【朝井リョウ「少女は卒業しない」_感想】最後の放課後、関係の変化

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朝井リョウの「少女は卒業しない」の紹介記事です。3月25日という時期外れに行われる卒業式。高校が潰れる最後の日に着目したオムニバス形式の作品です。

各構成の結びつき・伏線の豊かさや学生が描く青春模様が魅力的だと考えています。

 

  • 第一章:エンドロールが始まる →早朝
  • 第二章:屋上は青       →卒業式直前
  • 第三章:在校生代表      →卒業式
  • 第四章:寺田の足の甲はキャベツ→卒業式後
  • 第五章:四拍子をもう一度   →卒業ライブ
  • 第六章:ふたりの背景     →卒業ライブの裏
  • 第七章:夜明けの中心     →夜明け前

午前の部は別れへの想いが主軸となっていました。踏ん切りをつける人から新たな始まりを見つけ出す人まで。どの少女たちも今と離れた未来を見据えていました。

後編は第一章、第二章でまいた伏線を回収する章です。生徒を送り出すバンドの紛失事件を描いたもの想い出を掘り起こそうとする青年たちを映し出したもの。そして、隠していた罪を清算しようとする少女たち。

夜が来て朝が来る。午後の部では情景とともに移り変わる、心理描写が興味深い物語が中心になっていきます。

前編記事 

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目次

「少女は卒業しない」ストーリーPickup(後編)

第四章「寺田の足の甲はキャベツ」:ユーモアなタイトルの裏側で

第四章の視点である後藤は、女子バスケ部の部長で第三章の亜弓の先輩です。彼氏の寺田と、思い出の品を掘り起こすために自転車1台で抜け出します。

少女たちは亜弓の宣言をきっかけに付き合い始めました。それぞれの思いを胸に秘めて、季節外れの花火リレーを楽しみます。

明らかな答えから目を背けるように

「最後だな、花火」
残っていた花火、二本。あたしと寺田で一本ずつ。
寺田はあっちを向いたまま、あたしから花火を受け取った。(p.136)

この章は特に情景描写を強く描かれいます。結末へ後藤の心が震えていたことを示唆しているのでしょう。

「スゲーみんなたのしそうだなあ……ほら、野球部のとこなんて、あそこだけ桜が散ってるみたいだぞ」
「いや多分あれ破り散らかした卒業証書」
「……きれー」
最後のお祭りの渦を作っているような学校の中で、東棟だけが、その場に佇んで見えた。(p.113)

自転車に乗っているときの1場面です。ライブを見に行くと約束するバスケ部のように、浮かれている野球部が描かれています。

ユーモアなタイトルの中で、終わりを惜しむ心境と東棟の不気味さが浮き出ていました

第五章「四拍子をもう一度」:どうして衣装を取り上げたのか

卒業ライブは毎年の卒業式の後、軽音部によって行われています。第三章、第四章の恋のきっかけとなりました。そんな卒業ライブの舞台裏で起こった、衣装喪失の事件が取り上げられています

どうして元部長の神田が誰よりも焦っているのか。ボーカルの森崎が姿を整えるくらい平常心を保っていたのか。トリックよりも心理描写に着目されています

トリックは非常に単調な物でしたが、上手くタイトルは回収されていました。

第六章「ふたりの背景」:転校少女が再会を願う

アメリカに行くことの決まっている少女、あすかが正道に再会の約束をするストーリーです。章の根幹は過去の話で、あすかの居場所が変化していく様子が描かれます

カナダから転校してきたあすかにとって、教室は詰め込み過ぎで、生徒とはそりが合いませんでした。正道が描いた、東棟の外壁に飾られた絵をきっかけに、少女は美術部に入ります。

あすかは里香に怨みを持たれて、一層教室で孤独になりました。居場所を奪おうと美術にも里香は乗り込んできます。リレー肖像画であすかと正道の間に割り込み、正道に自分を書かせるように脅しました。

鉛筆一本で、白か黒かの世界の中で、私の横顔がそこにあった。とても、とても似ていた。
正道くんは眉を下げて視線を落とした。
「見えなくて」
丁寧に言葉を選んでいるときの顔だった。
「僕の目にあなたは、映らなかった」(p.196)

この文章に第六章の主軸がまとめられています。

  • 正道の無垢な気持ち
  • 里香への因果応報
  • あすかが再会を願う心境変化

父の転勤に振り回されたあすかが、正道にだけ再会を約束します。海を越えてでも続けたい関係ができた。最初の印象からの変化が特長でした。

第七章「夜明けの中心」:過去と今を重ねて

まなみは真夜中、北棟の裏側から高校に侵入します。うわさの東棟ではなく、『南棟』の幽霊に会うために。教室の引き戸を開けると先客の香川がいました。

事故以来の2人きりで、少女らは南棟の調理室へ向かいます。

幽霊の正体とうわさを消した犯人は、今までの章で明かされています。それでも少女たちは幽霊を求めました

第七章は過去と現在の2文が重なる特徴があります。発言者は違っているこだわりがみられ、一例を下に引用します。

「ずっとこうしていたいな」

「ずっとこうしててもしかたないよな」(p.253)

ドン、と音がした。

ガチャ、と音がした。(p.244)

真夜中から夜明けにかけて、1日をつづる一連の物語は終わりを告げます。日の出と2人の心境変化が重なるよう、描写されていました

総じて時の変化に注目する章でした。

まとめ:新たな一日

朝井リョウの「少女は卒業しない」の紹介記事です。3月25日という時期外れに行われる卒業式。高校が潰れる最後の日に着目したオムニバス形式の作品です。

各構成の結びつき・伏線の豊かさや学生が描く青春模様が魅力的だと考えています。『同じ学校』というつながりがなくなって、関係の行く末は人それぞれ。

青春らしさを見たい人、オムニバス形式の作品が好きな人へ特にオススメします

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