朝井リョウ「何者」 SNSの私が変えてくれるのか?

この作品は、現在就職活動中の学生は読まないことをおすすめします。大学生の就職活動を取り巻く、SNSの発言への風刺がふんだんに組み込まれていました。

このページは朝井リョウ作「何者」の感想記事です。第148回直木三十五賞(直木賞)を受賞し、2016年に映画化しました。

一人称ならではの1つのトリックで身を隠す拓人。しかし就職活動で出会った仲間によって、隠していた麻薬と向き合うことになります。麻薬中毒者が麻薬を絶てるのか、という成長を描いた物語です。

 就職活動の背後で

二宮拓人は、就職活動を始めるまで演劇の脚本を書いていた。
神谷光太郎は、バンドを4年間続けていた。
田名部瑞月は、コロラドに約一年留学していた。
小早川理香は、海外インターンや国際協力ボランティアに尽くした。
宮本隆良は、休学して現代美術のコラムを書いていた。

就職活動を機に出会った5人。それぞれの心境を隠しながら交流を広げていきます。しかし、瑞月が仲間内で最初に内定を取ったときから、関係は崩れていきました。

光太郎は拓人のルームメイトで、瑞月を振った張本人です。皮肉屋、聞き役、観察者と人に付き合わない連中を明るくまとめていました。そんな彼の志望は出版業界。滅多に本を読まないことから疑問に持たれていましたが、当初誰も理由を聞きませんでした。後に語った真実は翻訳志望の初恋の人と仕事がしたいから。瑞月は主人公のような生き方だと評しました。

瑞月は理香の友人で、光太郎に2回告白しています。他の4人と比べて意見を出すことは少なく、5人のときは聞き役に徹していました。志望は外資業界でしたが、後に国内の映像業界に変更して内定しています。彼女の事情は母親の心身不調でした。

隆良は理香の恋人で同棲したばかりです。就職に対して下のように発言していたり、個人でコラムの執筆を仕事としていたりと就職活動を軽視している節が見られました。しかし焦りから、4人に隠れて就職活動を行っています。

「突き詰めて考えると、俺は、就活事態に意味を見出せない。なんで全員同じタイミングで自己分析なんか始めなきゃいけないんだ? ていうか、自己分析って何? 誰のためにするもの? 俺なんかはちょっと色々引っかかっちゃうんだよね」


p.72 隆良の発言を引用

理香は誰よりも就職のノウハウを調べて、拓人たちに教えていました。大企業志向ですが、何度も何度も落選していきます。その志望の裏には何者かになりたいという気持ちがありました。2回の留学、御山祭実行委員広報班会長、バックパッカー、国際教育ボランティア。いろんなことに手を出しても別人になれなかった劣等感から来ています。

拓人は全員を俯瞰していました。しかし、受けないと言っていた演劇業界を志望するなど齟齬が目立ちます。根幹にある気持ちは、誰かとして認められたいという承認欲求でした。元相方の烏丸銀二は演劇団体を設立して月1で公演しているのに、拓人はその一年で何もできなかった。更には光太郎や瑞月に先を越されてしまう。逃げるようにSNSに傾倒していました。

SNSの発言と

この作品の特徴として、SNS、特にTwitterが各箇所に見られます。登場人物の一覧もTwitterのプロフィールとなっています。また、話の展開と共にどう過ごしているかもTwitterから読み取れます。代表例を下に2点引用しました。

宮本隆良 @takayoshi_miyamoto 2日前
彼女のシューカツ仲間がウチにて会議中。就活なんて想像したこともなかったから、ある意味、興味深い(笑)。そんな彼女たちを横目に、買ってきた「思想を渡り歩く」を読み進める。ゼロ年代分化の転換期(変換期とのいってもいい)についてのコラム集。とっても興味深い、instagram……
お気に入り1


p.46より引用。インスタグラムの中身は模擬ESに取り組んでいる3人+光太郎

理香・隆良と拓人・光太郎の初対面のときの記事。隆良の初対面以降は書かれていないが、彼が模擬ESを表向きやっていないことが分かります。隆良の投稿は、現在の就職活動への皮肉や執筆活動がつづられています。

RICA KOBAYAKAWA @rika_0927 4日前
目標のOB訪問二十人達成! 名刺の効果スゴイかも。デザインも含めて、お気に入りアイテムになって満足。隆良からもらった名刺入れの色ともバッチリで、早くこの百枚がなくなればいいな。これからこれだけの人に出会えると思うと、ワクワク! もっとたくさんの人に会って、いっぱい吸収しよう。


p.150より引用

理香が先行して名刺を作ってみた後日の話。理香のTwitterには、「就職活動で何を行ったか」を中心に書かれています。裏の思惑を知っていると、最後の一文の意味が変わって見えます。

Twitterでは似ていた2人

拓人はギンジと隆良を似ていると称しています。何者にかなりたくて、その途中でアピールしている点が恥ずかしい。2人とも想像力が足りないと軽視していました。

ある日、拓人のバイト先の先輩であるサワ先輩は、『全然違うよ、あのふたり』(p.172)と拓人の考えを真っ向から否定します。たとえ140文字が似ていても、その裏で捨てた文字が違う。去り際にサワ先輩は想像力が足りないと拓人に伝えました。

隆良は現状を否定して未来を考え、ギンジは自分の現在の方向性を見出そうとする。言いたいことは似ていても、その裏側にあるものが違います。この違いから拓人は気付こうとせず、批判文という麻薬を打つのでした。

備忘録。 @BIBOUROKU 16日前
出版社S一次面接。人生を変えた一冊は、と聞かれたから正直に答えたけれど、あの面接官、ピンと来てなかった様子。改めて、自分の思想やスタンスは言葉では説明できないことなのだと実感。つまりこれからやっていきたいことも、言葉で伝えられるようなことじゃないから、自分にとって面接は無意味だ。

烏丸ギンジ @account_of_GINJI 11日前
四月。新年度。自分がこれからやっていきたいことへの第一歩を、改めて踏み出し直す。この年になると、これまでの友達が、みんな社会へ出ていく。みんな、がんばれ。俺も、がんばる。俺も、がんばってる。がんばってることを、言葉じゃないもので伝えようと思って、今日も舞台の上にいるよ。


p.178より引用。備忘録は隆良の裏アカウント

まとめ:何者になれるのか

全く努力をしなかったとしても、大学生までは肩書きが変わります。しかし、その先の肩書きを簡単につかむことはできません。そんな世の中だからこそ、SNSの『お気に入り』に価値があるのかもしれません。

たとえ恰好が悪くても、その姿をさらけ出すしかないと理香は言う。ダウトのように値が隠せるのだから、無駄な努力をしていると拓人はあざ笑う『何者』かになりたかった2人の対立が描かれます。

朝井リョウ作『何者』は、SNSを使用している高校生・大学生にこそ読んでほしい作品です。

書籍情報

著者 朝井リョウ
発行 2012年11月30日
発行所 株式会社新潮社

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