ敵意を向けた経験がないこと。作中で言及されていませんが、条件の認識はセーフ、未遂でも実行に及ぼうと考えた段階でアウトなのでしょう。こいつの最大の問題が必ず姫の傍にリスポーンする点。出会った時点で姫の事が過ぎってしまうでしょう。

2つの条件を排除していくと、単独勝利を目指す場合姫を殺す形を選ぶようなゲームバランスです。居場所が分からなくても、軟弱かつ容姿が分かっているだけ一番簡単でしょう。言うまでもなく、夕凪は3つ目を選択できません。

夕凪が選べるのは自ずと1つ目しかない。しかし独りでは絶対に叶わない。勝利の鍵は不自然に寄り添ってきた少女に委ねられました。

わずかな勝機

誰からも疎まれて遠ざけられていた底辺少年を一日で救った。瑠璃先輩の言葉で知り、恩を返すため・天道白夜を一泡吹かせるために。夕凪は春風を助けるために動き出します。解決のために3つの大きな壁が立ちはだかっていました。

最初の問題は秘鍵の強奪手段。解決策は十六夜孤月へ取引を持ち掛けることでした。彼は垂水夕凪のライバルを自称するだけあり、状況を十二分に把握しています。天道白夜の負け姿を条件で協定が組まれました。

次の問題は秘鍵の輸送手段。ずっと傍にいてくれた姫百合の特徴が策でした。「死亡時にカードを失わず、姫の近くに転移する」上手く活用すれば、目的地へ瞬間移動させることができるのです。

最後の問題は春風の救出手段。クリアしただけでは取り残されてしまう。完膚なきまでに攻略するためにはどうすればいいか。解決のためにスフィアへ接触を計りました。

一体を絶望させるため

天道白夜にとってRule of castersはクリアできるように練られたゲームでした。ぬか喜びさせてから負の感情を与えて邪魔な善性を反転させる。そして徹底的に無慈悲で残酷なゲームマスターの完成を目論んでいました。

二段構えの絶望へ向け、垂水夕凪を活用することを選び、春風とリンクさせます。予定通りの最適解によって、サービスは終了しました。

唯一の誤算は願いの内容でした。白夜は信念としてゲームを強制することを嫌っています。現に今回のゲームはログアウト可能かつ現実へのペナルティは一切ありませんでした。夕凪に関してもログインをしなければ、春風を放置することができました。

春風を人間として見ていなかったから虐待できる。まかりなりに倫理があるおかげで、目論見を潰す手段が導けてしまったのです。

「にひひ、覚えてるよね? 言ったもんね? ハルちんと初めてしゃべったとき、あたしは確かにそう言った。冗談じゃないから、あれ。……そ、あたしが欲しいのは春風ちゃんの身体だよ。もちろん、現実世界を歩き回れるような、ね」


280ページより、瑠璃先輩の発言

まとめ:一人として

天道白夜は全戦力をもってプロジェクトに挑みました。たった3ヶ月で肉体を錬成し、現実へ漂着させ、戸籍を作り、夕凪のクラスへ転入させる。潔い彼の姿勢と挿絵の大団円から満足感が得られました。

久追遥希『クロス・コネクト』は最強クラスのゲームプレイヤーが、抜け道を使って突破不可能だと思われるVRゲームを攻略していくサイエンスファンタジー作品です。

裏ゲームに勝利すれば世界的な企業が叶えられる限りなんでも貰える。過去にクリアしたことのある青年が、ある日唐突に裏ゲームに招待されました。どうしてか『春風』と入れ替わって。 誰よりも虚弱なステータスでゲームクリアのターゲットにされる。絶望的な状況の中で主人公はどうにかクリアを目指します。

『春風』はただゲーム用に作られた存在ではありません。意志を持った1人として素直になれない主人公の代わりに現実を彩っていきました。最初は拒絶していた主人公も次第に絆されていきました。

一見不可能なように見えて抜け道のある物語設計、主人公が人に頼ることを再び覚えたシーン。両面において高く評価しています。

VRゲーム系の小説が好きな人、可逆的な入れ替わり・TSFに抵抗のない人へおすすめしたいライトノベルでした。

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