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【魔術探偵時崎狂三の事件簿_感想】33:40 推理の時は刻まれる
橘公司著「魔術探偵・時崎狂三の事件簿」は同著者「デート・ア・ライブ」のスピンオフ作品です。本編中に狂三は囁告篇帙で魔術分野の知見を得ています。そのときの知識をきっかけに縁は生まれました。非常識な現象を引き起こす魔術工芸品の問題を解決するべく、狂三は探偵の役回りを任されます。
地の文の狂言回しや魔術的なトリックは原作本編を思わせるものでした。一方で同級生の2人しか原作出身のキャラクターは出てこず、寂しい印象を受けます。トリックに関しても能力に限られるため、魔術工芸品の攻撃をどうやってさばいていくかに主軸が置かれていました。
最初の犯罪が最期に回帰する様は、時を司った時崎狂三らしい外伝だったと思います。元々原作が好きな人だけでなく、魔術的なミステリー作品を探している人へもオススメです。
読みどころ3選
- 人に戻っても変わらない、時崎狂三の狂言回し
- 魔術工芸品の数々と、どうやって対処するか
- どんでん返しの伏線と意趣返し
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橘 公司/つなこ KADOKAWA 2023年10月20日
目次
小説情報
あらすじ
時崎狂三――人には言えない過去を持つ女子大生。そして、魔術工芸品犯罪を専門に扱う探偵。
狙撃不可能な場所から放たれ、探偵の胸を撃ち抜く『魔弾』。
橘公司「魔術探偵・時崎狂三の事件簿」巻末より引用
原因不明の連続昏睡事件に巻き込まれたドール愛好家たちが噂する『生きた人形』。
会員制の高級レストランで提供される一食五〇〇万円の『若返りの料理』。
自殺未遂事件が起きた女学園で目撃されたという『もう一人の自分』。
魔術工芸品によって引き起こされる常識では測れない不可思議な事件の数々を前に、狂三の推理の時が刻まれる!
主要人物
時崎狂三
彩戸大学一年生の女子大生。非対称なツインテールだった過去から、黒髪のストレートロングに変わっている。茉莉花の命令で、非常識な現象を引き起こす魔術工芸品専門の探偵となる。
前作『デート・ア・ライブ』では<ナイトメア>という異名を持つ精霊だった。時間にまつわる力を持ち、時計が映る金眼を髪で隠していた。前作の終幕により精霊から解放されたが、見た目は年齢不相応のままとなっている。
「昔彼女が主演を務めていたドラマでしてよ。大変な人気で、放送の翌日はよく話題に上っていましたわ」
「まるでリアルタイムで見られていたかのような口ぶりですわね。狂三さん今お幾つですの?」
「…………もちろん茉莉花さんと同い年ですわよ?」
『魔術探偵・時崎狂三の事件簿「Case File Ⅲ 狂三リストランテ」』より 彼女=田畠妙は54歳
栖空辺茉莉花
長い髪を見事な縦ロールにセットし、ドレスを着た見たまんまの令嬢。テンプレートなお嬢様口調で、狂三にツッコまれている。
魔術師の末裔でいくつかの魔術工芸品の所有している。散らばった工芸品を取り戻すために、狂三に探偵役を押し付けた。
「魔術探偵・時崎狂三の事件簿」ストーリーPickup
以下、ネタバレ注意です。
時を越えた魔法の弾丸
『魔弾の射手』からの襲撃予告。茉莉花は折紙経由で狂三へ頼み、予告時刻まで待機していました。それでも探偵役の男性が撃たれます。彼を貫いたのは今では使われない鉛玉。サイレンサーが付けられないにも関わらず、犯人は音を出さず予告を達成してのけました。
本作は『Who』『Where』『How』を解き明かす推理作品ではありません。魔術工芸品の事件を紐解くには当たり前の外にある可能性を考える必要があります。
『魔弾の射手』は獲物に必ず当たる伝承です。速度は常に保たれ、障害物を避けることができます。
- 一昨日にかんしゃく玉が弾けるような音がした
- 凶器は物置にあったマスケット銃、サイレンサーは付いていない
- 物置の窓の下方に葉っぱが挟まっている、普段は閉まっているが比較的新鮮、外には森が広がっており葉っぱにタネはない
狂三はこれだけの材料で真相を導きました。
もし解きたい方がいれば、頭を柔らかくしてここで立ち止まってください。
狂三はニィッと唇を歪めると、足を一歩前に踏み出し、茉莉花の顔を覗き込むように額と顔を近づけた。
『魔術探偵・時崎狂三の事件簿「Case File I 狂三ディテクティブ」』より
「わたくし、そういう、自分が安全地帯にいると思い込んでいる方の鼻を明かすのが、嫌いではありませんの」
狂三が精霊だったころ、時に関する12の魔弾を操っていました。このように各章で登場する魔術工芸品が、かつての狂三の特性と関連付けられています。
茉莉花は意図して情報を持ってきていたのか。真相は最終章にて明かされます。
高級料理と唾棄すべき味
1食500万円の『若返りの料理』を出す、『Nid de Pigeon』という会員制レストランがありました。オーナーシェフ御厨鳩子の若すぎる見た目もあり、有名芸能人がお忍びで来る名店となっています。
茉莉花はギリシア神話の酒を模した魔術工芸品『ネクタル』を悪用しているのではないかと推測しました。
前菜オマール海老とアスパラガスのポシェは大富豪の娘である茉莉花を唸らせる一品でした。しかし、狂三は『唾棄すべき味』として投げ捨てました。
狂三はどうして不味いではなく、唾棄すべき味と評したのでしょうか。答えは想定外の魔術工芸品『吸血鬼の牙』による犯行だったからです。精気を吸い取り、副産物として生命力の露出をもたらす代物。寿命を削って若返ったと思った客が何度も足を運び、自ら命を提供してくれる。店名を口語訳すると『間抜けの巣』となります。
精霊ナイトメア(時崎狂三)の弾は時間を代償にしていました。この問題を解決するため、ナイトメアは『時喰みの城』を用いて一般人の時間を吸い上げていました。経験から狂三は『人の寿命を喰らう者の臭い』をかぎ分けることができたのです。
車輪の再開発
『Case File IV 狂三シークレットガーデン』は他の章と比べて、独特な雰囲気のストーリーとなっています。全寮制のミッションスクールで起こった自殺未遂事件を、記憶を失った時崎狂三が人々に聞き込みして原因を探っていきます。
被害者松谷杏奈は寮の自室で血を流した状態で発見されました。気づいたら手首が裂けていたと杏奈は供述しています。メモから分かっていることは、一定時間対象そっくりに化けられて感覚を共有できる『取り替え子』が使われていたこと、犯人によって記憶の欠落がもたらされていることの2つ。茉莉花の助けもあり、関係者に取材を重ねていき……
『デート・ア・ライブ』原作読者であれば薄々察していることでしょう。彼女は時崎狂三ではありません。狂三のメモから身の危険を感じ、変身してから手首にナイフを刺そうとした加害者です。
狂三にとって同じ顔がたくさんあることは、かつての日常でした。過去の再現体を作る『八の弾』を使い、情報収集に活用しています。原作では分身体が原作主人公に接触するエピソードもあり、狂三を代表する能力となっています。
栖空辺家襲撃事件と散乱した魔道工芸品
魔道工芸品を管理していた栖空辺家を誰が襲撃したのか。狂三はかつての事件を振り返り、1つの結論に達しました。
『魔道工芸品のオークションを開催する』偽の計画を犯人に送りつけます。彼女は好機だと考え、狂三を引き連れて目的地へ向かいました。
彼女は金銭の暴力で数々の商品を落札していきます。一方で過去を映す『ウルズの時計』を偽物だと断定し、静止しました。
最後の1品は魔術工芸品ではありません。かつての狂三を模した<神威霊装・三番>です。ただの服に彼女は戦慄してかつてない金額を叩きつけました。
栖空辺家を襲撃した犯人は、DEMの誘拐から救ってくれた時崎狂三になりたかったのです。暗示能力で栖空辺家の令嬢になり替わり、栖空辺茉莉花として回収を時崎狂三に依頼していました。
- 時を越える魔弾を使って戦い
- 人形のような見た目で年不相応な活躍をし
- 寿命を吸い上げる力を有し
- 同じ姿の自分を偏在させる
狂三に依頼した4つの魔術工芸品は、時崎狂三を連想させるものです。
狂三たちは軟禁されていた栖空辺茉莉花本人を救出し、一番頑丈な夜刀神十香の姿を『取り換え子』で借りて同席させていました。
元茉莉花はトリックが明かされ逃げを計ります。所在を知らせていなかった『ギュゲスの指輪』を用いて透明になりました。それでも狂三は慌てません。既に意趣返しを差し出していました。
まとめ:推理の時は刻まれる
マスケット銃の初速は秒速330mです。初速が落ちないと仮定するならば、地球を回って返ってくるのにどれだけの時間がかかるでしょうか?
40000[km]/0.33[km/s]≒33時間40分
「この結果は、三三時間四〇分前から決定していました。
――『魔弾』。ひとたび放たれたなら、対象に当たるまで止まることのない魔性の弾。
たとえ相手が地球の裏側にいようと。
たとえ相手が――透明になっていようと」
『魔術探偵・時崎狂三の事件簿「Case File V 狂三オークション」』より
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橘 公司/つなこ KADOKAWA 2023年10月20日
橘公司著「魔術探偵・時崎狂三の事件簿」の感想・紹介記事でした。狂言回しのエピソードは原作を思わせるものとなっています。原作出身のキャラクターは2人しか出てきませんが、魔術工芸品の能力がかつての狂三を思い起こす代物でした。
最初の犯罪が最期に回帰する様は、時を司った時崎狂三らしい外伝だったと思います。元々原作が好きな人だけでなく、魔術的なミステリー作品を探している人へもオススメです。
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