好きな人へたった1つの隠し事【艦これ 二次創作感想】


「こんな事はあなたにしか話せない」愛している人に知ってほしいという気持ちもあれば、知られたくない情報もあります。浮気や密約のような、知られると自分側に害をなすからという理由もある一方で、相手を傷つけたくないからという想いだけで隠そうとすることもあるでしょう。たとえその行為が先延ばしに過ぎないと分かっていても、彼らは気づかれる時まで隠し続けることを選びました。
今回はおかぴ1129作「俺の涼風 ぼくと涼風」の紹介記事です。互いに辛いことを抱えていた2人が、相手の思いを知って共有していき、絶対悪に対して繋がっていく流れが魅力的な作品でした。同じような作風の小説としては恋愛要素が少なく、唯一無二のパートナーへの変化を主軸としている所が特徴となっています。それ故に異性と接触する情景が苦手な方にも薦めやすい小説といえました。

小説情報

小説データ

URL:
(暁)https://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~20089
(ハーメルン)https://syosetu.org/novel/130631/
作者:おかぴ1129
警告タグ:R-15、オリ主、残酷な描写、アンチ・ヘイト
話数(2018/10/26):25話、233,686文字
UA(2018/10/26):4,340

あらすじ

金剛、五月雨、那智、比叡……沈んでいく4人の仲間を旗艦の少女は虚ろに見つめていた。捨て艦戦法で守られた涼風は、摩耶、榛名とともに別の鎮守府に送られる。男性初の艦娘適正のある少年:北条雪緒と出会い、なんでもない交流を送る。しかし2人には相手に隠しておきたい秘密があった。

主要登場人物

涼風
白露型駆逐艦10番艦で、白露型では末っ子。一人称”あたい”の明るく粗雑な口調と性格の少女だが、ノムラのストーカー気質と捨て艦戦法がトラウマで出撃することができない。事件以降同じ鎮守府出身の榛名と険悪な仲になってしまっている。雪緒との出会いをきっかけに明るさを取り戻していく。
摩耶
一等巡洋艦4番艦で、こちらも歴史上末っ子。同じ鎮守府の涼風のことを大切にしており、涼風とともに遠征任務に従事している。姉妹を潰された榛名の思いも知っており本人もノムラのことを恨んでいる。しかし前提督の捕獲任務では捕獲を優先するように冷静さは捨てていない。
榛名
金剛型3番艦で4人姉妹の3女。捨て艦事件で姉2人を轟沈させられておりノムラへの殺意は非常に深い。戦えなくなった涼風のために、前線で活躍している自分と関わらせないようにしていた。
北条雪緒
提督の息子で、自称男性初の艦娘。14歳のわりに体格が幼く、また体が弱いため日常的に服薬している。涼風と出会ってから外に出るようになるが……。
提督
3人が移住してきた鎮守府の提督。息子:雪緒が幼い頃に妻が亡くなり、男手一つで養ってきた。彼の願いを叶えてやるために鎮守府に招く。
ノムラ
涼風を溺愛し、涼風を過度に出撃させ、涼風を追い込むために4人を沈めた問題児。捨て艦事件を機に逮捕されていたが、涼風への一途な思いから脱獄する。脱獄、侵入、亡命の一連を計画的に行っており、(涼風への凶行がない限り)能力や立場は高かったと推測される。

原作:艦隊これくしょん

DMM.comがブラウザゲームとして2013年春から配信しているブラウザゲームおよびメディアミックス作品。第二次世界大戦を戦った船を擬人化した存在:通称艦娘が、深海から湧き上がる謎の存在”深海棲艦”を潰していく一面と、艦娘とのスキンシップが中心となっている。

当時の基本無料としては珍しく課金を煽らない姿勢と、無営利の同人を公式が認めている点から配信当時は用意したサーバーが数分で定員オーバーになる珍事態が発生した。

ストーリーPickup

ピックアップしたい場所の都合上、終盤までのネタバレを含みます。

涼風と捨て艦戦法

 私と共にいた艦隊の仲間たちは、私ともう一人を残して、皆、沈んだ。取り残された私は、たった一人、界面に浮かんでいる、沈んでいった仲間たちの残骸をかき集め、それらを両手で強く抱きしめた。そして、真っ赤な大空を涙が止まらない瞳で睨み、喉が裂けることもいとわず、心に渦巻く疑問を叫んだ。

『提督! なんでだ!? なんでみんなにあたいを守らせるんだ!?』

周囲に浮かぶ肉片が、さきほどの戦いの凄惨さを物語っていた。その中のどれかは深海棲艦のもので、そのどれかは、先程まで私と談笑し、私と共に敵と戦い、そして私に微笑みを向けていた仲間のものだ。でもそれらは海面で交じり合い、もはやどれが誰のものであるのかは、既に判別出来ない状況だった。


第1話『俺だけの涼風』より引用

プロローグは涼風のトラウマの回想となっています。事件当時、涼風はノムラの『絶対に涼風を旗艦にして攻略する』(Pickup 3.)という指示に従わされて出撃、修理を繰り返す日々でした。ついに道中で中破になったとき、周囲から撤退を推奨されますがノムラの圧により進行することを余儀なくされます。血みどろの争いの末、海の上に残ったのは涼風だけとなっていました。

この事件の責任を問われてノムラは逮捕され、残っていた涼風、摩耶、榛名の3人は別の鎮守府に異動します。しかし、場所は離れてもノムラの怨念は消えませんでした。ノムラの呪いと仲間たちを失った申し訳のなさから任務にでられない状態が続いていました。

本作品は『旗艦は沈没しない』という艦隊これくしょんのルールと、初期に存在した旗艦と肉盾のみで出撃する『捨て艦戦法』がモデルとなっています。流石に不味いと運営も判断したのか、数か月後に『旗艦が大破以上損害を出していると出撃できない』ルールが追加されました。

男性初の艦娘候補

提督の息子である雪緒は身長の低いひ弱な青年です。しかし男性なのに『艦』への適性があり、男性も艦娘として使用するための試金石とするべくやってきました。雪緒のために鎮守府内に男性用の施設を建てるほどの意気込みを提督も見せていましたが……。


後述するように、これらは提督親子が必死に吐ききった嘘です。施設は軍病院であり、艦娘適正についても息子の最期の望みを叶えつつ周りの少女たちを悲しませないために考えられた虚構の設定でした。

メタ視点からすれば心を病んだ涼風と対比させるための設定だと思われます。この設定があるから中盤からのシリアスな場面が意味を持ち、ノムラと雪緒の涼風に対する心持の違いに注目していくことになります。

犠牲にしたくないから傷つける

『涼風がこの作戦を完遂するまでは、何度でも何度でも、涼風を旗艦として出撃する』
『……黙れ!』
『お前らが怪我をしてるなら、バケツで回復させて出撃する。バケツがなくなれば回復せずに出撃だ。士気が下がってるなら間宮のアイスを食わせてやるから喜べ。伊良湖のモナカでもかまわんぞ。俺が直々に、お前たちの口にぶち込んでやろう』
『……貴様、狂ったか……ッ!?』
『資材の心配はいらん。今もゴーヤたちを24時間フル稼働でオリョールで活動させている。それでも足りなくなったら、いらん奴らを解体して資材をかせぐ。これは作戦終了まで……涼風がこの作戦を完遂するまで続く。俺の涼風が、俺の涼風に相応しい、輝かしい栄光をつかむまでな。お前らの死はその足がかりでしかない。盾は盾らしく、俺の涼風を守ることだけ考えてろ』


第10話「お化粧ならあのひと(1)」より引用した。台詞はノムラ(奇数行)と那智(偶数行)。捨て艦戦法を取った直前の会話で、この後涼風を残して彼女らは沈んでいる。

他の仲間にも被害(盾)をされたくなかったから無理に出撃を選んだ。作中でも監督責任が問われる判断でしたが、涼風は自分の判断に後悔しています。ノムラへの恨みが詰まっている榛名に合わせる顔がなく、榛名が一方的に涼風を憎んでいると感じていました。

悪夢で眠れなく、クマが出てしまった涼風。直す方法も知らず、話しかけやすい五月雨(白露型の姉艦)や摩耶は化粧をしていません。雪緒の勧めで涼風は渋々榛名に会いに行くことになりました。榛名に心配されて化粧されていくうちに、彼女は真相をぽつぽつと話し出します。

本作では悪役を徹底してノムラに集約させていました。榛名がただの悪人の状態ではこのあと『ノムラvs雪緒たち』の構図に持ち込みにくく、かといって早過ぎると険悪になった設定が必要なくなりノムラへの殺意の素を表現することができない。だからこの地点に置かれたと推測される一幕です。

妹のように接してきた涼風を犠牲にしたくないから突き放す、榛名の選択は雪緒たちがとったものより過激的な方法でした。その裏で雪緒に涼風の様子を聞きに行っているという発言、雪緒が榛名を薦めた理由など前後編を通して榛名の本性が明かされていきます。ただこれ以前に榛名が出てくるシーンが伏線を貼る最低限で、突き放す前の榛名が涼風の印象だけというせいで、前後のギャップが分からないことが少々残念でした。

伝えたくない秘密

涼風は牢獄にいるノムラへの恐怖と散っていた仲間たちへの後悔から離れられず、雪緒は末期の病を患っていることを嘘で覆い隠していました。互いに1つだけ隠したうえで成り立っていた関係は、ノムラが脱獄し涼風を探し出したことで瓦解していきます。涼風は影に怯え、雪緒は最期のプレゼントを作るために2人は眠れずにいました。涼風たちの異常に周りも気づいていながらいつものように接してはくれます。しかし、涼風の悪寒はさらに悪くなっていき……

涼風と雪緒の関係を異性との恋愛ではなく隣に並ぶパートナーであると決定づける、本作でも重要な箇所です。そして、長すぎる波や凪がない中に訪れた重いシーンであり、この先は特に感情が盛り上がる場面が続きました。

あいつなら……どこから出てくるかわからず食欲どころか味が分からなくなった涼風。ノムラへの恐怖に耐えられなくなり、怯えながらも雪緒を求めて夜の鎮守府を歩きます。実際に彼は計画的に脱獄して、居場所の知らない涼風の元に辿り着きました。さらにこの後の展開では涼風の部屋に侵入していることから、涼風の懸念は決して過剰ではありませんでした。

かつて母親が飲用していた薬から自分の末期を察した雪緒。父の『惚れた女には指輪を渡すもんだ』(22.本当のぼくより引用)という言葉を思い出します。涼風へ想いを伝えるために手作りすることを決意しました。命の灯が尽きる前に完成させたのですが、ノムラに攫われた涼風を助けるために対面して渡す機会を投げ打ちます。

まとめ:

唯一の名コンビとして思いを確かめ合った2人。しかし、幸せは1日もありませんでした。雪緒の検診、涼風の誘拐、無茶した雪緒の昏倒……ようやく会えたのは死の直前です。それでも涼風たちの決意は確かなものでした。

――父さんには、母さんがついてる。母さんがずっと、父さんを見守ってる
だからぼくは、父さんとじゃなくて、涼風と一緒にいる
ぼくは、涼風と二人で一人だから


「提督。あたいは行かない」
「……」
「ゆきおとあたいは、二人で一人だ。ゆきおは今も、あたいと一緒にいる」


上は雪緒が父=提督に伝えた最期の言葉、下は涼風が提督に告げた言葉。ともに「22.本当のぼく」より引用

本作の前半は涼風のトラウマを除けば所々に笑い場があるような平和な場面が続いています。後半(14話以降)に行くにつれて重く、感情を揺さぶられる展開となっていきました。

ノムラ周り以外では救いのないような作風ではなく、激しい恋愛感情が苦手という人でも安心して読みやすい内容となっています。作者さんは『The Mighty』(邦訳:マイ・フレンド・メモリー)に多分の影響を受けているようです。あらすじだけを見た限り確かに似ていますが、雪緒が命を投げ打って助けに行こうとする勇気を始め、この作品ならではの味が後半に集約されていると感じました。

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