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【変人のサラダボウル_感想】異世界より来た少女たちがくれた小さな変化
平坂読、カントクによる「変人のサラダボウル」の感想・紹介記事です。異世界から岐阜にやってきたサラ・ダ・オディンと貧乏探偵鏑矢惣介が、飛騨牛生活を求めて日常の問題を解決していくコメディとなっています。小さな行動が数珠つなぎに連動していく、オムニバスのエッセンスが加わっていました。
作者2人は「妹さえがいればいい」で共演しており、前作から岐阜特有の描写が強みとなっています。個々のアフターストーリーが特徴的な作品についてみていきましょう。
- 異世界からやってきた少女たちが与えた影響
- 程々に調和した異世界要素
- 現実味溢れる岐阜市ネタ
目次
小説情報
あらすじ
貧乏探偵、鏑矢惣助が尾行中に出逢ったのは、魔術を操る異世界の皇女サラだった。
なし崩し的にサラとの同居生活を始める惣助だが、サラはあっという間に現代日本に馴染んでいく。
一方、サラに続いて転移してきた女騎士リヴィアは、ホームレスに身をやつしながらも意外と楽しい日々を送る。前向きにたくましく生きる二人の異世界人の姿は、惣助のほか、鬼畜弁護士、別れさせ工作員、宗教家といったこの地に生きる変わり者達にも影響を与えていき――。
変人のサラダボウル|書籍|小学館
主要人物
鏑矢惣助
鏑矢探偵事務所唯一の職員。御年29歳。グレーラインは踏まないと大手探偵事務所から独立したが、生計はギリギリ。築47年、家賃4万円の部屋に住む。
背中へ落下してきたサラと出会い、住居を提供した。記憶消去の術の副作用が恐ろしいというなし崩しから始まったが、終盤では良き相棒として接している。
格闘術システマの使い手。
サラ・ダ・オディン
400年以上の歴史を持っていたオフィム帝国の第7王女。初代皇帝が作ったとされるポータルへ飛び込み、惣助の背中に衝突。ホームステイの13歳として惣助と同居する。ネット適正は非常に高く、数日経たずに探偵系のアニメにはまった。
本職は魔法使い。魔法や魔術は現代岐阜でも使用可能。
異国大好きの某戦国大名の子孫。
リヴィア・ド・ウーディス
少し残念な十代後半の女騎士。帝室の守護を担ってきたウーディス家の末裔で、サラを守るために殿を務めた。
彼女もまたポータルに飛び込んで……ホームレスになった。彼女が何かを覚えていくたびに、小さな変化が起こっている。
「変人のサラダボウル」_ストーリーPickup
以下ネタバレ注意です。
異国の姫君サラがもたらした飛騨牛
13歳の少女サラは魔法使いでした。1巻に登場しただけでも、下のような魔法が登場しています。
- 治癒魔術……回復力を増幅させて軽い怪我を治す
- 記憶消去の術……数週間から数年分の記憶が全て抹消される
- 爆破魔法……公園にクレーターを作成
- 姿を消す術……光を屈折させる膜で覆う魔法。惣助の尾行に使用
- 魔術……中国拳法の気のようなもの。チンピラを吹っ飛ばす
- 翻訳魔法……惣助とのコミュニケーションに使用
惣助の探偵事務所は能力に優れていても人員に不足していました。チンピラの駆除から、ただれた関係の撮影まで。人並み以上にサラは活躍します。最初は地味な探偵の仕事に飽き飽きしていましたが、後半では一緒に遊びに行くほど仲を深めています。
きっかけは岐阜県の名産品でした。もっと良いものが食べたい。出会った次の日の朝に起きた一場面です。チンピラを片付けた帰り道、惣助はサラの要求を思い出し半額シールの貼られた焼き肉用のA5ランク飛騨牛を手にします。半額でも飛騨牛は飛騨牛です。盛大なリアクションで絶賛するサラは絶賛し、惣助は気圧されていました。
飛騨牛と白飯と発泡酒。ほどほどの贅沢な暮らしを送るために相棒関係を結びます。
「よって妾は、妾自身の健全な成長のためにそなたの仕事を手伝う。探偵の仕事に関わってほしくなければ、毎日飛騨牛を食べられるくらい稼げるようになってから言うのじゃ」
p.64
許される限り一緒に歩いていきたい。進展していった関係がどう変化していくのか注目です。
ホームレス女騎士がもたらした変化
本編の中心人物が惣助とサラであれば、サイドストーリーの中心人物はリヴィアでしょう。リヴィアが騙されて巻き込まれることで数々の人に影響を与えました。
転移直後に優しい青年に回収された主人と違い、彼女を待っていたのは職質です。戸籍不明の十代後半が過ごしていけるほど、現代社会は甘くありません。親切な男性・鈴切章の助言によって、無事河川敷のホームレスに内定します。金属拾いでは圧倒的な稼ぎを叩き出し、段ボールだけで安心して眠れ、炊き出し一つで感動できる。リヴィアはびっくりするくらいホームレスに向いていました。
主人を探すための探偵にもお金は不可欠です。ある日は金稼ぎのために(違法)キャバクラへ飛び込み、上客らしいおじさんによって胸元へお金を突っ込まれます。稼ぎこそ良かったものの、開始一日目に店が消えました。
鏑矢探偵事務所にてサラを見つけた後も、自立するためにホームレスを続けています。今度はカルト宗教団体に巻き込まれ、魔術の行使などが原因で指導者を狂信者に仕立て上げました。
「ホームレス女騎士」は元小説家、鈴切が再起して描いた作品です。キャバクラの店員もカルト宗教も堕落したままでいると諦めていました。彼女の介入によって変化し、皆前向きに行動を移しています。純情で真っすぐなリヴィアは、人を奮い立てる魅力があるのだと考えました。
県庁なのに地味な岐阜市の魅力
岐阜市は岐阜県の中でも主張に欠けている気がしてなりません。
郡上市であればユネスコ無形文化遺産に指定される郡上踊り。下呂市であれば名湯下呂温泉。高山市であれば世界遺産の白川郷だけでなく、メディアでも「氷菓(〈古典部〉シリーズ)」や「君の名は。」の舞台になっています。サラが絶賛した飛騨牛も高山・飛騨・下呂などが含まれる飛騨地方の名産品です。このように岐阜の有名所は中央以北に集中しているのです。
以南ではどうでしょうか。大垣市は「聲の形」を排出し、美濃加茂市の「のうりん」はアニメとなりました。名産品としても富有柿(瑞穂市)や陶器(土岐市、多治見市など)が連なります。
長良川鵜飼は岐阜市で行われていますが、この2つを等号で結べる人はそういないでしょう。更に問題なのが名古屋駅との距離で、電車で乗り換えることなく30分で行き来できてしまいます。その名古屋市も観光という観点から見れば8大主要都市で安定の最下位です。
これらの理由から地味と言わざるを得ません。
では面白い特徴はあるのでしょうか。作者は岐阜駅前の信長像に着目しました。彼のIFを元にストーリーを組み立て、ヒロインたちの素性を決めていったのでしょう。区切りとなる一巻の最後に、金の信長像の前で記念写真を撮る。小規模なコメディの提供だけでなく、大筋においても方針に違わず小さくまとめていった点が好印象でした。
「なあサラ。お前の元いた異世界って……日本じゃね?」
p.284
まとめに入る最中、惣助はぽつりと呟いた一言。技術の違いから導き出した推理。それらはサラが憧れていた探偵モノの再現でした。
まとめ:異世界の正体
平行世界の信長こと信長・ザ・オディンは一味違います。元々の性格に加えて魔術の奥義を得てしまった結果、個人の火力が跳ね上がってしまいました。窮地であった金ヶ崎の戦いも朝倉+浅井を二発で沈めて解決。開幕イオナズンの武勇伝は、明智らに謀反を起こす気を無くしてしまいました。
一方的な展開にならなかったからこそ、多様性に満ち溢れた世界になったのかもしれません。
以上が「変人のサラダボウル」の感想・紹介記事となります。異世界から岐阜にやってきたサラ・ダ・オディンと貧乏探偵鏑矢惣介が、飛騨牛を求めて日常の問題を解決していくコメディとなっています。キャラクターの行動のそれぞれが数珠つなぎに連動していく。オムニバス形式のエッセンスが加わっていました。
ストーリーの単位が細かく、目指すところが小規模。一つ一つのくだりが面白く、不快感に満ちたキャラクターが出てくることもない。非常に綺麗にまとまっています。以下のような人にオススメできる作品です。
- 小さな日常を描いた作品が好き
- 数珠つなぎの連鎖を見ていて興奮する
- 小説を読んで不快な気分に陥りたくない
- 表紙絵や挿絵の可愛さに惹かれる
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