「おもしろサイエンス 刃物の科学」材料学から見る刃物の歴史とは

日常生活ではハサミや包丁、工業製品では金ノコやドリル。私たちと刃物は切っても切り離せない関係にあります。しかし、刃物がどういう材料からできているか、答えられる人は多くありません。

今回は朝倉健太郎著「おもしろサイエンス 刃物の科学」を使って、刃物の歴史を材料学の視点から見ていきます。

材料学とは

材料学とは、物理学や化学の業績から新しい材料を開発・計測する工学です。材料科学、材料工学とも呼ばれています。機械工学のように範囲が非常に広い学問なので、扱っている材料や分野によっていくつかに分けられます。

5つに区別した場合の分類を下に記します。今では有機無機ハイブリッドといった、分類の垣根を越えた材料開発が進んでいます。

  • 生体材料工学……細胞の培養法や再生医療など
  • 有機材料工学……樹脂や生分解性プラスチックなど
  • 無機材料工学……セラミックスやナノ粒子など
  • 金属材料工学……鉄鋼や都市鉱山対策など
  • 鉱石材料工学……鉱石からの精製や鉱石自体の利用

最初の刃物は偶然から

初期の刃物は、木や動物の骨といった有機物から作られていました。加工しやすく手軽に入手できたからです。しかし加工しやすいということは、切れ味が劣化しやすいという欠点がありました。第二世代の刃物は、黒曜石のような鉱石で作った刃物でした。骨と比べて硬く、なおかつ切れ味がよい代物でした。

この世代の刃物は、人類が誕生した初期から使用されています。石器時代を支えた第一世代、第二世代の刃物は各地で発掘されており、博物館で見ることができます。

金属時代の到来

約6000年前、人類は金属を使うようになりました。しかし、紀元前の頃は約1000℃が限界でした。それゆえ当時の金属は、金のように酸化されにくいものや青銅のように低融点のものに限られました

1991年、アルプスのエッツ渓谷で約5300年前の斧が見つかりました。元素分析すると、99.7%銅-0.22%ヒ素-0.09%銀でした。当時はまだ純銅が作れないにもかかわらず、ここまでの純度と切れ味を誇っていたようです。

一方、銅と同時期から鉄製の刃物も作られています。純鉄は純銅と比べて融点が約1540℃と高く、利用する難易度が高くなっています。しかし、鉄に炭素が混ざることで融点は下がり、2.11%以上になると一部が1148℃で溶解するようになります。近代まで炭素鋼製は日本刀など広く用いられていました。

もう一つ鉄製の刃物として、隕鉄を用いたものがありました。隕鉄とは鉄-ニッケル合金からなる合金のことです。今では隕石としての価値しかない鉱石ですが、当時の人たちにとっては貴重な鉄だったのです。ただし、多くの隕鉄は柔らかくばらつきがあるため刃物に向いていません。なので、隕鉄製は特権階級の装飾品や儀式目的で使用されていたようです。

錆びない刃物の誕生

近代まで鉄の主流は炭素鋼でした。しかし、炭素鋼には錆びるという致命的な問題が残っています。これでは水場で使うには向いていません。

現在使用されている刃物には、錆びにくいステンレス鋼が使用されています。研究が進展したのは20世紀初旬、他分野では「量子力学」や「熱重量測定(TG)」の発展と重なっています。研究の転換があったのは1911年、フィリップ・モンナルツの学位論文でクロム鉄合金の「不動態被膜についての効果」を初めて報告されました。その後、クロム添加鉄の対酸化性や不動態膜の研究成果も報告され続けました。

クロムの添加によって、合金の表面に1~3nmの酸化クロム(Ⅲ)膜が生まれます。例え膜が破れても次のクロムが析出するので、長期的に内部の参加を防ぐことができます。なお、不動態被膜はクロムの他にアルミニウムでも作られます。

マルテンサイト系ステンレス刃物の誕生は1913年でした。13%クロムは高い耐食性と強度を備えていましたが、あまりにも硬く研削や鋳造加工に向いていませんでした。それほど硬く錆びないからこそ、刃物として評判になりました。

金属以外の可能性

人類の金属利用が始まって以来、大多数の刃物は金属で作られていました。これは切れ味の劣化のしにくさ、再利用のしやすさ、粘性の高さが評価された結果です。

しかし今では金属以外から作った刃物もあります。この項目ではその一例を紹介していきます。

プラスチック製

炭素繊維製のナイフが代表例です。これは鉄以上の強度、耐熱性、耐摩耗性、耐酸化性に優れた材料です。また元が炭素なので軽いことも特色です。一方、切れ味は金属ほど高くありません。

かばんや衣類の材料と同じ炭素繊維なのでX線でも発見しにくく、特殊工作やテロに向いています。しかし、飛行機内持ち込み厳禁です。

セラミックス製

セラミックス製の多くは酸化ジルコニウム、つまりジルコニアで作られています。ジルコニアは耐食性、耐熱性、熱伝導性の低さ、高強度と刃物としては優れている材料です。また金属と比べて軽く(炭素繊維製と比べれば重い)、最初から酸化しているのでこれ以上錆びない点も利点です。

しかし、硬さはあっても弾性や粘性がありません。衝撃次第で局所的に高い負荷がかかると、先端が欠けてしまうことがあります。

大まかな密度一覧


人骨……0.9~1.1 g/cm3
炭素繊維……2~4 g/cm3
ジルコニア……5.5~6 g/cm3
ステンレス……7.7~7.9 g/cm3
銅……8.93 g/cm3

まとめ

刃物の材料の歴史

  1. 木製……簡単に集められて加工しやすい
  2. 骨製……木製よりも硬く壊れにくい
  3. 石製……有機質より硬く壊れにくい
  4. 銅製……石製より扱いやすく修理しやすい
  5. 鉄製……銅製より壊れにくい
  6. ステンレス製……鉄製と比べて錆びない

刃物の材料選択

金属製は重いことからコントロールしやすく、砥石で研ぐことで性能を維持することができます。重たくて大きいものを切る、料理店や業者に向いている刃物です。
セラミックス製はほどほどに軽く、研ぐことなく切れ味を長持ちさせることができます。誰が使っても長持ちするので、ズボラな方におすすめの刃物です。
プラスチック製はセラミックス以上に軽く、壊れにくい刃物です。将来的には携帯用や緊急時用になると期待されています。

参考資料

1)朝倉健太郎「おもしろサイエンス 刃物の科学」、日刊工業新聞社(2017)

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2)久保内 昌敏「鋼の状態図と変態 7.鋼の状態図と変態」http://foundry.jp/bukai/wp-content/uploads/2012/07/4228431119094d162c3f7d5829d4e110.pdf

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