求められるのは”利得”か”純情”か【デレマス 二次創作紹介】

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望むものもなく、生きていくためにやらなければならないことだけをこなす日々を過ごす。そんな人が羽ばたくのに必要なのは、飽くなき理想を求める””なのか、現実を進歩させる現実的な”目標”なのか。

今回紹介するのは、かがたにつよし作「アイドルは労働者(仮)」になります。

本作はアイドルを主題とした作品群の中でも「普通の努力家少女がアイドルとなる物語」とされる、THE IDOLM@STERシリーズ作品の二次創作です。周りが夢を追いかける中で主人公の選択、2人のプロデューサーの理想を映し出した対照的なアイドルがどう羽ばたくかが読みどころとなる創作小説でした。

小説情報

小説データ

URL:https://syosetu.org/novel/122928/
作者:かがたにつよし
警告タグ:R-15、オリ主、神様転生、性転換
話数(2018/10/3):14話、123,807文字
UA(2018/10/3):751,776

あらすじ

労働者に希望を与えるアイドルもまた、労働者だった。

サラリーマンとして働き余生を棄てた彼は、死んだ後強くてニューゲームを提案される。今度は好きなことをやると、安定した人生を設計していった。346プロダクションに内々定が決まった彼女に、アイドル人事部が声をかけたことがきっかけで未知数な道を歩んでいくことになる。

主要登場人物

安曇玲奈(あど れいな)
前世はサラリーマンであり今世でもサラリーマンを目指していた転生者。子供時代を相手の好かれるように演じ、第一志望の346プロダクションに内々定した。アイドル事業部においてアイドルとなるように勧められ、サラリーマンの役職のアイドルとなる。前世での経験から個性を売る王道ではなく、相手の求める物を満たす覇道を選ぶ。
増毛
玲奈のプロデューサーで武内の元OJT。内部に需要をもたらす他のプロデューサーと違い、より一層良く映すために外部に需要を求める傾向にあり、実力はあれど上から嫌われている。アイドル像を創りだし顧客を導く”フラッグシップ・プロジェクト”を玲奈と共に進める。
武内
シンデレラプロジェクト第2企画の担当の有能プロデューサー。純粋で輝ける”アイドル”を育成するためにしゃにむに走り続ける。
島村卯月
第2シンデレラプロジェクト出身のアイドル。”普通”で表されるような負の感情を自分の中に押しとどめる様な少女。玲奈のビジネススマイルとは違う綺麗な笑顔と努力を怠らない性格が強み。

原作:アイドルマスターシンデレラガールズ

プレイヤーがプロデューサーとなり、多くのアイドルの中から自分の好きな押しを育てていくTHE IDOLM@STERシリーズの1コンテンツ。
mobageで提供されているシリーズのソーシャルゲームおよびオリジナルキャラクターを中心とするメディア媒体のこと。別作の765プロダクション(無印のTHE IDOLM@STERの舞台)と違う346プロダクションが舞台となっている。『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』という音楽ゲームが有名だが、これは2015年のアニメの後に配信されている後発作品である。
オリジナルアイドルだけでも180人以上と圧倒的な規模を誇り、声優の起用やキャラクターソングに注力したソーシャルゲームである。

ストーリーPickup

労働者の味方を”演じる”

前世をサラリーマンとして過ごしてきた玲奈は、高価値なサラリーマンとなるために子ども時代を捧げてきました。頭の回転・強靭な肉体・優れた外見の3つを守り、人生1周目の同年代が近くのものに興味をそそられる一方で将来のことだけを見据えていました。

玲奈は職務や規定に含まれた内容であればどんな道筋でも通り抜ける、感情よりも理論に忠実な姿勢を貫く人物として描かれます。これは1周目の反省を活かして実行したからこその、他のアイドルには到底成し遂げられない個性となっていました。

「私が評価したのは、何事にも動じない、完成された精神力です。アイドルというのは年頃の女性が多い。彼女らは精神的に完成されておらず、不安定です」
(中略)
「故に、よりアイドルとして高みにいける選択肢を選び損なう。悪い場合はスキャンダルでアイドル人生を終えることもあります」
(中略)
「その点、安曇さんにはそれが無い。346プロが求めるアイドルを完璧に演じてくれる、そう私の直感が言っています」
増毛さん、あなたの直感は正しい。
今世の私は、給料に含まれているのならば、法律に規定された範囲内で何でも行う。
346が望むのならば、私はそれを粛々と行うだけだ。
それが、サラリーマンだ。
御恩と奉公と同じように、給与と義務がある。
むしろ、それ以外に無いというべきだろうか。


第1話より引用

一時の思想よりも後々の利得を取る人が、一瞬の輝きを魅せることが求められるアイドルになったらどうなるでしょうか。本作の答えは「夢のない空っぽの偶像」でした。しかし、空虚であることは新しいもので塗装することができるという利点もあります。

アイドルは、不定期な職務体制、売れる時期が限られる、再就職が困難とサラリーマンと対照的な役職です。当初は否定的に解釈する玲奈でしたが、代休も認める正社員待遇と増毛の姿勢から、彼のプランに乗ってやることを選びます。

こうしてサラリーマンを望む夢のないアイドルと、理想を創り上げるために不必要な関わりを排除したために左遷されたプロデューサーが手を組むこととなりました。

船頭で旗を振る

島村卯月や765プロの天海春香と、大人数の中でも笑顔を振りまける天然のアイドルを玲奈は間近で見ていきます。彼女たちが持つ笑顔の”才能”は、玲奈が2世かけても手に入らなかった隣の芝でした。それでも輝いている人たちより成果を出す、と玲奈は決意します。必要なのは先天の”才能”ではなく後天の”理論”だと証明する、346プロのハイエンドアイドルとしてデビューする瞬間でした。

増毛Pが命名した『フラッグシップ・プロジェクト
玲奈が命名した『フロント・フラッガー
ジャンヌダルクを始め、”旗(flag)”は歴史上にはバラバラの集団をまとめる象徴としてよく用いられていました。現代、アイドルは個性が重視された結果、人それぞれの好みに近いアイドルがどこかにいる混沌めいた環境となっています。荒波の中で1つの道を創り上げ、民衆を導く意思が込められていました。

ただ笑えばいい

”笑う”ことは年を重ねるごとに難しくなっていきます。自分がどうしたいかではなく相手にどう見てもらいたいかを重視する中で失われていき、いつの日か作らないと出てこなくなる。笑顔はアイドルに憧れる原動力の1つであることは間違いないでしょう。

しかし笑顔は必ずしも周囲の幸せをもたらすわけではありません。卯月は最初のライブで失敗したのに笑っていた。玲奈が与えたアドバイスを律儀に守ったことが原因で、卯月は本田未央を傷つけてしまいます。右往左往ののち、家に籠った彼女へ卯月たちがとった行動はいつもの笑顔でした。

人に笑顔を振りまくのには才能がいるから使えない、と玲奈は無理に作った笑みで演じています。逆に才能があるのならば積極的に活かすべきだと考えていました。だから才能がある卯月へ助け舟を送っています。無償のアドバイスで人を傷つけてしまった、未央の心境を(武内と同様に)誤った、アドバイスを求められても最終的に何も出来ていない……と本エピソードは、玲奈の人の気持ちを読もうとせず理解することができない姿勢が強調されていました。

プロデューサーにとってのアイドル

「光の強面」とされる増毛は論理を感情より優先する人を求めていました。周りを気にせず、社内政治を考えず、黙々と己の理想を目指していました。そうしてアイドル事業部に左遷されても変わらなかった夢は、安曇玲奈という逸材と出会ったことで動き出します。

「闇の強面」とされる武内は純粋な表情を魅せる人を求めていました。社内に、特に増毛に振り回されて、周りの印象が良くなるように自分の姿勢を隠していました。そうしてプロジェクトのプロデューサーにまで昇り詰め、14人の無垢な原石たちを導くことになります。

プロデューサーに昇進した2人の夢は叶いつつありますが、彼らは覇道と王道という対極を進んでいました。増毛は周囲から人が集まってくる武内に憧れ、武内は夢を追い続けて理想に手を届かせようとしている増毛を羨む。互いを認めていながらも自らの部下が一番だと、夏フェスの舞台に送り出しました。

まとめ:欠けているからこそ

才能を持った者達が努力を重ねて勝利する。
それはお約束だが、1度くらいもっと地味でアングラな組織が勝ったっていいじゃないか。
我々だって、日の目を浴びたいときくらいあるさ。

暫しの猶予だ武内P。
私が12時の鐘を鳴らそう。


『13. It’s time to be an employee』より引用

努力をして会場を凍らせても、才能によっていとも簡単に砕かれた。舞台裏で玲奈は珍しく感情を露わにしていました。何ができるのかと悩む彼女へ、増毛は多人数で戦うことを薦めます。

本作は普通の女の子に秘められた才能が開花するように祈る裏で、1人の論理家を船頭に担ぐ物語でした。努力をしても追いつけないのならば、先人を活用して才ある巨人たちと闘えれば良い。個人の素質に委ねられるアイドルのプロデュースと大きく違う、純情の理想のために量産する業界へ敵対する道を描いています。アイドルを夢見る人には薦めにくい作品ですが、目標を追い求めて周囲を置いてけぼりにしがちな玲奈と増毛の2人が魅力的に映りました。

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