昆虫博士の少女は再会を願う【ネギま 二次創作】

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2005年の2月16日、京都議定書が施行されました。温室効果ガスの一種とされる二酸化炭素やメタン、亜酸化窒素などを削減しようとする試みです。

このような試みは行政が考え、行政が決め、技術者が難儀することになります。当時から様々な努力がなされてきましたが、結局1990年と温室効果ガス排出量を比較すると2015年では+4.3%となっています。(国立環境研究所、 日本国温室効果ガスインベントリ報告書2017年提出版より)では技術者は何もしていないのかと聞かれると、そうではありません。1990年と比較して『工業プロセス及び製品の使用』や『廃棄物』による排出量は確かに低下しています。つまり(二酸化炭素だとより顕著になりますが)家庭部門発電部門の排出量が増えているのが原因ということです。

今回は技術者、研究者に焦点を当てた二次創作小説の紹介です。
ぽぽぽさんの「セカンドスタート」は、生物の基礎研究をしていた男性が「魔法先生ネギま!」の世界に転生するというストーリーです。二次創作にしては珍しく研究者を主人公にしており、独自の視点から不思議な世界を読み解いていきます。

目次

作品情報

データ一覧

作者:ぽぽぽ
警告タグ:オリ主転生性転換
話数:88話、484224文字
UA:208709

URL: https://syosetu.org/novel/79127/

原作:魔法先生ネギま!

赤松健先生が「週刊少年マガジン」において2003年から2012年まで連載していた長期作品。355話、38巻の記録はTop.10にこそ入らないが、大きな記録として残っている。

子供先生ことネギ・スプリングフィールド(10歳)が立派な魔法使いになるための修行として、麻帆良学園本校女子中等学校の担任を受け持つところから始まります。クラスの生徒31人との交流に焦点を当てた「ラブコメ」と、魔法使いとして成長するための苦難を乗り越える「バトル」分野に分かれた作品であり、双方のパートで目標へ向かって成長していく。

そもそも10歳の少年が教員になるのに、何故誰も疑わないのかという疑問がでてくる。その回答が麻帆良の地にある世界樹であり、非常識を常識だと思わせる結界が貼られているかららしい……実は原作を全く知らないので、上記はWikipediaなどからの受け売りである。

作品概要・紹介

原作紹介のときにも述べたように、私は原作を読んだことがありません。なので、原作本編の開始時期”第22話”より前を中心に取り扱うことにします。

とある虫好きの研究者が『明智七海』として転生し、中学2年生になるまでの物語。その中にも原作人物との関りも相応にあり、二次創作とは思えない世界が広がっていました。

妻との出会いと別れ

主人公が転生した際に願ったことの一つであり、絵空事だと自嘲する夢がありました。それが妻と再会をすることです。

彼ら2人は扱う生物種は違いますが、海外のシンポジウムで出会いました。その後結婚しましたが(主人公が)40歳近くのときに病気によって妻に旅立たれます。その3年後、彼はフィールドワークの際にスズメバチに刺されて生涯を閉じました。

最期の思いは「死んでもあなたを愛してる」「もう一度妻に会いたい」。前世からの思いを胸に留め、彼は明智七海として生きていきます。

大の虫好き

この物語のオリジナル要素の根幹であり、周りから引かれている趣味「昆虫採集」についてです。転生前が昆虫関係の教授ということもあり、七海は昆虫に関する大量の知識と関心をもっています。

七海が、麻帆良の世界樹が異常であることを見極めるシーンがあります。多くの転生作品では「転生前の知識」が元にあることが多いのですが、彼女は……白蟻の生態から考察しています。発言を要約すると『白蟻は潜在的に(働き蟻、兵隊蟻、生殖蟻)のどれにもなりうるが、発現するのは必ずどれか一つである。しかし世界樹の白蟻は、潜在的に発現する全ての能力を持っている』とのことです。細胞分野では多分化能と呼ばれ、かのiPS細胞(induced pluripotent stem cell)やES細胞(embryonic stem cell)が持っている機能になります。だからといって複数の機能を併用して持つことは絶対にないので、七海は異常に気づけました。

この件の後に世界樹の不思議パワー(魔力)と虫の関係を研究しており、寿命が長い力持ちのカブトムシや発光強度の強いホタルなどを育成しています……女子寮の自室で。

違和感を覚え”られる”ということ

世界樹とは別に麻帆良には認識を阻害する結界が貼られています。その内容が「違和感を覚えなくなる」という点。転生した七海を含め、魔法、忍者、ロボット、馬鹿でかい世界樹(樹高270 m、ちなみに世界記録は115 m前後)、図書館島(地下迷宮付きの一島をふんだんに使った図書館)、未来人、幽霊etc.

この結界は、世界樹および世界樹による潜在覚醒を意図的に隠蔽するのが目的とのこと。内部にも効果があるらしく、麻帆良の生徒では「長谷川千雨」を除いた全員(七海も含む)が効果を受けています。なので、七海は異常な虫の分布と特性から仮説を建て、それから千雨に確認を取ってもらうことで認識しています。

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

原作にいる600年生きた吸血鬼であり、七海のクラスメイトです。体力、魔力の両面に適性がない七海にとって、魔法側の生命線となっています。その分自ずと関係も深くなっていき、エヴァンジェリンの最初の友達に……

出会いは4話。七海(5歳)に対し気迫を出し、頭を押さえようとしました。七海は逃げることに成功するのですが、互いにトラウマを負う最悪の出会いでした。

クラスメイトになった後、20話でようやく対面します。七海の魔力のなさとない結果生じる綻びから、エヴァンジェリンは魔法薬を調合する代わりに薬を出す契約を取り付けました。徐々に仕事関係から、互いのプライベートを話す間柄になり……

光を知ってしまった。
失いたくなかった。
吸血鬼の長い人生の中で、人間である彼女と関わって生きていられる時間はきっと短いだろう。それでも、その間だけでも、彼女とは一緒にいれたらと、そう思っていた。
少しずつ歳をとって成長していく彼女を見守りながら、それでもずっと変わらない関係なまま一緒に過ごしていく未来を、私は夢見ていた。(第80話より)

その結果がこの文章である。数か月前の喧噪な雰囲気は何処に行ったのかとも思うが、それだけ約1年(中学2年の夏から3年の6月まで)がエヴァンジェリンにとって充実していたのでしょう。彼女を封印した元凶も、この状況にさぞ満足したと思われます。

原作での彼女がどんな人物なのかは知りませんが、この作品では徐々に皆に心を開いていきました。封印の目的を果たし、親友を作り……この作品の主幹の片割れであり、原作より間違いなく幸せになれた人物だと。

2分の1(ネタバレ注意)

通常、紹介記事に最終話のことを書くのは禁忌だと思っています。しかし、私が二次小説を読んでいる中で最も印象的な場面だったため引用することにしました。

「前世の記憶を持って生まれること自体奇跡に等しいのに、更に私達は、同じ場所に生まれてこれた。それはきっと、ヒトゲノムの中からたった一つの違う塩基を見つけることよりもずっとずっと、低い確率だわ」

(中略)

「ただ、ねぇ」

ここで彼女は、初めてむっとした顔を見せた。
私はそれに、少しドキリとする。家庭で彼女がこういう顔をした時は、大抵私に何か言いたい時だ。随分と前の記憶であるのに、この感覚を忘れていないことにも驚いた。

彼女は、すっと手を上げて、私の胸の辺りを指差した。

「あなた、最後の二分の一だけ外しちゃったのねぇ」

軽いため息と共に言われた言葉を、私はちょっと考えてから理解した。

……なるほど、確かに。

私は、ほんの僅かに膨らみがある自分の胸に手をやった。

……二分の一か。

そう簡単に表現されたのが、何となく可笑しくて、私は小さく笑った。(「セカンドスタート」最終話より)

最終話にて、七海が(○○に転生した)妻と対面したときの一幕です。ヒトゲノムは約30億塩基対『自宅で学ぶ高校生物』より引用)、体細胞1個当たり約60億個、1生物あたり……と考えると途方もない値になります。それだけの軌跡を七海達は起こしたのですが、最後の2分の1を外してしまいました。

中学1年の頃には「ないっぽい」と言われ、別段コンプレックスに思っていなかった胸も、少しだけ成長していたらしく。2分の1と客観的に評価しているあたりが研究者らしく、薄らいでいた性転換の要素の伏線を回収するか、と随分驚いた記憶が残っています。

 

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