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【まどマギー東方 クロスオーバー小説 紹介】たった一つの願いを叶えるために
目の前の人が何を考えているか分からなくなることがある。その人は何のために行動しているのか知らないからこそ、誤解が生まれて対立が起こる。
この記事はへっくすん165e83作「魔法少女さとり☆マギカ」の紹介記事だ。妖怪と人間、種族や倫理観の違いから対立する少女たちを描いた物語である。原作を知っていることを前提にしており人間描写などを省いている所も見られたが、情景や心情描写はきちんとなされているので、うろ覚えの人でも安心して読むことのできる作品になっていた。
目次
小説情報
小説データ
URL:https://syosetu.org/novel/143007/
作者:へっくすん165e83
警告タグ:残酷な描写、クロスオーバー
話数(2018/5/29):13話 159,702文字
UA(2018/5/29):58,306
あらすじ
人の心が読める少女、古明地さとりは知らない世界にいた。魔法少女にのみ見える第三の目を危険視され、時には殺されかけ、思想の違いから対立する。それでも、さとりはまどかの魔女化=世界の終わりを回避するために足掻き続ける。
登場人物
古明地さとり
本作の視点人物兼主人公。四肢の先からつながった第三の目が特徴の紫髪の少女。覚という妖怪の一種で「心を読む程度の能力」を持つ。目に見える妖怪の特徴は第三の目だけであり、第三の目が一般人に見えていないため当たり前のように溶け込んでいた。
気づいたときには交換留学生としてまどかの部屋に居候していた。まどかの潜在能力と魔女化の意味を知り、まどかが魔女化しないよう手を尽くす。ただ、その為の案がことごとく裏目に出た結果……
暁美ほむら
本作の視点人物2。時間遡行と時間停止の能力を持っており、まどかを助けるために何回も繰り返していた。その代償で、まどかが世界を壊せるだけの力を持つことに繋がってしまう。
さとりをまどかの監視をしてくれる人物とみて静観していたが、マミの発言を聞いてそのことを後悔している。
鹿目まどか
原作主人公。さとりも大切な友達の一人とみている純粋な少女。叶えたい願いは……
美樹さやか
まどかの親友。本作に登場する魔法少女の中でも、人を守るという思いが強い。何気なく原作と契約した願いが異なっている。
佐倉杏子
隣町のベテラン魔法少女。戦闘面で大いに活躍してくれるが、さやかとのかかわりが減っている分出番が減っている。
百江なぎさ
お菓子の魔女になりかけていた魔法少女。さとりの作戦に利用されて生かされるが、彼女の犯した行為を黙認することに罪悪感を覚えてマミに告発した。
キュゥべえ
初見殺しのマスコット。今回もまどかと契約することを目標としているが、そこまで勧誘しなかった。紫(幻想郷と呼ばれる東方プロジェクトの舞台の管理者)と不可侵条約を結んでいる。
巴マミ
今回の事態をさとりの想定外にした元凶。言い換えれば、さとりと思想が食い違って世界を滅ぼしかけた女。
原作情報
魔法少女まどか☆マギカ
2011年1月から4月に放映されていた作品。絵柄とストーリーを敢えて一致させなかったPV詐欺の一種。僅かな救いと大いなる絶望に染まった大筋、流れるように死んでいく主要人物と、制作:シャフト、脚本:虚淵玄らしい作品といえる。後に続編映画や漫画版も作られており、百江なぎさなど新しい魔法少女(被害者)の活躍が為されている。
東方Project
同人サークルの上海アリス幻樂団によって製作されている著作物。旧作を含めると20年以上の歴史があり、同人作品ならではの二次創作への黙秘から、原作以上に二次創作が主流の作品。ゆっくりの初代モデルでもあり、東方の名を知らぬ人でもどこかで聞いたことがあるかもしれない。
ストーリーPickup
タイトルの元ネタ
最終話のあとがきにて作者が言っているように、この作品のタイトルは原作のタイトルに対するさとりのコメントになっている。全体的な流れが原作と離れているにもかかわらずタイトルの意味が通っており、よく考えて付けられたものだと感心した。
当記事のPickupのタイトルは12個の応答の中から近いものを引用した。私としては第4話と第12話の応答が、環境の違いやさとりの過去のトラウマを克明に映し出している点から気に入っている。
参考……第12話「わたしの、最高の友達」→「ありがとう。そう言ってくれるのは貴方だけです」
「夢の中で逢った、ような……」→「へえ、運命を感じちゃいますね」
さとりにとって、まどかは知らない土地で目覚めたときにいた純粋な少女だった。心を読めるだけあり、状況の判断をあっという間に済ました。二次創作において、原作など外の知識から転生者や転移者が即座に状況を飲み込むことは数多くあり、この作品もそのテンプレに従っている。
ほむらにとって、まどかは幾度繰り返しても災厄から守りたい少女だった。明らかに人外の少女(さとり)に釘を刺しつつ、まどかを助ける至上命題を果たすべく行動する。
まどかにとって、さとりは交換留学生の友達だった。数日前に空港で出会ってから同じ部屋で寝ている仲であり、そこにいることを疑っていない。
まどかにとって、ほむらは夢の中で化物と戦う少女だった。たった一人で災厄に挑み、散っていく姿を目の当たりにする。
こうして、まどかにとっては運命的な出会い、さとりやほむらにとっては作為的な出会いが起こり、物語が始まった。まどかの「夢の中で逢った、ような……」へ「へえ、運命を感じちゃいますね」と返した言葉には、無知で無垢な少女だ、という感想が含まれているように感じた。
「奇跡も、魔法も、あるんだよ」→「奇跡じゃなくて必然です」
さやかが意中の男子と結ばれ、なぎさの母親が助けられたことで、過去の周回で叶わなかった人数が集まった。更に、大量発生した魔女によってグリーフシード(魂の汚れを拭く道具)も余るくらい手に入る。それは奇跡のような変化だったが、余りにも出来過ぎた現象に魔法少女たちは黒幕の魔法少女を疑った。
まどかを魔法少女にしてはならない、ほむらの記憶から世界滅亡の危機をさとりは知る。妖怪としての倫理観から、最小限の犠牲で目的を達成できるようにとさとりは暗躍する。まどかの契約をさせず魔法少女を助けるための一助になろうとした行為は、結果的に対立を招くことになる。
今回のさやかに対する返答は、知らぬ裏で動いていたこと、幻想郷には魔法使いがいること、魔法の原理をほむらの記憶から言っていることから出たものだと。
「こんなの絶対おかしいよ」→「ええ、私もそう思います」
心の読めるさとりにとって魂は曖昧なものだった。だからこそ、ソウルジェム(言葉通り魂が固体化したもの)が本体だという真実を伝えられたときでも、魔法少女にはソウルジェムという確固とした己があると称賛した。その考え方は人間の価値観とは異なったものであり、杏子は強く反論する。
このように、本作では人間(魔法少女)と妖怪(さとり)の価値観の違いが重要な要素であった。さとりの価値観に照らし合わせて魔法少女を助けようとした一方、魔法少女(特にマミ)は価値観に沿って妖怪に対する偏見を押し付けて非難する。傍観者にとってさとりの行動はことごとく裏目を選んでいた。
なお、まどかのこの発言は魔法少女同士の争いに対してのもの。さとりは彼女たちの考えを知っていても納得できないと共感していた。
「そんなの、あたしが許さない」→「別に貴方の許しなんて欲していません」
魔法少女たちはまどかが契約せず、誰一人欠けない勝利を目指してワルプルギスの夜(ラスボスのようなもの)に立ち向かう。さとりたち幻想郷の陣営は、契約→魔女化(ソウルジェムが汚れ過ぎた結果起こる相反転)による破滅を防ぐべく、まどかが世界を破壊する可能性を0にするべく行動する。キュゥべえはまどかの魔女化によるエネルギーを回収することで、自分たちの問題を解決しようとしていた。
3者の目的はばらばらであり、考え方も根本から違うため他者を批判することはできなかった。全員が全てを叶えることは不可能である。こうして、ワルプルギスの夜が潰えた後に再び戦いの幕が開かれる。
どこかで妥協しなければならなかった現実、なぎさが抱えていた後悔、さとりだからこそ作ることのできた結果が印象に残る最終盤だった。
ちなみにこの台詞の元ネタは、杏子の魔法少女になったことで家族を失った後悔や気まぐれで命を賭けてほしくないという優しさ由来きたもの。本作でも杏子やさやかがこのようなことを口にしていたが、さとりの人殺しを批判するものへ変わっていた。
まとめ:世界に守られた幸せ
魔法少女たちは長く続く安寧を世界に守られ、さとりたちは世界の滅亡を防ぎ日常に戻ることができ、キュゥべえはエネルギーを回収しつつ機構を維持できた。3者にとって最善の結果を得られたわけではないが、どの陣営も原作よりハッピーエンドだったといえる。
最初にも述べたが、本作は価値観の違いが引き起こした騒動をみた物語である。原作を知っていることが前提の専門用語が出てくるため、全く知らない人が読んでも理解できないかもしれない。全員がともに報われなかった彼女たちのハッピーエンドを見たい、悪役のような行動に徹する主人公が見たい人に触れてみて欲しい中編だったといえる。
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