「少女は卒業しない」(後編)最後の放課後、関係の変化

朝井リョウ作「少女は卒業しない」のレビュー後半となっています。

最後の卒業式が過ぎた後の時間。各々の道を進むために異なる道を歩みだす。そんな4組の少年少女を描いた部分になります。

後編では部活動仲間との別れを描く第四章から、夜が明ける第七章までの紹介です。

  1. 第一章:エンドロールが始まる →早朝
  2. 第二章:屋上は青       →卒業式直前
  3. 第三章:在校生代表      →卒業式
  4. 第四章:寺田の足の甲はキャベツ→卒業式後
  5. 第五章:四拍子をもう一度   →卒業ライブ
  6. 第六章:ふたりの背景     →卒業ライブの裏
  7. 第七章:夜明けの中心     →夜明け前

第四章「寺田の足の甲はキャベツ」

体育館での最後の部活、寄せ書きをするために集まったバスケ部。みんなで卒業ライブを見に行く約束をし、後藤と寺田は2人だけ先に抜けた。思い出の品を掘り起こすべく、2人乗りの自転車が道を走る。

後藤は第三章の主人公であった亜弓の先輩であり、女バスの部長です。亜弓が部活を止めたときの裏話と、彼女の送辞を見ての行為が描かれています。

あたしも言わなきゃ。亜弓みたいに堂々とはできないかもしれないけど。(p.109)

亜弓が部活を止めた騒動をきっかけに付き合いだした2人。それぞれの思いを胸に秘め、自転車は祠へと向かいます。季節外れの花火リレーを楽しむ彼女たちですが、終わりが刻一刻と近づいていきます。

「最後だな、花火」
残っていた花火、二本。あたしと寺田で一本ずつ。
寺田はあっちを向いたまま、あたしから花火を受け取った。(p.136)

タイトルから予想できない重い部分が明るい部分と共存しており、見えている答えから現実逃避をしている地の文が心に残りました。

また、この章は特に情景描写が強く描かれており、それによって心が震えていたことが伺えます。例として、自転車に乗っている最中の1シーンを挙げました。東棟は幽霊の一件含め不気味な印象を持たれており、大騒ぎしていても爆弾が残っていることを示唆しています。

「スゲーみんなたのしそうだなあ……ほら、野球部のとこなんて、あそこだけ桜が散ってるみたいだぞ」
「いや多分あれ破り散らかした卒業証書」
「……きれー」
最後のお祭りの渦を作っているような学校の中で、東棟だけが、その場に佇んで見えた。(p.113)

第五章「四拍子をもう一度」

三章、四章の恋のきっかけとなった、卒業ライブを中心に描いた物語となっています。

軽音部による、卒業ライブの舞台裏で一つの問題が発生する。バンドに必要な衣装がなくなっていた。必死に探すバンドメンバーと軽音部元部長の神田の4人。一方、放送部元部長氷川はボールペンをノックし、ボーカルの森崎は姿を整えていた。慌ただしい舞台裏、時間が近づくたびに杏子の焦りが積もっていく。犯人は誰なのか、そして森崎たちはどうやって乗り切るのか。

犯人よりも、どうしてバンドメンバーではない神田が誰よりも焦っているのか、どうして森崎が平常心でいられたのか、といった心理描写に趣が置かれた作品です。トリックは非常に単調な物でしたが、タイトルは上手く回収されていた点が素晴らしかったかと思います。

第六章「ふたりの背景」

第五章の卒業ライブと同時刻、あすかは静かな美術室にいた。卒業写真からも壁一枚隔てられたように、H組だけ印象が明るいかのように感じられた。アメリカに行くことが決まっているあすかは、最後に正道に再開の約束をする。

卒業式当日としては簡潔にまとめられます。しかし、この作品の根幹は過去の話にあり、あすかの居場所が変化していく様子が描かれていました。

父の仕事の都合で、あすかはカナダから転校してきた。詰め込み過ぎの教室とそりが合わない生徒。文化祭の日、あすかは外でビラを配っていた。そのとき描き続けている正道と出会う。東棟の外壁に展示されていた絵に感銘を受け、一緒に美術部に入ることとなった。

同時期、嫉妬とビラを配り損ねたことから里香に怨みを持たれる。あすかは教室で孤独になり、美術部だけが居場所となった。しかしそこにも里香は乱入してきた。その当時、文化祭の展示としてリレー肖像画を行うことになる。あすかと正道の中に里香が割り入り、正道に自分を書かせようと試みる。

鉛筆一本で、白か黒かの世界の中で、私の横顔がそこにあった。とても、とても似ていた。
正道くんは眉を下げて視線を落とした。
「見えなくて」
丁寧に言葉を選んでいるときの顔だった。
「僕の目にあなたは、映らなかった」(p.196)

この文章は、正道の知的障碍と里香への因果応報、あすかの心境変化の3つ、この短編の主軸がまとめられた部分です。これがあったからこそ、卒業式の別れと再会の約束につながっていきました。

第七章「夜明けの中心」

日は沈み、天高く月が空にある真夜中、まなみは北棟の裏側から高校に侵入する。弁当を掲げ、東棟ではなく「南棟の」幽霊に会うために。真夜中の教室の引き戸を開けると、先客香川がいる。事故以来の2人きり、彼女らは根本である南棟の調理室へと足を運ぶ。

幽霊の元凶と南棟の幽霊の噂を消した犯人が他の章で示されています。つまり、読者視点では幽霊が現れることがないことを知ってしまっています。しかし、まなみと香川にとってはそれでも幽霊を求めて学校を回ります。

この短編の特徴として、時系列が過去と現在で変化する2文がほぼ同一であることが挙げられます。このとき、発言者は違っている点からもこだわりが見えました。下に一例を示しておきます。

「ずっとこうしていたいな」

「ずっとこうしててもしかたないよな」(p.253)

ドン、と音がした。

ガチャ、と音がした。(p.244)

また、本の締めくくりの章として、夜が明けて終わっています。真夜中から夜明けと2人の心境の変化が比喩されている点からも、時間の変化が重要な短編だったと感じました。

引用図書

朝井リョウ「少女は卒業しない」(2012)、集英社

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