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【朝井リョウ「少女は卒業しない」_感想】学園最期の朝、別れへの想い
朝井リョウの「少女は卒業しない」の紹介記事です。3月25日という時期外れに行われる卒業式。高校が潰れる最後の日に着目したオムニバス形式の作品です。
各構成の結びつき・伏線の豊かさや学生が描く青春模様が魅力的だと考えています。
- 第一章:エンドロールが始まる →早朝
- 第二章:屋上は青 →卒業式直前
- 第三章:在校生代表 →卒業式
- 第四章:寺田の足の甲はキャベツ→卒業式後
- 第五章:四拍子をもう一度 →卒業ライブ
- 第六章:ふたりの背景 →卒業ライブの裏
- 第七章:夜明けの中心 →夜明け前
第一章から第七章までで1日を周るように描かれていました。前編では第三章まで、午前中の章に着目していきます。
目次
「少女は卒業しない」ストーリーPickup(前編)
第一章「エンドロールが始まる」:一方的な終わり
1日の最初を飾るのは、延滞常習犯の少女作田と図書室の先生でした。卒業式へ抱いた印象は人それぞれです。
話のネタを作るために難しいイギリスの小説を借り、返却期限の更新を続けていました。ときには先生の婚約者の姿に似せようと努力を重ねました。
先生とのつながりを求めた作田は、卒業式を『延長の終わり、エンドロールの始まり』だと表現しています。
だけど私にとってあしたは、この本の返却日だ。結局最後まで読み切れそうにないけれど、それでも、絶対に返さなくちゃいけない。返却期限は、もう延ばせない。(p.13)
鳥瞰的に見れば、第一章は状況説明を兼ねた章となっています。一方的に別れを告げなければならない。友人以上になれないと分かっている、虚しさが印象に残りました。
第二章「屋上は青」:羽ばたいた少女
青いTシャツ姿で目立っていた尚輝と、黒髪眼鏡の孝子。夢を追い求め高校を飛び出した青年と、代表として卒業証書を受け取る予定の少女。
幼なじみで対照的な2人が描く、卒業式直前の一幕です。
一度学校を離れた尚輝が最期の日に戻ってきたのは、縛られていた孝子を解き放つためでした。孝子にとって尚輝は羽ばたいた憧れです。少女は道しるべを未だつかめずにいました。
東棟には幽霊のうわさがあったし、学級委員の私がそんな場所にいるのが見つかったら、クラス全体の責任にならないかとか、屋上で文化祭の練習をしているなんて言ったら出られなくなるかもしれないとか、私はいろんなことをぐつぐつと考えていた。
それでも尚輝についていったのは、あの屋上で踊る自分を想像したら、胸がわっと熱くなったからだ。何かが変わるかもしれないという予感が、一瞬で私の足をすくいあげた。(p.57-58)
踊りの舞台は壊される直前の東棟の屋上。立ち入り禁止の場所で、少女は初めての非行を犯します。踊り手1人と観客1人。卒業式とともに人知れずライブが始まりました。
引用部分にある「東棟の幽霊」騒動は、後編への伏線となっています。自然に次の章へと関連性が続いていく、オムニバス形式ならではのポイントです。
第三章「在校生代表」:名前に反してユーモア多量
第三章は共に学校を去る在校生、亜弓による送辞です。故に、地の文が砕けた丁寧語になっています。
送辞という堅苦しい印象に反し、本作において最もユーモアに富んだ章です。
それでは話します。壁際の先生たちは窓でも開けてください。女子は少し寒いかもしれませんね。このスカートぺらっぺらですもんね。だけど私、このままじゃ顔が熱くて大変なので、風が欲しいんです。(p.79)
先生への感謝、先輩へ一目ぼれした思い出、部活を半ば抜けてまで入った生徒会活動……少女は真剣に話し、先輩を見送る覚悟です。でも、所々に笑いを差し込んでいきました。
亜弓は二年生でも、今日をもって高校を去ることになります。一緒にいられる最期だから笑顔で終わって欲しい。少女の優しさに包まれた送辞でした。
第四章以降
午前の部は別れへの想いが主軸となっていました。踏ん切りをつける人から新たな始まりを見つけ出す人まで。どの少女たちも今と離れた未来を見据えていました。
後編は第一章、第二章でまいた伏線を回収する章です。生徒を送り出すバンドの紛失事件を描いたものや想い出を掘り起こそうとする青年たちを映し出したもの。そして、隠していた罪を清算しようとする少女たち。
夜が来て朝が来る。午後の部では情景とともに移り変わる、心理描写が興味深い物語が中心になります。
後編記事
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