勘違いに勘違いが重なって【ポケモン 二次創作】

創作において「勘違い」は重要な要素である。叙述することによって話に深みを持たせることや、コントのネタとして使われることが多い。

I・B作「とあるプラズマ団員の日記」は、主人公を勘違いした原作人物が繰り広げる物語である。小さな勘違いが積み重なった結果、一介の新入社員が世界を滅ぼしかける先の見えなさが特長の作品であった。そのため、少しの齟齬があったとしても許容でき、「笑える小説が読みたい」「Nやゲーチスが好き」といった人におすすめの作品といえる。

小説情報

小説データ

URL:https://syosetu.org/novel/6342/
作者:I・B
警告タグ:オリ主
話数(2018/5/14):16話 108,561文字
UA(2018/5/14):406,636

あらすじ

就職難民からようやくのところで脱却したナナシ・イル。その就職先は「プラズマ団」だった。その言動からゲーチスに過剰に評価され、イルはあれよあれよという間に昇進していく。そのせいで2人の英雄と出会い、世界を揺るがす異変に巻き込まれていく。

就職を機に付けた日記から、(作者曰く)ちょっとずれた女性が彼らと関わっていく光景を見つめるお話。

登場人物

ナナシ・イル
ブラックシティ生まれ、政経学部卒の元就職難民。血色の長い髪、翡翠の瞳の24歳。10歳前後に間違えられるほど小柄。面接に何度も落ちて途方に暮れていたときに「プラズマ団」正社員の広告を発見した。言動からゲーチスに認められたことで無事に入社する。プラズマ団の任務として、子どもたちと一緒にジムを攻略することになる。

トウヤ
カノコタウン出身の少年。ミネズミ狩りをしていたイルと遭遇して一目惚れ。イルを誘って一緒に旅をすることになった。イルを同年代と思っており、彼女が寂しくないようにと同じ部屋で寝ている。

N
プラズマ団の王。チャンピオンになるためのジム巡りの途中、イルとトウヤに出会う。トウヤと争い、イルに惹かれていくうちに理想が正しいのか悩んでいく。本作ではゲーチスの実の息子で、「Name」から「a me」を取り除いたものが名前の由来となっている。

ゲーチス
プラズマ団の創始者で被害者その1。自分の器に納まりきらない存在としてイルを心酔している。本作では、化け物に妻を殺された復讐としてプラズマ団を作成、旧友のアクロマの協力もあって組織を拡大させた。

アカギ
「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」「ポケットモンスター プラチナ」に登場する組織、ギンガ団のボス。イルとは大学時代の旧友。「やぶれたせかい」で夢潰えてから、ギラティナを託すために待っていた。

ギラティナ
被害者その2。レベル88とレベルが高いおかげで誰にも制御されずに「やりのはしら」を破壊する。伝説の3体の龍に倒され、暴走の責任の全てを背負わされた。

原作情報

原作は2010年に発売されたニンテンドーDS専用ソフト「ポケットモンスター ブラック・ホワイト」。売上本数は1500万本以上(全世界)と携帯機1機種では歴代Top10に入る大ヒット作品。2010年ゲームソフト年間売上においても2位と3位を記録している。(参考:http://gcompass.sp.land.to/rank/2010.html、1位はモンスターハンターポータブル3rd)

イッシュ地方が舞台になっているように「多様性」を重視した作品で、様々な人種が登場する作品。伝説のポケモンであるゼクロムとレシラムは「理想」と「現実」を象徴しており、ポケモンを解放しようとする英雄ポケモンとの共存を望む英雄の対比を描いていた。

ストーリーPickup

イルに対する勘違い回答集

この作品で最も推す点は、前半のイルとプラズマ団の会話のずれである。「勘違い」が根幹にある作品の中で、物語の流れに支障がなく気楽にみられるからである。ということで、勘違いやポエムによってすれちがってしまった部分、4つを引用する。

入社面接にて

「さて、単刀直入にお尋ねしましょう。貴女にとって、ポケモンとは?」
「ただ、在るものと存知ます」
「――ほう?」
「どんな扱いであろうと、無くなるものではありません。どんな姿であろうと、否定するものではありません」
「扱い方次第、ということですね」
「はい」
「では、貴女はどう扱うのでしょう?」
「ただ、理念のままに肯定します」


第一話より、会話文のみ抽出(原典ママ)

入社面接にて行われた質問。道具、愛玩、友達、家族……と多くの者が答える中、イルは「ただ在るもの」と答えた。本人はプラズマ団を『ポケモンを理不尽から解放する為の慈善事業』と考えており、この質問も無難な回答だと思っていた

しかし、ゲーチスにとっては違う。あるがままにポケモンを使い、世界征服のためにはポケモンが死に絶えても気にしない。面白い玩具として彼女を採用すると決めた。

容赦のない査察官

「――数多の暴力に、ただ等価の力を揮うだけでは理想には近づけない」
「ええ、ええ、そうでしょう。彼らは弱すぎる」
「脆弱だと知るのなら、裁きを下すのはあなたたちの役目では?」
「もちろん、動いていない訳ではありません。ですが、全てを把握するのは難しい。何故なら、弱き者たちはダレより狡賢いからです」
「賢い? アレの在り様で賢者を名乗らせる、と?」
「――っ。七賢者のことまで把握済みでしたか。確かに全員の質が良いとは言えませんが、それも貴女と比べたらの話ですよ」

ゲーチスが、どこか焦りを覚えている。その姿にNは疑問符を浮かべる。何故、年端もいかぬ少女に圧されているのだろう、と。

「貴女には引き続き剪定をお願いしたい。その道中に賢者の影があり、それすらも足らないと思われましたら――」
「私が、処分を」
「――ええ、お願いします」


第3話「春の月 友人を見直すまで」より引用。N視点、イルとゲーチスの会話

プラズマ団と敵対しているトウヤと一緒にいるにもかかわらず、イルはゲーチスと繋がっている。イルの年齢を勘違いしているNにとって、彼女が働いているという発想はなかった。イルという”少女”を知るため、Nはふたたび2人の前に立ちはだかることを選ぶ。

一方、イルにとってこの会話は「必要な事だから、引き続き頼んだ」程度の状況報告であった。ゲーチスの思惑にもNの推測にも気づかず、イルは1人我の道を進む。

相手のためを思って

(イル視点)

トウヤに、「今度こそ別々のベッドで寝よう」と提案された。けれど、こうしてトウヤも大人になっていくのかと寂しいような楽しみなような気持ちで感慨に耽っていると、トウヤはたっぷり三十秒も間を置いて、「やっぱり、一緒に寝よう」と言ってきた。
トウヤが何故良心にダメージを受けたかのような顔をしているかわからないが、私としてはどちらでも構わないので、一緒に寝てあげよう。

(トウヤ視点)

ひとまず、彼女に自分を“男”として見て貰う。そのために、そろそろ別々のベッドで寝よう。それから、もっと頼られる男になろう。トウヤは朱くなっていく頬をイルに感づかれないように、力強く、歩き出すのであった。

――もっとも。

別々のベッドで寝ようという提案は、イルの“寂しさを堪えながらも無理矢理笑顔を作ってトウヤを気遣う”姿に、粉々に打ち砕かれるのだが。


第7話「夏の月 強さを考えるまで」より引用

Nと同じく、トウヤもイルの年齢を間違っていた。互いに相手が寂しくならないようにと、相手のために一緒に寝ていた。現実を考えると事案だが、登場人物のほとんど(実年齢を履歴書で知っているゲーチス以外)が年齢を間違えているので問題は起こらなかった。

上の文からも分かるようにトウヤの片思いであり、恥ずかしがっているのもトウヤだけである。彼は「同じくらいの大切な人」と思ったまま、彼女を守る道を選んだ。

勘違いからの叛逆

「逃げなければ――死んでいた」

“無垢なる咎人”その名を知らぬ彼ではない。彼女は誰よりも平等なのだ。大人も子供も男も女も、蝶も花も虫さえも、全て同じ基準で手折る。その有り様は、いっそ機械的と言っても良いかもしれない。その強さは、その姿勢は、長く見つめていると引き込まれそうになる。そうやって、真の主とは、真にこの世界を手中に収めるべきはゲーチスではなく彼女なのではないか。そんな風に心酔した同僚を見るのは、一度や二度ではない。

「ここで、終わるのか――? ……っ」

頭を抱えた瞬間。本部より、メッセージが送られてくる。そこに書かれた言葉を見て、彼は凍り付いた。

『他に認められずとも、私が認めよう。この組織に於いて、貴殿は必要な存在である』

ナナシ・イル。文末に書かれた言葉。誰も――若いというだけで、誰も認めてくれなかった彼を救う、囁き。

「は、はは、ははははははっ!」

そうして、彼は立ち上がる。
その瞳には、先程までの怯えはない。立場に甘んじる必要は、もうなくなった。


第7話「夏の月 強さを考えるまで」より引用。とあるプラズマ団員の視点より

私にとってはこれが最もひどい勘違いだと感じた一文。”若い”というだけで認められなかった青年に激励を送ったつもりが、下剋上の一歩を歩ませてしまう。

イルからのメッセージだが、作者によるとゲーチス(上司)経由らしい。とはいえ、これから謀反を起こされるとは思うまい。青年のその後は描かれていないが、その年の秋にプラズマ団が潰れたことで、甘んじていた立場からは解放された。

親子の絆と3体の龍

この作品はただ勘違いによって溝を広げるだけではなかった。Nと主人公、Nとゲーチス。原作では対立したまま別れた彼らの絆も描いていた

ギラティナが暴走し、イルが方舟の中に囚われた頃。イルとトウヤの別れの地である「リュウラセンの塔」で、Nはトウヤと再会する。自分がイルを守れなかったとNは自戒し、旅を共にしていたのにイルのことを気づけなかったとトウヤは吐く。喧嘩・対立ばかりしていた2人が初めて手を組んだ。

Nの父親であることを知っていながら、息子を復讐の道具にするべく愛情を隠す。ゲーチスの実の息子でありながら、彼の内面を見ようとしなかった。伝説の龍を従えた親子が対面し、己の心を打ち明かす。

3人の絆がつながるにつれ、神話で分裂した伝説の龍がふたたびつながる点が印象的なシーン。イルだけは平常運転だったが、少年2人が旅を通して得た経験が活かされていた。

まとめ:就職先が潰れて

約1年の作中時間を通して、少年2人は成長し恋をした。では、その渦中にいたイルは何が変わったのだろうか。旅をして、友人関係が増え、謎のポエマーとして勘違いをされ、被害者になり……作中では書かれていなかったが、私は「次の世代を支え、育てていく」経験だったと考える。

完結しても、イルの実年齢を知っているのはゲーチスだけだった。言葉で、容姿で、経歴で。やはり、この作品は勘違いによって物語が回っていた。そういった作品の中でも完成度は高めであり、叙述トリックではなく笑える勘違い劇が好きな人におすすめの作品と言える。

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