居場所を欲した少女が抱いた”真摯さ”とは

「私は、居場所が欲しかった。だからマネージャーになったの。野球部のマネージャーになって、そこに居場所を作ろうと思ったんだ」


65ページより、夢の抱負

事業を続けているうちに間違いなく世代を交代する機会は訪れます。もしあなたがいなくなっても、事業は回っていくでしょうか?

今回取り上げるのは、岩崎夏海「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら」です。高校野球は3年の夏までと明確に期日が決められています。ただ甲子園に行くだけでなく、次の世代に如何に受け継ぐか。前作「もし~」(以後、もしドラ)では触れなかった未来へ着目した作品となっています。

前編では作品の紹介と主人公:夢なりのマネージャーとしての真摯さを、後編では次の世代への繋ぎ方に対する一般的な回答を、本作をもとにして紹介していきます。

あらすじ

自分に強みがないと悩む夢にとって、憧れの真実と一緒にいることが一番の幸せだった。だから、過去の栄光となって消えてしまった野球部を復活させる、真実の提案に賛同する夢。ドラッカーの経営書『イノベーションと企業家精神』を参考に、他の野球部の方針と違った新しい野球の経営へ力を注いでいく。

マネージャー仲間と共に読み進めるうち、現状の野球には型がないという問題点が見つかる。そこで彼女らは、過去の一流選手を徹底的に模倣して、型として次代に受け継ぐ方針を立てる。真実の悩みと夢の強さが取り組むことで浮き彫りになっていく。

読みどころ3選

  1. 「居場所がない」という弱みを気にした夢の強さ
  2. 自分の得手を知って積極的に活かそうとするメンバーたちの姿勢
  3. 原作を読むより要点を掴みやすい”企業家”の意味

主要人物

岡野夢
本作の視点人物、浅川学園高校の1年→2年。開始時点では、夢も目標もなく、「居場所」を作ってくれた憧れの真実が走っている姿を追っていた。「居場所がない」という思いに敏感で、真実に居場所を作る人事部を提案される。
児玉真実
夢の親友で元陸上部。夢に野球部のマネージャーになることを紹介する。7人のマネージャーの中で最も書籍の方針に従順で、破るのならば自分でも他人でも厳しく当たってしまう性分。
北条文乃
東大を卒業して浅川学園高校に赴任した新任教師。作中では「岩崎夏海」名義で”もしドラ”を書いたことになっている。前作では主人公の後輩で、受け継いだものの部の好調を崩してしまった後悔が残っている。
富樫公平
真実に野球部を紹介した1人目のマネージャー。唯一の3年生で、野球部が本格的に始動する前に引退した。明るみに出ないが野球部のイノベーションを生むきっかけとなった人物。
木内智明
マネージャーの中でも野球知識に長けており、戦略を担当する。猿飛佐助作戦を立てるにあたり、ピッチングマシンにボールを投げ続けさせ、徹底的に打ちにくい変化球を開発した。
二階正義
文乃に紹介された、「経営の知識があって野球が下手な」野球部の監督。卒業後も体を鍛えており、木内が見つけた変化球を人が投げられる型へ昇華させた。”もしドラ”では主人公たちが甲子園に出たときのキャプテンだった。
一条隼人
野球部部員初代12人のうちの1人。練習をサボりがち、緊張で腹痛を起こすことが弱点で、中学時代はレギュラーになっていなかった。真似することに長けており猿飛佐助作戦のキーパーソンとなる。

ストーリーPickup

以下、後半部のネタバレを含みます。

居場所をなくす仕事

ドラッカーが提唱するマネージャーは、発想を転換する、人の得意分野を生かすといった仕事だけをするわけではありません。最も大切なことは、もし自分がいなくなっても組織が回るということです。そのため自分の仕事を次へ繋げる、すなわち自分だけの「居場所」を消していく必要があります。

作中では誰よりも居場所を求めた夢が、居場所を作るマネージャーが自分の居場所を削らなければならないというジレンマに気づきます。自分を犠牲にしても成功させるほどの強い熱意、もしくは人の強みだけを焦点にできる優しさも求められていました。

マネージャーに求められる「真摯さ」

前作で注目された「真摯さ」は、熱心に取り組むさま、という用語で、ドラッカーはマネージャーに必要な先天的な才能と称しています。ただ、辞典用語とドラッカーの意図には解釈の大きさに違いがありました。

前作”もしドラ”の主人公にも当てはまりますが、マネージャーにとって、役目を果たすためには他者の強みを活かせることが必須です。また、自分が犠牲になっても構わないと感じられるほど強い覚悟や優しさを持っていなければなりません。ドラッカーの語る「真摯さ」には、辞書で示すような短期的な集中だけでなく、将来まで継続できる素質のことを指していました。

居場所を作りたい熱意

自分にも他人にも厳しく接してしまう、真実はマネージャーに向いていないと自覚していました。熱意と覚悟は十分あり、他人から慕われ、総括となったとしても気持ちは変わっていません。リーダーとして律していたものの、最後には本音を抑えることはできず辞めてしまいます。
夢は真実に付いていくために野球部に入りました。マネージャーに必要な動機が欠けている一方で、人の良い所に着目できる強みを持っています。

「夢に、一つ質問――」
「ん?」
「野球は上手いけど練習をサボる選手と、野球は下手だけど一生懸命練習する選手。夢だったらどっちの選手を試合で起用する?」


221ページより、真実から夢への質問。「他人の努力を思いやり、バランスで採用するかを考える」と現実に主だった夢、「どちらも満たす人だけ採用する」と理想を追う真実という対比がなされています。

真実がいなくなっても野球部は回り続けました。マネージャーとしての役目を果たして消えていった真実へ、夢は居場所を作ってあげたいと思うようになりました。「居場所を作りたい」真摯さは夢だけのものであり、マネージャーらしさを追い求めた前任者と違った方針です。夢は人事部以外の事業は現状維持にしており、変化し続ける企業家としては相応しくないともいえます。それでも、夢は欠点を知ったうえで自分なりの方法を模索していきました。

付き従う者ではなく並走する者として

マネージャー仲間に意見を聞き、ライバルの監督へ『どうしたら意識を高められるのか』と質問を投げかける。人の助けを借りて、夢は1つのアイデアを思いつきました。

野球部のマネージャーは、一部の例外を除いて選手を支えることが目的となっています。一般的なマネージャーは、休憩する場所や水分、食事の提供といったものから整備や片付けの手伝いまで、選手の活動から少し離れた位置で支える役割です。選手の邪魔にならないよう一歩後ろから付き従う、影のような存在ともいえます。

一方で夢たちが目指したマネージャーは、選手の隣でともに走る存在でした。並走するからこそ対等な立場でいられ、自分から辞めると言いにくくなります。プロスポーツでも行われている方法であり、『プライドの高い』選手ほど高い成果が得られる方法です。しかし、この方法を実行するためには、選手並みの高い身体能力を持っている必要があります。条件があるからこそ、夢は「あなたにしかできない」と元陸上部の真実に手を差し出すきっかけとなりました。

後編では「次の世代へ受け継ぐためにできる1つの回答例」と、本書のまとめについて書いていきます。

※本記事は下の記事の後編です。ただし、前編を読まなくても支障がでないように作っています。参考書籍に何が書いてあったのか、物語として読みたい方...
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