【虚構だとしても君を守りたい】本田誠「空色パンデミック」紹介

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The human race is governed by its imagination.
人間はその想像力によって支配される。 ナポレオン・ボナパルト
どこからが現実で、どこからが虚構か。解が分からない中でも守りたい者は誰なのか。この作品は空想を現実のように感じて演じてしまう『空想病』という架空の病を通し、1つの答えを伝えてくれるものでした。
本記事は本田誠作「空色パンデミック」の紹介記事です。2000年代に流行ったセカイ系の1作品で、彼女のために嘘の設定だと分かっていても世界を敵に回す物語です。
ただし、伏線まで見ると週刊「世界の危機」と言っていられない状況になっています。
少女の設定から始まった青春物語、半年の軌跡を見ていきましょう。

小説情報

あらすじ

「見つけたわよ、ピエロ・ザ・リッパー! ジャスティスの仇、とらせてもらうわ!」「……はい?」高校受験の日、駅のホームで、僕、仲西景は結衣さんと出逢った。彼女は“空想病”。発作を起こすと、正義の使者とかになりきってしまう。空想病にもいろいろあって、もし“劇場型”なら、他人に空想を感染させ、世界を滅ぼしかけたこともある危険な存在。だけど結衣さんは通常の“自己完結型”。そんな彼女に、なぜかつきまとわれる日々が始まった。発作を起こしていないときの彼女は、端的に言ってただのわがまま娘。空騒ぎに付き合ってられない。最初は、そう思っていた。――でも、それだけではなかった。

読みどころ3選

  • 空想世界は救いになり得るのか
  • 空想病とどう向き合っていくべきか
  • 世界か貴方か

主要人物

中西景

4月生まれの高校1年生。16歳になって早々普通二輪の免許を取得した。空想病について一般人程度しか知らず、(メタ的に)説明を行うきっかけとなっている。

穂高結衣

『自己完結型』の空想病患者。姉が東京本部のトップであり、裕福な生活を行っていた。一方で人とのかかわりを制限されており、常に木村他セーフガードに囲まれて外出している。自分から作った初めての繋がりに固執し、ストーカーに近い指示を彼らに行った。

青井晴

高校1年生兼神奈川支部の役者。面接で女装を好むこと、(私服自由の学園で)制服で登校することを言いきった。『劇場型』の妹:佳織を持ち、自宅は周辺が何もない草原になっている。

森崎

中西の中学校時代から同級生。陵青に行ったのは2人だけ。後述の演技では素晴らしい活躍を見せた。

ストーリーPickup

以下ネタバレ注意です。

空想病(突発性大脳覚醒症)

空想と世界の区別がつかなくなる様をとらえられ、名付けられたであろう。大脳の一部分が大きく作用し、あたかも空想が目の前で起きているかのように錯覚させる現象。

患者の趣味嗜好にもよりますが、「軽犯罪の積み重ね」と称されるくらい周りと自分のメンタルにダメージを与えてきます。

自分だけが作用する『自己完結型』、トゥラウム波を介して周囲に影響を与える『劇場型』の2つに分類されます。空想が世界中に飛躍する危険性から、『自己完結型』と『劇場型』は絶対に会わせてはならないとされ、劇場型は各県に1人と隔離処置を受けています。作中の10年前には『幻の第三次世界大戦前夜』の空想を共有し、核戦争になりかけたとされています。

空想を治めるのにも注意が必要です。物語のように設定を矛盾させてしまった場合、精神崩壊の恐れがあり、後遺症も報告されています(後述)。また、周囲のキャラクターは患者にとって好意のある人間に割り当てられやすく、近隣市民に被害が及ばないように患者を数人の役者が固められます。故に新しい友好関係を作ることは困難で、穂高結衣は新たな関係を求めていました。

役者システム

この世界独自のお仕事として、役者(キャスト)と呼ばれる職業があります。空想病患者の発作を和らげるため、時には恥をかいたり、時には警察のお世話になったり、時には作品知識を詰め込み着地点を模索したり……多彩な業務を担当している苦労人です。民間のボディーガードに近い役職でしょう。

とはいえ、役者だけで完結できるとは限りません。患者が入れたいと無意識下に思ってしまえば、乱入を誰も防ぐことができないのです。そこで役所は考えました、金で買収して協力してもらおう、と。

そうして出来たのが「出演システム」。演技技術、役割、迷惑料の諸々が詰めて振込する方法でした。物語中では男子高校生には高すぎる金額を景や森崎が受け取っています。

ここまでが自己完結型の話である。劇場型の患者だと空想を周囲数百mに感染させてしまい、普通の役者が使い物にならなくなってしまいます。そのため劇場型の役者になるには抗体であるADMを持つことが必須条件とされていました。作中で所有しているのは”青井晴周辺の役者”+”空想病患者”のみです。

空想世界のパラドックス

設定の矛盾。作者にとって頭を悩ませるそれは、同様に空想病患者にも降りかかっています。普段から防衛機能として、おもちゃのバットを聖剣、数学の参考書を聖典といったように置き換えて判断することで対処していました。

では防衛機能の限界を超え矛盾が生じたときどうなるのでしょうか。強制シャットダウンです。

最終手段として記憶を爆破しやがります。残るのは赤ん坊まで巻き戻された患者と、設定を塗り付けられトラウマを抱えた役者という有様です。

そんな経験があったからこそ、「如何に安定して空想を収めるか」が大切になってくるのです。

貴方を求めて

「だったら、早く来るといいね」
「何がですか?」
彼女は小さな笑い声をもらした。
「世界崩壊の危機」


p223より 穂高結衣の求めるもの

吊り橋効果と呼ばれるように、人は大きな不安や危機を感じているほど恋愛感情が強まることが報告されています。初めて出来た関係をより良くしたい、穂高結衣は中西景との関係に固執していました。そして、彼女には世界崩壊の危機(空想)を起こせる可能性が秘められていました。

劇場型に覚醒した結衣が起こした空想は、大陸が再編されるという突飛なものでした。更には景が自己完結型の空想病だと診断され……

『劇場型』と『自己完結型』、禁断の愛と知ったうえで景はどうやって結衣と会うのか。どうやって空想を完結させるのか。結末は控えさせていただきます。

まとめ:「春が近づく9月」

虚構の物語だとしても男性陣は世界より結衣を選び、無事に守り切ることを成し遂げました。空想は何事もなく完結したようにみえ、4人は日常へ帰ってきました。

しかし、物語はここで終わりません。

「春が近づく9月」「西から太陽は昇る」「劇場型の空想病者がいつも通りに学校に通う」……そして一般人は何も気づいていない。果たしてこの後世界のズレが何を引き起こすのか、2巻以降の伏線として残されていました。

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