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【東方Project二次創作_感想】東方帽子屋
納豆チーズV作「東方帽子屋」の紹介・感想記事です。原作の記憶を持ってレミリア・スカーレット転生した主人公。495年前の過ちを防げなかった過ちから、狂った帽子屋として表情を固めてしまいます。これは答えを失った少女が全方位にお節介を焼きながら暗躍し、救われるまでの物語です。
周囲を不幸にしたくない想いから生じた、最終章までの伏線と最後の異変が素晴らしい作品でした。
目次
東方帽子屋_小説情報
小説データ
ページ:https://syosetu.org/novel/29577/
作者:納豆チーズV
警告タグ:R-15, ガールズラブ, オリ主, 残酷な描写, 転生, 性転換
話数(2022/10/24):136話、888,979文字
UA(2022/10/24):1,593,229
主要登場人物
レーツェル・スカーレット
本作の主人公兼語り部、前世の記憶を持った原作開始時点で498歳の少女。銀に幾房か金が混じった髪と羽の骨しかないような不思議な形の翼を持つ。『答えをなくす程度の能力』と生活魔法・影魔法の使い手で、実力は紅魔館随一。一番好きな人は姉レミリア。
表情は動かないがお節介で、人里にも出向いている。鬼に嫌われたり、神事で鷽につつかれたり、誰かに嘘を吐き続けている旨がある。
狂った帽子屋という蔑称やスペルカードは『不思議の国のアリス』に因んだもの。
レミリア・スカーレット
原作開始時点で500歳の吸血鬼。両親がいない紅魔館を490年以上守り続けてきた。『運命を操る程度の能力』を持っており、ハッピーエンドに行き着くために幾度となく運命を調整してきた。
レーツェルの表情が消えた現場に立ち会っており、これ以上負担をかけないように努めてきた。彼女の祈りが届き、手札が揃うまであと一歩。
スペルカードは紅色と吸血鬼に因んでいる。
フランドール・スカーレット
原作開始時点で495歳と3姉妹の末っ子。生まれてすぐに親を殺め、紅魔館地下に495年間軟禁されていた。レーツェル達のおかげで力の調整ができるように成長したり、他の住民との仲が良くなったりしている。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』という随一の火力を持つ。
次女想いの良い子なのだが長女との相性の悪さは健在で、最終章でようやく初めての共同作業をした。
紅美鈴
3姉妹以外で初の住民。夜中心の生活を送る吸血鬼に代わって昼の門番を担当する。美鈴と刺客の対戦を見るため、結局全員昼型の生活を送ることとなった。
パチュリー・ノーレッジ
居候兼紅魔館の司書。種族魔法使いで1943年に紅魔館を訪ねた。『火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力』から魔法に長ける一方、身体能力に劣る側面も。
十六夜咲夜
紅魔館最年少のメイド。『時を止める程度の能力』を持ち、暗殺から家事まで幅広く使われている。
能力上の天敵はレーツェル。止まった時から彼女を認識できないため。
古明地さとり
地底にある地霊殿のトップで、古明地姉妹の姉の方。『心を読む程度の能力』を持つがゆえに嫌われてきた。
能力上の天敵はレーツェル。読まれても気にせず、触られると読めなくなるため。彼女の同伴によって地表に安心して出られるようになった。
原作:東方Project
忘れ去られた存在が集まった場所、幻想郷にて繰り広げられる日常と異変を描いた作品。Windows版東方Projectの第一作「東方紅魔郷」は2002年に弾幕シューティングゲームとして販売されました。
神主(原作製作者)が二次創作を黙認していることから、ゆっくり動画の目印になっていたり、ニコニコ動画に多数MMDがアップロードされていたりと二次創作の規模が大きい作品となっています。ゆっくり茶番劇騒動のように限度はあります。
東方帽子屋_ストーリーpickup
答えをなくす程度の能力
レーツェル・スカーレットが所持する力をまとめていました。彼女の程度の能力は、事象を定義づける原因と結果から結果だけを消去することで、事象をなくしてしまいます。作品中だけでも下のようにあり、何でもありに近い冒涜的な力といえました。
更に自分にかける場合は発動条件やコスト、タイムラグはなく、可逆性です。
- 感情から存在する表情という『答え』
- 音を越えること、そして衝突によって怪我を負うという『答え』
- 銃弾で怪我をする『答え』
- 炎により火傷を負う『答え』
- 妖力の光線で怪我を負う『答え』
- 日差しにより自身が灰になっていく『答え』
- 能力を行使するという『答え』
- 寿命が減っていく『答え』
- ○○により傷つくという『答え』
理不尽な強さの反面、能力が枷になっている部分もありました。表情を消してしまえるから心を開けない。大体のことはできるから助けてもらおうとしない。たとえ絶望して泣いていても、答えをなくして蓋をしてしまえば苦も無く過ごせてしまいます。
紅魔館3姉妹の物語は、枷がどう顕在してどうやって取り外していくかに行き着きました。
想いの強さと縁
本作は二次創作界隈を通して特に伏線が組み立てられている作品だと感じました。レーツェルの暗躍とレミリアの調整による成果です。
紫関連だけでも一連の流れになっており、1つでも欠ければエンディングに辿り着けませんでした。
- 吸血鬼異変にて油断している隙をつき、貸しを作る(2ー十二)
- 貸しによって古明地姉妹と会うきっかけを得る(7ー六)
- 『全力を以てあなたを止める』と誓われる(8ー十)
- 異変の時期を調整される(Kapitel 9)
- 宣言通り動くことによって起点を作られる(10ー六)
また茶番でも伏線になっていることがありました。節分の豆まき(4ー十六)はレミリアの想いの強さと、願いがレーツェルに届いていないことを伝えました。ギャグのようにしかみえない人間っぽい骨(5ー三)は想定外の策を授けました。個々の話に目的があり、無駄な話が一切なかった点も強みだと考えます。
正直になれない少女
鬼に嫌われるほど常に嘘を吐き続ける少女、レーツェル。全方位に幸せを振りまいても、心の底では救われていませんでした。辛いのに、苦しいのに。助けて欲しいと言えない彼女は自分を犠牲にしてでも周りを救うために暗躍し始めます。
手始めにやることは自分を解体することでした。どれだけばらせば死ぬか、復活するまでのスパンは。自分を装置としか見ていない狂気が描かれています。
管理者がこんな強行策を通すわけも、姉妹が許すわけもありません。周囲の全力を以て敵対することとなりました。
「一人……めんどくさいやつがいたのよ。私は私のやりたいようにやってるだけなのに、そいつはその行動をいちいち気にしてくるの。ちょっとでも危ないことしようとすると『大丈夫ですか?』『怪我はありませんか?』ってさぁ、もう鬱陶しいくらいに。そんなの私の勝手でしょって言ってやりたいわ」
10ー三.Priesterin und Zauberer
みんなが救われる世界
レーツェルにとってみんなが救われると考えた世界は、思いついた危険を全て取り除いたものでした。周囲にとってそんな世界は地獄以下の世界だったのです。
何も食べられない、傷つけても痛みを感じない、狂気に堕ちたくても消えられない。レーツェルがいた記憶の穴はぽっかりと空いてしまう。果たして誰が救われたのでしょうか。
記憶の穴から少女たちは手掛かりをつかみ、物語は終章へ突入しました。
Alice im Märchenland
この物語のいたるところにドイツ語や『不思議の国のアリス』の要素が組み込まれています。
レーツェルが「狂った帽子屋」を自嘲したり、鈴仙を「三月のウサギ」に例えたり、ウサギと帽子屋は終わることのないお茶会を続け、アリスに答えのない意味のない問いかけをしています。
能力の由来は意味のない問いかけでしょう。不思議の国のアリスは数多くの物語の元となっていますが、文章や背景に狂気が散りばめられています。明るい表層と狂った実情、さりげなく行われる凶行とレーツェルの元ネタにぴったりな題材です。
まとめ:帽子屋は水銀から解き放たれて
納豆チーズV作「東方帽子屋」の紹介・感想記事でした。これは答えを失った少女が全方位にお節介を焼きながら暗躍し、救われるまでの物語です。周囲を不幸にしたくない想いから生じた、最終章までの伏線と最後の異変が素晴らしい作品でした。
全てから解き放たれた少女が最初にこぼしたものは涙でした。後日談では前世の記憶と一緒に知能も流れてしまったのか、妹よりも子供っぽく、裏表なく楽しんでいる姿が描かれています。
後日談まで含め約89万文字と長いながらも、文字数以上の価値を見出せるファンタジーだと考えました。
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