【クロスワールド・スクランブル 感想】盤上の世界で産まれたTSF少女は

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雪川轍作「クロスワールド・スクランブル」は魔王に憧れる少年が周りを守るために男に戻ろうとする物語です。正直なところ特徴的な絵柄は人を選ぶものだと思っています。また性転換させた理由も趣味10割でしょう。

しかし、願いを叶える想いの強さや遊戯をモデルとした背景設定の魅力さは欠点以上に目立っていると考えています。

あなたには悪魔に魂を売ってでも成し遂げたいことはありますか?

読みどころ3選

  • 死なない世界と訪れた変化
  • 周りを守りたい想いの強さ
  • 魔王はどうしてこんな世界を作ったのか
目次

小説情報

あらすじ

「……ぼ、ボクは……ボクは男だああああああーーーーーーッッッッ!!」 六道六天の魂の叫び。たとえその姿が、大きな瞳にサラサラの長い髪、啄みたくなる唇に、ぎゅっと抱きしめたいような小柄で愛くるしい少女――だったとしても――だ。一人に一つだけ発現する『魔法』。幼くして大きな魔力を発し死にかけた六天は、力を『封印』することで九死に一生を得た。しかし、その代償でなんと体が女の子になってしまったのだった! 元に戻るには解除魔法を施して貰わねばならないが、それを叶えるにも様々な問題が待ち受けていて――。彼が仕える天堂家のお嬢様巴や、彼を「ロリ子」と可愛がる王城鈴鹿らと供に、苦難に立ち向かう!?


https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-999067521X より引用

主要人物

六道六天

本作の主人公のロリ。数年前に暴走を抑えるために封印され性転換。巴たちを守るため、魔法を制御して男に戻るのを目標としている。

魔法名:酒呑童子

天堂巴

白側の貴族の一人娘。成長のために翼の片方を封印されている。

魔法名:狂飆烈風

王城鈴鹿

2人の先輩で六天をロリ子呼びする。どんな時でも明るく、六天曰く「何かの相談をするのに最適」な性格。

魔法名:紫電雷光

神宮吉備

中等部二年で読心魔法の使い手。一人で暮らしていくために、隠密や料理など独学で様々な魔術を修めた。

魔法名:真贋

八重垣出雲

黒側の貴族の娘。家庭内の軋轢によって誰かに認められたい欲求が強い。巴以上のお転婆娘。

用語集

魔法と魔術と魔法名

作品によって定義が分かれる概念。本作では

  • 魔法:各人固有の能力。発動するときに体の一部が変化することが特徴
  • 魔術:誰にでも扱えるように体系化された魔力操作技術。戦闘用から「調理魔法」のように幅広く存在する。

となっている。

また魔法から通称=魔法名がつけられ、これは大まかな強さを示す指標となる。発現時は”二文字”、熟練の戦士は”三文字”、規格外な者には”四文字”、神の法に届き得る者が”五文字”である。

主人公らの大半が四文字なことは相当異常なことであり、間違いなく学園屈指の魔法使いである。

三空学園

六天たちが通う中高一貫の学園。強弱問わず魔術を極めることに特化した造りとなっている。

学園長は5文字の極代魔法使い。

「クロスワールドスクランブル」ストーリーPickup

以下、ネタバレ注意です。

白黒の遊戯

魔王たちが創り出した死なない遊戯の世界。白黒の競技というとチェスのイメージが強いのですが、本作は囲碁やオセロもモチーフだと思われます。

  • 白と黒に分けられた陣地の取り合い
  • 味方の陣営の力によって死亡すると、神殿(リスポーン地点)へ還される
  • 相手の陣営の力によって死亡すると、相手の陣営に所属が変わり相手の神殿(リスポーン地点)へ送られる
  • 重大な違反行為を起こすと盤上から抹消される

最初から均衡となるように作られているだけあって、相手の陣地と駒の奪い合いを幾度と繰り返してきました。六天が生まれる約1000年前から、今日もまた遊戯が続けられています。

殺せない世界の弊害

舞台となる世界は生物が消えることのない世界です。逆に言ってしまえば生き物を殺すことができない世界です。これは途轍もない弊害をはらんでいます。

  • 邪魔となった植物を切れない
  • 木材が使えなくなる
  • 碌に食べられるものがない

さすがに魔王たちも下の問題に気づいており、主食を水に調整してくれていました。でも、そういう問題じゃありません。生きるため以上に娯楽として食べたいのです。

そうして食料の見た目や質感を再現する『創食魔術』、味や匂いを再現する『調理魔術』が生み出されました。専用の職種が作られるに至り、単一の味からの脱却を成し遂げています。

このように世界をシミュレートしたときの問題を洗い出し、対策を適当なタイミングで紹介しているあたりが上手いなと感じています。

とある少女(少年)の夢

周りを守りたい、この問題に対する六天の回答は大分特殊だと思います。

毎日の日々を苦しんで泣きながら、それでもその道を歩まなければならない”求道者”を、そそのかして堕落させてやりたいのだ。

魔王たちや六天は仏教の六欲天をモチーフとしています。六欲天は天上界の中でも人間界に近いところにある6つの欲望のことで、織田信長が「六欲天の魔王」と自称したエピソードから知っている人もいるかもしれません。

知ってか知らでか六天が目指している夢は、空白となっている第六天魔王:他化自在天の在り方に近いものとなっています。それも生半可な欲求ではなく、熟練の兵が一週間で泣き出す訓練を一年以上継続した実績がありました。

強靭な覚悟を持つ主人公は数あれ、堕落させたい覚悟が強い主人公は早々いないでしょう。

まとめ:魔王が求めた世界

かつてこの世界はたった6人によって別物へ変えられました。「死に別れたくない」最初の願いから約1,000年、魔王と呼ばれる彼らは未だ残り1人が帰ってくることを待ち続けています

雪川轍作「クロスワールド・スクランブル」は魔王に憧れる少年が周りを守るために男に戻ろうとする物語です。正直なところ特徴的な絵柄は人を選ぶものだと思っています。また性転換させた理由も趣味10割でしょう。しかし、願いを叶える想いの強さや遊戯をモデルとした背景設定の魅力は欠点以上に目立っていると考えています。

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