【新レーベル紹介】ダンガン文庫はライトノベルの衰退に風穴を開けられるか?

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近年3つの理由を中心にライトノベル業界は大きく衰退しています。2010年代初期の勢いは衰え、アニメ化作品自体は増えつつも市場規模は半減以下になってしまいました

  • メディアミックス前提の状態
  • 客層の成熟および新規顧客の流入不足
  • 新たな娯楽の増加

そんな中、挑戦的なスタンスとマイナビによる出資から2023年1月末に新しいライトノベル専門レーベルが誕生しました。ダンガン文庫と名付けられ、既存の業界に風穴を開けるべく独創的なジャンルの新作を打ち出す方針のようです。

果たしてダンガン文庫(BookBase)の試みは成功するのか、ライトノベル業界の衰退原因とダンガン文庫のスタンスを見ていきます。

実際のところ、本記事の衰退は紙書籍のライトノベルについて述べています。電子書籍の分野では漫画の次にライトノベルが来るという統計もあり、実態は把握しきれていませんが電子書籍に移行しただけの可能性も考えられます
しかし、電子書籍がロングテールかつシリーズものが優先される風潮から、新規作品が伸びない問題はやはり存在すると考えました。

目次

ライトノベル業界の衰退

ライトノベル業界の衰退は少子高齢化によるものではありません。原因は下の3つに分けられます。

  • メディアミックス前提の状態
  • 客層の成熟および新規顧客の流入不足
  • 新たな娯楽の増加

メディアミックス前提の成長率

出版科学研究所の調査によると、文庫ラノベ市場は2012年(284億)をピークとして2021年(123億)には半分を切ってしまいました。この傾向は2022、2023でも変わりません。ビジネス書が6割ほどで抑えられ、児童書が好調(780⇒880億[2019])な点から文字媒体というよりライトノベルというコンテンツの衰退といえるでしょう。

出版科学研究所のライトノベルの定義ははっきりしていません

一方でコミックの業界は盛り上がっています。下にTORJA(ライター中山 淳雄)の図を引用しました。小説投稿サイトの老舗で知られるアルファポリスの売上高です。本職であるライトノベルの売り上げはここ数年で変わらない一方、コミカライズの事業で急激な成長を果たしていました

ライトノベル業界最大手のKADOKAWAはメディアミックスに長けています。生き残る術を探るべく、近年になってコミック化、アニメ化を一層推進するようになりました。下の表はWikipediaから作品を抽出し、OVAも1作品にカウントした際のアニメ数です。上図の引用先ではアニメ化が縮小傾向にあると書かれていましたが、作品数は深夜アニメのスタンス変化によってむしろ増加しています

しかし、問題は新規作品の2クール目が決定しにくい点にあると考えています。コミック原作の作品が複数クールで放映される、終わってすぐに次の制作が決定する中、ライトノベル原作は必ずと言っていいほど円盤の売り上げが出るまで動きません。アニメ製作に時間がかかる都合上、旬を逃す可能性も考慮しなければならないからでしょう。

ライトノベル業界衰退の要因はイメージが悪く、新規作品が継続しにくい環境にあると考えます。

客層の成熟化および新規顧客の不足

ネット小説においても成熟した環境になりつつあります。対象年齢も中高生から大学生・社会人にシフトしつつあり、主人公像も変わっています。

黎明期に流行った異世界転生は『自分の活躍できるところに行きたい』『人生逆転の機会が欲しい』といったような願望が感じられ、限界を知った思春期の悩みに刺さるものでした。

悪役令嬢は『光の当たらない立場から願いを叶えたい』、追放系は『自分の価値を理解できない集団から、真の価値を見つけてくれる場所に移りたい』、悲哀青春の恋愛モノは『自分が味わえなかった青春を感じ取りたい』……2020年代になって流行ったジャンルはいずれも社会の荒波にのまれる社会人が共感できる感情が含まれています。特にざまあ系と呼ばれるものは、日ごろ口答えできない上司・同僚への怒りがこもっているように思えてしまいました。

社会人向けの娯楽は数多くあります。そして社会に受け入れられたゲームや漫画と異なり、ライトノベルは未だに良いイメージを持たれていません。マスメディアが漫画やゲームの流行を報じた経験はあれど、ライトノベル分野の著名作を売り出してくれません。さらに小説・ミステリー派閥からは軽い文体だと批判され、漫画派閥からはノベライズ化されても『文字を読みたくない』と否定される始末です。ネットでも『なろう系』はテンプレかつ質の低いものとして広まってしまいました。

ライトノベル業界は対象年齢を変えても求める客層が入って来ず、内輪のネットワークになりつつあります

新たな娯楽の増加

ライトノベルが絶好調であった2010年ごろと比べ、新たなコンテンツがたくさん出てきました。

2012年の『パズル&ドラゴンズ』から課金型のソーシャルゲームが大流行し、ネットゲームやコンシューマーの需要が下がりました。コロナショックでコンシューマーゲームが再評価され、同人ゲームが進歩するまでこれらは冬の時代を過ごしていました。

海外からネットフリックスなどサブスクリプション型の動画サービスが来日し、既存のテレビも苦境に立たされています。

無料漫画の分野も漫画村(2016-2018)事件などを機に公式も手を出すようになり、広告やサブスクリプション形式の無料漫画アプリ・サービスが出現しました。電子書籍の流行もあり、今では50以上のサービスがあります。

一方10年間で人々が娯楽に費やせる時間はそう増えていません。優先度の低い娯楽は淘汰される傾向にあります。更に悪い問題として文字以外で情報を得られる要素も増えていました。本の要約をしてくれる動画配信者もいれば、耳で書籍の情報を聴くオーディオブックの市場も伸びています。

これらをまとめると、ライトノベルにかける時間が優先して捨てられたから衰退したとも考えられます。

ダンガン文庫の試み

3つの原因によってライトノベル業界は苦境に立たされています。絶望的な雰囲気の中、ダンガン文庫は挑戦的なスタンスで飛び込んできました。

ダンガン文庫の特徴的な点を紹介していきます。

小説家&編集者のコミュニティから成長

ダンガン文庫の元は2019年に行われたクラウドファンディングによって誕生しました。小説家・編集者のレベルを向上させ、ライトノベルの可能性を広げるために活動しています。

特徴的な活動は、双方のスキルアップを図るために作られたBB小説家コミュニティでしょう。また、オタクペンギン(Xアカウント)というアカウントで社長&編集長が自ら広報に携わっていました。

BookBaseオリジナル製品のみ販売

ダンガン文庫専用のプラットフォームBookBaseは、コミュニティ由来の作品およびダンガン文庫の書籍しか販売していません。さらにKindleなど主要な電子書籍サービスで取り扱わないと公表しています。

書籍業界では珍しく感じますが、食品や美容品などでみられる方法です。他社サイトで売り出すときの場所代を、後述する印税へ回していると推測されます。

紙書籍で従来通りの販路展開をする既存レーベルと自費で作成して大手サイトに登録する同人出版。ダンガン文庫はレーベルの電子書籍出版と同人界隈の出版の間に位置づけされます。

作家への還元率が45%と圧倒的

顧客へ高い還元率をうたう電子書籍サービスはebookjapan、まんが王国など見かけますが、作家への還元率を第一に掲げたサービスは初めて見ました

通常電子書籍は紙媒体よりも費用がかからず、還元率=印税の割合も高いとされています。しかし、電子書籍の補正がかかっても5~10%が相場です。

参考:印税の相場はどれくらい?商業・自費・電子書籍・企業出版の場合の具体的な金額を解説

企業側はコストのかかりにくい電子書籍を中心とし、全てを自社で完結しているから実現できたと述べていました。

還元率の異様な高さは自社の儲けより業界の白熱を願うスタンスが最も現れている部分といえます。

スタートダッシュを意識したプロ作家の参戦

はっきり言って、新規レーベルが新人作家を持ってきてもまず売れません。ましてやKindleや楽天koboといった主要な電子書籍販売サイトに並べない以上、人の目につくこともほとんどないでしょう。専用サイトBookBaseの認知度が低い点も問題です。

この問題を解決するべく運営陣営は、他のレーベルで真似できない圧倒的なスタートダッシュを試みています。おおまかな思想に共感したプロ作家15名とコミュニティの精鋭5作を連続して出版することを決定しました。本記事を書いている2024年2月1日現在、1作目の雨木シュウスケ著『セカンドムーン1 少女と掃除機のルンバ』だけが販売されています。

公式ホームページで公開されている作家の一覧を表にまとめました。

作者代表作
神野オキナあそびにいくヨ!
(ファミ通文庫)
三島千廣シロクマ転生 森の守護神になったぞ伝説
(HJノベルス)
遊歩新夢星になりたかった君と
(実業之日本社)
すえばしけんスクランブル・ウィザード
(HJ文庫)
二丸修一幼なじみが絶対に負けないラブコメ
(電撃文庫)
甘木智彬第七魔王子ジルバギアスの魔王傾国記
(オーバーラップ文庫)
涼暮 皐セブンスターズの印刻使い
(HJ文庫)
榊一郎棺姫のチャイカ(富士見ファンタジア文庫)
アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者(講談社ラノベ文庫)
十文字青薔薇のマリア(角川スニーカー文庫)
灰と幻想のグリムガル(オーバーラップ文庫)
しろいるか景品として異世界転生したら捨てられたので好きに生きようと思う
(オーバーラップノベルズ)
氷高悠【朗報】俺の許嫁になった地味子、家では可愛いしかない。
(富士見ファンタジア文庫)
周藤蓮賭博師は祈らない
(電撃文庫)
雨木シュウスケ鋼殻のレギオス
(富士見ファンタジア文庫)
イワトオ迷宮クソたわけ 最弱魔法使いは借金返済のためコツコツ冒険をくりかえす
雨宮和希灰原くんの強くて青春ニューゲーム
(HJ文庫)

まとめ:いったん様子見

ライトノベル業界の衰退の要因

  • メディアミックス前提の状態
  • 客層の成熟および新規顧客の流入不足
  • 新たな娯楽の増加

ダンガン文庫の特色

  • 小説家&編集者のコミュニティから成長
  • BookBaseオリジナル製品のみ販売
  • 作家への還元率が45%と圧倒的
  • スタートダッシュを意識したプロ作家の参戦

近年3つの理由を中心にライトノベル業界は大きく衰退しています。2010年代初期の勢いは衰え、アニメ化作品自体は増えつつも市場規模は半減以下になってしまいました

そんな中、挑戦的なスタンスとマイナビによる出資から2023年1月末に新しいライトノベル専門レーベルが誕生しました。ダンガン文庫と名付けられ、既存の業界に風穴を開けるべく独創的なジャンルの新作を打ち出す方針のようです。

現状はスタンスに共感しており、衰退するライトノベル業界に風穴を開けられる可能性は十分にあると考えています。しかし、2つの理由から静観の立場を取る予定です。

  • 1冊目の書籍が個人的なストライクゾーン間際で購入を迷っている
  • 試し読みをした限り、BookBaseのリーダーが使いにくい

別記事で1作目『セカンドムーン1 少女と掃除機のルンバ』の試し読みから得られたものをまとめる予定です。

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