【エンド・オブ・アルカディア 感想】不死の道具から人間へ

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蒼井祐斗「エンド・オブ・アルカディア」の感想・紹介記事です。死なないようになって、ドローンより安くなった少年少女が戦い続ける世界。死にきれなかったことをきっかけに生命の価値に気付いていくファンタジー小説です。

本作に謎解き要素はなく、一直線な展開となっています。特殊な環境の設定を活かすため、敵の心情や主人公とヒロインの描写などを王道設定に寄せていると考えられます。

電撃文庫公式YouTubeより

読みどころ3選
  • 戦争が必需品の社会設定
  • 最も一緒にいた相手の素顔
  • 道具から人として、育まれる精神
目次

小説情報

あらすじ

彼らは安く、強く、そして決して死なない――。
究極の生命再生システム《アルカディア》が生んだのは、リスポーンを駆使して戦う10代の兵士たち。戦場で死しては復活する、死を超越した子供たちだった。

合衆国軍のエースとして小隊を率いる少年・秋人は、全滅必至な機密情報のサルベージを命じられる。しかし予期せぬ戦闘と崩落で仲間を庇った秋人は、因縁の宿敵である連邦軍のエリート少女・フィリアとともに、リスポーン不能な地下深くで孤立。性格もスキルも正反対で相性最悪な二人が協力して、地上への帰還を目指すことになり――。

電撃文庫公式ホームページより一部引用

主要人物

一ノ瀬秋人

黒髪に漆黒のタクティカルスーツを身に付けた青年。対戦車ブレードを用いた直列操作に長けており、第一小隊の隊長を務めている。かつては戦場で敵軍を血の海にしていたことから《血の無き男ブラッドノード》と呼ばれていたが、半年前の事件を契機に人を撃てなくなってしまった。

フィリアは彼を、大切な友達に全てのリソースを注ぐ生き方と分析している。

フィリア・ロードレイン

プラチナブロンドの長髪と深い蒼の瞳をした少女。ドローンの並列操作技術に長けており、中佐という階級以上に敬われている。蒼の瞳で見たものを正確に撃つ技術から《致死の蒼リーサルブルー》と恐れられている。

秋人は彼女を、一度決めたことにこだわり意地を通し切る人だと分析した。

天代玲奈

黄金の髪をアレンジした、秋人のチームメンバー。不意打ち戦法が得意。

葉木遼太郎

燃えるような赤髪の青年。戦場屈指の爆弾魔で、秋人ら第一部隊の副隊長を務める。

人を殺して点数を稼いでくれない隊長へ嫌気がさしている。

システィ・カルトル

短い黒髪をしたフィリアのルームメイト。狙撃銃〈SMR-52〉を愛用し、何度も秋人の眉間を撃ってきた。

神崎徹

一ノ瀬秋人の直属の上司で、階級は大佐。
フィリア・ロードレインの軍のトップで、階級は大佐。

つまりそういうことである。

「エンド・オブ・アルカディア」ストーリーPickup

ARCADIAがもたらしたもの

タイトルにもなっているアルカディア(ARCADIA)は、クローン技術によって不死を達成するための装置です。革命的な技術によって人の価値は下がり、もはやドローン以下となりました。

  • チョーカー型の装置で記憶変数体を自動更新する
  • 記憶媒体を介して蘇生することで、記憶の連続性を達成した。
  • 食品印刷技術を用いて、1分も経たずに再生が可能
  • 装備も複製可能
  • 記憶変数体の書き換えは19歳以下にしか適用できない

研究者らが開発した夢の技術は、戦争のためだけに使われていました。戦争は大人になるために必須の科目となりました。キルスコアが高ければ理想の役職に、低ければ毛嫌いされる3Kに配属されます。結局死んでいないのだから問題ない、将来のために相手だけを殺す技術が磨かれていきました。

一ノ瀬秋人はただ1人、人を殺すことを恐れていました。類まれな実力でありながらドローンしか壊せず、キルスコアは下がっていくばかり。致命弾を撃たない露骨さで、味方だけでなく何度も戦場で相まみえてきたフィリアにも気づかれていました。

周りに怒られてもなお、秋人は不殺主義を貫きました。

オペレーション:ホワイトアウト

神崎徹大佐から提示されたオペレーション:ホワイトアウト。戦争当初から計画されていながら全く成功していない、無茶苦茶な作戦として知られていました。

内容は次のようになっています。

  • 目標:地下研究所にある機密情報入りデータドライブの回収
  • セキュリティ用のドングルも必須
  • 研究所に無人兵器が多数アリ
  • 全滅して評点を落とすため嫌われている
  • 下はオフライン領域のジオフロント

実は合衆国だけでなく帝国にも同時に発令されており、かち合わせしたことで失敗確率を上げてしまっています。どうして神崎は焦っていたのでしょうか

爆弾により地盤が落下し、オフラインとなる地下廃墟に残された秋人とフィリア。データを回収するため一時的に築いた関係が、両国の関係を大きく変えていきました。

一番身近な人の素顔

2人が戦争に動員されてから3年。毎日のように顔を合わせ、日が沈むまで闘い続けていました。

あいつは味方よりも自分を理解しているのではないか。

  • どっちもモテていない
  • フィリアはドローンを愛し、最初の奨励で買った子をペットとして大事にしているかわいい女の子
  • 秋人は無関心を貫いて、大切な人間に全てのリソースを割こうとする不思議な人

もし二か国の戦争が終わったら本物の星空がみたい。IFの可能性を想像する彼らは、敵国のエース同士でなくごく普通の少年少女でした。

仲を深めた2週間離れることに躊躇した感情が、2人それぞれの記憶変数体を介して情報を持ち帰るという折衷案に行き着かせました。

意外性の欠片もない敵

本巻のラスボスは簡単に想像が付くあの人です。

目的は『アルカディアを大人に普及させて、戦争を変えること』人間社会の発展でなく自分の欲求に忠実なあたり、実に悪役していました。協力してくれた人々を道具として扱い、実験が終わったら証拠隠滅として処分を試みます。

道具として扱われた少年少女が大人の社会でどう生きるのか、2巻以降の展開に注目です。

まとめ:実験場から出て

  • 少年少女が不死になったことで、戦争が必需品となった世界
  • 相手の素顔を知ったからこそできた折衷案
  • 捻った設定と王道の展開のバランスの良さ

蒼井祐斗「エンド・オブ・アルカディア」の感想・紹介記事です。死なないようになって、ドローンより安くなった少年少女が戦い続ける世界。死にきれなかったことをきっかけに生命の価値に気付いていくファンタジー小説です。

一行は研究者に反逆して外の世界に旅立ちました。後日談では戦争のわだかまりなく、日常を謳歌している様が描かれています。投稿した時点で次巻が発売されており、次はどんな現実と向き合うことになるのでしょうか。

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