【サ法使いの師匠ちゃん 感想】嘘と野次で落ちこぼれ魔法使いを救う

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春原 煙作『サ法使いの師匠ちゃん』は詐欺手法に通じている少女が落ちこぼれの魔法使い見習いを嘘と野次で助けていくコメディ小説です。

明るい作風と正義の野次、弱小主人公を両立させた一風変わった作風となっています。実用的なテクニックも潜んでいますが、あくまでギャグ路線の作品。※感想には個人差がありますの言葉が最後まで心に残りました。

読みどころ3選

  • コメディ調による心理学講座
  • 言葉を使った一風変わった御前試合
  • 反面教師による人を信じることの大切さ
目次

小説情報

あらすじ

魔法使いを凌駕する伝説の救世主、『サ法使い』。
落ちこぼれ魔法使いジェラルド・モンディーニが念じて召喚できたのは、なんだか胡散臭い女子高生・鷺坂詩子だった。

「あたしの自己啓発セミナーで、ハッピーライフにステップアップしちゃおうよ。新しい自分を見つけられたら、心のパワーで魔法とかジャンジャンバリバリになっちゃうから(※あくまで個人の感想です)。乗るしかない、このビッグウェーブに!」


『第一章 サ法使いの詩子ちゃん』より

主要人物

ジェラール(ジェラルド・モンディーニ)

鷺坂を召喚した魔法使い見習い。王都アークレシアから歩いて半日程度の農村に住んでいる。先日王都の魔法学校を退学させられた落ちこぼれ。気晴らしに読んだ魔導書をダメ元で使ってみたら召喚できてしまった。

パンストに並々ならぬ興奮を覚える変態。

鷺坂詩子

自称一般的な女子高生。サ法使いとして純真過ぎるジェラールたちを見守ることとした。戦闘能力はほとんどなく、対人戦ではひたすら相手のデバフに徹している。

詐欺手法の大半は祖母譲り。素質の高さから自然体で行えるまで教え込まれた。

ロザリア(ロザーリア・ガラティ―・ロウズモーンド・ベルブルーン・ヴァルディアナ・デッラ・アーダ)

ゴブリン族の銀髪少女。名前の長さから鷺坂には「ゴブ子」、ジェラールからは「ロザリア」と呼ばれている。里一番の戦士を自称しているが、ゴブリンらしからぬ真面目さから詐欺に引っかかりかけた。

職を得るため、ジェラールらに同行して武術部門に参戦する。

「サ法使いの師匠ちゃん」ストーリーPickup

以下、ネタバレ注意です。

言葉の使い方1_自己啓発セミナー

本作の魔法は言葉に込めた想いによって機能します。単一の呪文は無く、個性豊かな詠唱が許されるのです。

主人公となるジェラールは、自信の無さと純真過ぎる性格から上手く魔法が使えません。その結果魔法学校を追い出されて、夢の魔術師となるためには御前試合に勝つ必要がありました。

パートナーとなる鷺坂は自信に満ちており言葉の使い方に長けています。しかし異世界転移をした少女は世界と魔法のことを全く知りません。

対比的な状況の2人が御前試合に勝つために手を組む……と書けば聞こえは良いのですが、実際のところはジェラールを悪徳セミナーのごとく持ち上げていったと言うべきでしょう。

感想には個人差があります。

宗教ビジネスやマルチ商法などの手法に長けた少女の手腕は、この後もいかんなく発揮されていきました。

鷺坂のサ法講座_心理学の応用

1巻の間に鷺坂が用いたテクニックの数々です。コメディ小説なので、想像以上に上手くいきジェラールたちを唖然とさせていました。

鷺坂は2人に隠し事はしても、騙すことは終ぞありません。セクハラを度外視すれば平和な序章でした。

  • 姿勢を斜めに向けて考え中のときは、余計なことを考える前に畳みかける
  • 無理難題を吹っかけてから本命を通す(ドア・イン・ザ・フェイス)
  • 時間をかけさせて成果を求めるように誘導する(コンコルド効果、損失回避)
  • 正面より斜め、斜めより横に座って交渉する
  • あらかじめ褒めて自尊心をくすぐる

言葉の使い方2_サ法≒野次

心からの想いが言葉を通して魔法となる世界。どうすれば魔法を止められるでしょうか。

バトル路線であれば、無力化する能力持ちや精神に直接作用する魔法など。シリアス路線であれば、相手の弱みに付け込むなど暗躍する術が考えられます。

しかし鷺坂はギャグ路線の主人公です。一風変わった手法によって相手の心を惑わしにかかります。

「―――怒れる天の神よ、我が呼び声に応え……」
「だがちょっと待って欲しい。なぜ天の神が、凡庸な魔術師ごときの声にこたえると勘違いしてしまったのか。このような思い上がりが呼ぶのは、国民の怒りだけだ」
「~~! あー、突風となり散らせ!」


『第四章 カルネヴァーレで遊ぶ師匠ちゃん』より

恋する乙女に現実を伝え、結婚が遅れた女性へカマをかけ、相手の詠唱に否定的な野次をぶつける。相手を苛立たせることへ注力していきます。

鷺坂によると引用箇所は朝日新聞の天声人語が元ネタになっています。深代惇郎の天声人語は朝日新聞のHPで公開されていました。彼女は天声人語の日常風景すら社会・政治批判に繋げる姿勢を強調したのだと推測されます。

まとめ:最後のベールを脱いで

同行してきたロザリアは騎士になり、準優勝に終わったジェラールもなんやかんやで魔術師として認められました。

鷺坂は顛末に隠していたことを伝えます。世界を救う声が聞こえるような英雄でもなく、『鷺坂詩子』という伝説的な詐欺師でもない。技術を一子相伝されただけの『鷺坂詩織』でしかないのだと。そんな程度のことで3人の関係は変わりませんでした。

春原 煙作『サ法使いの師匠ちゃん』は詐欺手法に通じている少女が落ちこぼれの魔法使い見習いを嘘と野次で助けていくコメディ小説です。

詩織の目的であった帰還魔法も、世界が救われた後にしか発動しないというものでした。そもそも何が世界を危機に陥れているのかが分かっていないのです。ぐだぐだの雰囲気で物語は終わりを迎えます。シリーズ通して見ても詩織は帰れていないし、世界も救われていません。でも2巻で楽しそうに過ごしている彼女たちへどう思うかは、『※感想には個人差があります』でいいのだと考えています。

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