長谷川浩己「風景にさわる ランドスケープデザインの思考法」

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建築技術が上がり、多種多様な素材が安価で買えるようになったことで、建造物の幅は広がりました。その土地になかった景色を加えることもできるようになり、街の中にいながら外国の景色を堪能できる場所もあります。

その一方で失われた景色もあります。度重なる開発によって白色化したサンゴ礁、効率を求めて伐採された原木林、連なるビルと照明に隠れた星空など……産業開発の負の側面として挙げられることも多く、行政や環境の面から議論されている風景です。

今回取り上げる本は、長谷川浩己「風景にさわる ランドスケープデザインの思考法」です。風景がどうあるべきか研究している学問である「風景学」の視点を教えてくれます。

  • 風景は作るものではなく、在るものである。
  • 風景は生きており、絶えず変化する
  • 風景のコントロールの前に、目的を明確にし、最低限の変化に留めなければならない
  • 風景は共有するものである。

 

目次

「風景にさわる ランドスケープデザインの思考法」感想

全編エッセイ形式である本作、無学の人にも分かりやすいように言葉を選んでいることは伝わった。しかし、少し硬い文章であり、流し読みした後結論が掴めないことが多々あった。左ページの風景を見るだけでも楽しめないわけではないが、どうしても写真集の物よりも劣る。

以上のことから、無学の者が娯楽として読むよりか学術利用のための入門書として相応しい作品だと考える。

場所は世界の中で「ここ」という感覚をもてる特定の位置、一種の特異点である。古来、泉や滝、磐座(いわくら)や御嶽(うたき)など聖地として選ばれた場所もあるし、安全で水の得やすいところに集落が出現する場所もある。私たちが生きている拠点であり、認識している世界の根拠。


32ページ、場所を通して世界とつながる より引用

風景学について

作者が具体的に言及したわけではありませんが、本書の主旨はおよそ下の4つに分類されます

  1. 「作る」ではなく「在る」
  2. 風景は生きている
  3. 風景を「コントロール」する前に
  4. 風景を「共有」するために

「作る」ではなく「在る」

私たちが生まれたときから風景を感じています。認識したときには既に在り、決して0から作るものではありません。一方で、そこに風景があると改めて思うことはほとんどありません。では風景はどうやって発見されるのでしょうか。

風景は外側から見つめることで発見されます。赤子が無から明かりを見たとき、別の場所へと移動したとき、今までとの違いとして風景を認識しています。

風景は「生きている」

常に変わらない風景はありません。時間の変化、季節の変化、私たち生物の成長、無機物の風化、見るものの感情などによって左右されます。風景にも生死があり、この変化を永続的に抗うことはできません。

風景は私たちの行動によっても変化します。外から来た種の成長、植えられた水田がもたらした新たな生態系といったように、いつの間にか風景となっていたものもあります。

風景を「コントロール」する前に

前項で述べたように、干渉しなくとも風景は徐々に変化します。しかし、私たちの望む風景になるかは分かりません。そのため、「管理」や「手入れ」という表現で風景に干渉することが度々あります。

このときに注意しなければならない点が4つあります。

1つ目は管理が必要なのか見極めること。目的がなければ方針も立たず、何を変化させれば良いかすら分からなくなります。

2つ目は関係性を見つめること。1つ目に加えて、どこが何に関係しているかを知る必要があります。風景は配置1つで大きく様変わりするものです。想定外の関係性から思わぬ方向へと変化すれば大変なことになるでしょう。

3つ目は管理を最小限にすること。想定外の事故を防ぐと同時に、他の生物に及ぼす影響を小さくすることにもつながります。特に森林など他の生物の根城を変化させる際に重要な要素です。

4つ目は将来の変化を見据えること。前項で述べたように変化しないことはありません。その際に変化を受け入れるか、介入し続けるかは最初から決めておかなければなりません。

これらから、目的や方向性を明確にして最小限の変化に留めることが必要だと分かります。

風景の「共有」

風景は個人の物ではありません。1人でもいられる風景もありますが、大半の風景は全生物が共有していている資源です。風景学では公共の風景も取り扱っており、どのようにして生物を誘い共有できる風景が在るかについて研究されています。

共有する相手は人vs.人とは限りません。場所によっては元からそこにいた生物との共有が大切になります。

筆者は森との共存手段として”テラス”を挙げています。他の生物のために地面を明け渡し、樹冠の上下のように棲み分けの効果を狙っています。また、地面への被害を最小限にできることも魅力的な点です。

まとめ:在るものを守りつつ

本書において、作者は別のところから風景を引用することを批判していますが、元ある風景だけを維持するとは言っていません以前から在ったものを尊重しつつ、空間に居場所を作ることを重要視していました。

そのことは上で紹介した4点からもいえるでしょう。今回のまとめとして、改めて下に掲載しておきます。

  • 風景は作るものではなく、在るものである。
  • 風景は生きており、絶えず変化する
  • 風景のコントロールの前に、目的を明確にし、最低限の変化に留めなければならない
  • 風景は共有するものである。

もしここまで見て興味が湧いた方がいたならば、少しでもこういった風景を取り扱った本を触ってみると面白いかもしれません。

 

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