生物の神秘を利用する!5分で分かるバイオミメティクス

古来から自然に反し、人類は”電気”という形でエネルギーを利用してきました。電気は自然由来の火や運動エネルギーと比べ取り回しがよく、ある程度の保存が可能という特長があります。

一方で、未だに人類が自然に勝てない要素も多く存在します。

これらの神秘を活用する方法にはどんなものがあるのでしょうか?

バイオミメティクスとは?

バイオミメティクス(biomimetics)は、日本語では「生物模倣技術」などに訳される。直訳の通り、生物の構造や機能を応用し、人工的に活かす学問となります。

この言葉は1950年代にオットー・シュミットによって作られた比較的新しい言葉です。

しかし古来より人類はこれらの特性を利用しています。

フナクイムシの性質を利用した「シールド工法」(19世紀前半)やカイコガの絹糸精製を模倣した「ナイロンなどの合成繊維」(20世紀前半)などが、言葉が生まれる前の象徴的存在です。

生物の構造が分かるようになった、1970年代から順に発展していき、今でも積極的に研究されている分野になります。

バイオミメティクスの3つの分類

一口にバイオミメティクスといっても、描いている大きさが分類により大きく違います。

だからこそ、具体例の前に区別していく必要があります。

分子系バイオミメティクス

1970年代、TEM(透過型電子顕微鏡)などX線を用いた観察が可能になっていました。X線解析の発展は、生体触媒の分子論的解明につながりました。

化学、生体分野で酵素や生体膜を再現しようとする分野、これが分子系バイオミメティクスである。

大きさは100nm以下(ウイルス相当)であり、れっきとしたナノテクノロジーです。

主要分野は人工酵素や人工光合成など。

特に人工光合成は、実質無限リソースである太陽光をエネルギーに用いる技術になる。燃料電池用の水素の量産や、二酸化炭素を炭素に還元する目的で、現在でも研究されている。

機械系バイオミメティクス

分子系バイオミメティクスが発達した時期、別の分野でも生物の特性が注目されていた。

機械工学や流体工学が、生物の動きを模倣することによって抵抗を軽減することに成功する。これが、機械系バイオミメティクスである。

大きさはcm以上。分子系バイオミメティクスと異なり、肉眼で判別できる大きさです。

軍事や輸送だけではなく先端技術分野など世間に馴染みのある分野に応用されている。

具体的には新幹線の流体抵抗を減らす形状(カワセミのくちばしが由来)や蛇のように蠢くロボットなど。

特にロボット分野は、危険地域への偵察や救助への利用が望まれている。東日本大震災、福島第一原発事故を通して、より一層開発が進められることになった。

材料系バイオミメティクス

SEM(走査型電子顕微鏡)などによってμm単位の構造が詳細に分かるようになっていた。しかし他のバイオミメティクスと比べて、発展が少々遅れていた。

超撥水性や構造色など、表面の凹凸や積層(nm単位)を模倣して開発する学問。それが材料系バイオミメティクスである。

機械系との違いとして、機械系は特定部位を再現するのに対し、材料系は表面特性を再現する点が挙げられる。

接着物質を使わない粘着テープやスズ化合物(有毒)を使わない船底防泥材料、色材を用いない発色繊維などが実現されている。

バイオミメティクスの活用例

構造色:何故タマムシは光るのか?

上の虫はヤマトタマムシと呼ばれる、日本にいる大型のタマムシである。特徴として、様々な色に光って見える点が挙げられる。

ではタマムシがどうしてその色なのかを考えたことがあるだろうか?

推測の1つに、色素によって着色しているという意見があった。実際メラニン色素(黒・茶)やカロチノイド色素(赤)によって色がついている動植物は多い。もう一つ、レイリー散乱によって色がついて見えるとも考えられた。空や碧眼などこちらの具体例も数多い。

しかしどちらも間違っていた。

電子顕微鏡の進歩を活かして、タマムシの表皮を画像化することに成功した。その結果、見えたのは屈折率の異なる2層が折り重なった膜であることが分かる。つまり多膜層干渉や回折格子という光の現象によるものだったのだ。

多膜層干渉とは「屈折率の異なるそれぞれの膜で反射された波長が互いに干渉して強め合う」現象である。この結果、エネルギーの強い短波長側(紫外線方向)が強められる。なので青色に見えたり、あたかも金属光沢を発しているかのように見える。

これらの現象は何に利用できるだろうか。その一例が着色である。

着色剤は構造が複雑であり、不純物として処理するときに多大な労力を必要とする。水に10ppm(ppm:100万分の1)だけでも紛れ込むと、水の透明感が損なわれてしまう。

構造色(多層膜による色)は表面の一部だけを酸化させるだけで着色し、リサイクルが溶かすだけで出来るようになる。

誤飲したとき、塗料よりも安全という利点もある。

レイリー散乱
入射光が(波長より十分小さい)微小粒子に衝突した時、光が散乱する。これを遠くから見ることによって生じる着色現象のこと。
可視光の波長は400nm~700nm(概算)なので、微小粒子の大きさは数nm以下。
青空の場合は空気中の気体(大体0.3nm)などが微小粒子として扱う。

付着:フジツボの付着を避けるために

海辺の岩にへばりついていることが多いフジツボ。

  • 一応甲殻類なので、幼体は遊泳する。
  • 餌は植物プランクトン
  • ミネフジツボ(大型種)は養殖されて流通している
  • 青森県の特産品(1kg当たり4000円)
  • 可食部は10%以下

色々ネタに事欠かないフジツボだが、フジツボによる悪影響もある。フジツボが船にこびりつくことで、抵抗が増えるため燃費効率が悪くなる。またパイプ内で成長した場合、最悪塞がれてしまう。

これらを対策するため、防泥塗料を兼ねて有機スズ化合物が塗られていた。

しかし有機スズ化合物は、海洋生物に対する殺傷能力や内分泌攪乱作用があることが問題となる。(国際海事機関により世界中で禁止されている)

ではフジツボの付着をどのようにして避けるのか。

ヒントはフジツボの付着基質の傾向にあった。貝殻や岩に比べて魚や海藻にはあまり付着しなかったのだ。

そこで研究者たちはヒドロゲル(多量の水を含んでいて(体積の60%以上)で非常に柔らかいゲル)に目を付けた。なおヒドロゲルというと難解なものに思えるが、寒天や豆腐、コンタクトレンズも含まれる。

実験結果、ヒドロキシ基(ーOH)などによって特に抗付着作用があることが判明した。フジツボだけではなく、その他の付着生物も抑制できる。

ヒドロゲルには、力学的強度や塗装方法に多大な問題がある。また実は抗付着作用を示すメカニズムも解明されていない。

このようにまだまだ問題はあるが、生物の特性を活かして対策するという具体例としてフジツボを挙げた。

保持:臓器の常温保存へ

人類の夢の技術の1つにコールドスリープがあります。全身を冷凍して未来へ送る技術では、倫理とか解凍するメリットとか技術以外にも多くの問題があります。

ここでは前進冷凍ではなく、肝臓などの臓器を冷凍保存する方向性についての議論です。

歯の冷凍保存など、一部は実用化されています。しかし、冷凍保存には多くのエネルギーを消費する欠点があります。

だから常温下で保存したいという願望があります。

ここでネムリユスリカという昆虫の特性が注目された。

ネムリユスリカはアフリカの半乾燥地帯に生息しているユスリカの一種です。8か月間の乾季の間、幼虫は水たまりの底で乾燥して水を待っています。この乾燥幼虫、心臓や脳が動いていない

しかし水を与えれば1時間ほどで再生します。

特に注目する点は、17年後に水を与えたとしても蘇生した点です。寿命数週間の生物と考えると、異常な期間になります。

他にも2年半宇宙空間暴露実験に耐え抜いていた実績も。

臓器の耐久性能、蘇生性能は折り紙付きなのですが、これを人間で実施しようとすると大きな問題があります。

乾燥幼虫をトレハロースが保護することによって仮死状態を保っているが、ヒトはトレハロースを生産できない点

もう一つは活性酸素の発生。活性酸素はDNAの切断などを誘発するため、危険物質とされている。解凍過程(クリプトビオシス)で発生するDNA破壊は、70Gyの放射線に相当するそうです。

X線やγ線と仮定し、Gy(グレイ)=Sv(シーベルト)と考えます。このときLD50は4~5Gy、LD99は6~7Gyと算出されます。

ユスリカは破壊に対し、逐一修復することによって解凍できます。一方、ヒトは修復する以前に即死します。

線量についての補足
2011年3月16日、福島第一原発50km北東で観測された放射線量はわずか3.6mSv。放射線、放射線とメディアが騒いでいた量は、健康被害の出る3%程度でした。とはいえこのデータが年間なのか、一時間当たりなのかは確認できていません。
ただそれ以上の放射線量であることが分かる参考にはなるでしょう

まとめ

バイオミメティクスとは、生物の特長や特性を応用して活用していく技術です。それは不思議な特性を利用することもあれば、常識的過ぎて忘れ去られたものもあります。

具体例は紹介したもの以外にもたくさんあります。

「カブトムシの角は何故固い?」
「とあるシロアリの巣はどうして土が盛り上がっている?」
「アリクイの舌はどうやってシロアリを捕獲する?」
「カタツムリの殻はどうして汚れが付いていないのか」

自然への素朴な問いから、新しい改革が生まれていく分野とも言えるでしょう。

参考文献

篠原現人、野村周平、「生物の形や能力を利用する学問 バイオミメティクス」、東海大学出版部(2016)

「シーベルトー通信用語の基礎知識」、http://www.wdic.org/w/SCI/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88

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