重い元素の多くは人体への悪影響が大きく使用を自粛されています。その中には20世紀に大活躍した鉛や水銀なども含まれています。
2011年に起きた震災と放射性物質の被害の当時、米への被害はどれほどだったのでしょうか。そして今でも続いているのでしょうか。疑惑のきっかけとなった「セシウムさん騒動」を通して、放射性物質の基本について学ぶきっかけとなればいいと考えています。
セシウムさん騒動
概要
2011年8月4日放送「別冊!ぴーかんテレビ」中にて、「岩手県産のお米・ひとめぼれ3名プレゼント企画」の当選者画面に勝手に切り替わり、当選者名が
- 怪しいお米 セシウムさん
- 怪しいお米 セシウムさん
- 怪しいお米 セシウムさん
になり、23秒間もの間表示され続けた騒動です。
ローカルである東海テレビに関わらず、日本民間放送連盟やBPOが出てくる大騒動になっていました。
取材に対し「ダミーテロップの確認ミス」「コミュニケーション不足」だと回答した番組は、13年の歴史を閉じました。
悪質なテロップミス
YouTubeで問題の映像を拾ってきました。
(投稿者:nyulonn、投稿日時:2011/8/4、アドレス:https://www.youtube.com/watch?v=IqoUxKIb0us)
前半部で紹介されているのは「秋田県産稲葉うどん」の通販になります。被災地で生産された食品にお金を払い、そのお金を持って復興する。そのプロジェクトの合間にこのような騒動が起きたのです。
被災地や視聴者からの苦情が17000件以上(8日夜までの統計)寄せられ、被災地への冒涜や風評被害の原因と扱われていました。
本当に風評被害だったのか
達増 拓也現岩手県知事は「マスメディアはデマを沈静化し、防ぐ使命があるはずだ」と述べたそうです(リンク切れにより証拠は取れず)。また東北全体のお米が風評被害により問題視され不謹慎なテロップで苦労が台無しになる旨の記載がなされています。
2011年当時は震災直後で絆によって復興をしようとする動きがありました。そして絆を妨げるものを一斉に非難するという傾向も強まっていました。
「セシウムさん騒動」は当時のマスメディアが悪ふざけで犯した騒動なことは確かでしょう。
とはいえインパクトの大きさは確かなもので、放射性物質とはを調べるきっかけにはなったのではないでしょうか。そこで本記事では以下放射線とは、放射性物質とはについてまとめていきます。
放射線について
悪質なデマか、というのを判断する前に放射線・放射能について軽くまとめておきます。
より詳しく正確な情報を知りたければ、学習院大学の田崎晴明教授が運営している「放射線と原子力発電事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説」がおすすめです。
そこまで短くはないですが事故当時に数理物理学者が中学校レベルから理系大学レベルまで幅広く、理論を展開していった記事になっています。
リンク:http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/index.html
放射性物質とは
放射性物質とは「放射線を出す能力を持った物質」もしくは「不安定な物質」を指します。
酸素でも水素でも全ての原子には最も安定な状態があります。もしもその状態から離れていたらどうするでしょうか?答えが「放射線を出すことによって」エネルギーを外に出し安定化させます。
この現象は原子に限った動きではなく、熱伝導やボールの落下、電流の流れなどといった幅広い場所でみられる一般的な現象です。
余談:エントロピーSについて
上記の法則を表すパラメータとしてエントロピーという概念があります。エントロピーとは「物事の乱雑さ」を表す値で、エントロピーが小さいほど局所的にエネルギーが集まっていることになります。状態数をWとするとエントロピーは次のように定義されます。
\[
S[J*K^{-1}]\simeq1.38062\times10^{-23}\times\ln{W}
\]
エントロピー増大の法則(熱力学第二法則)が適用される限り、エントロピーは(局所的に減少しても)系全体では増加していきます。これにより局所的な化学エネルギーから、電磁波や熱といった乱雑なエネルギーへと変化することが説明されます。
一般的にギブズの自由エネルギーGの変化(下式)が負になる場合のみ、反応が生じるとされています。
(H:エンタルピー、T:温度[K])
\[
ΔG=H-TS
\]
放射線とは
次に放射線についてです。放射線とはα線、β線、γ線など、放射性物質が安定化するときに放出するものです。いずれも非常に小さい存在で生物の目で見ることは出来ません。
α線、β線、γ線はエネルギー量ではなく飛んでいる物質で区別されます。
以下eVという単位を用いています。
\[
1[J]=1.60218*10^{-19}[eV]
\]
α線
α線はヘリウムイオン 4He2+が秒速15000~20000mで飛んでいるものを読んでいます。原子核中の陽子と中性子を2つずつ飛ばし小さくなる、α崩壊により発生します。
β線やγ線よりエネルギーは大きいのですが、空気中ではわずか数cmしか飛ばないため無視出来ます。
しかし内部被曝(経口摂取)の場合、細胞との距離が近く放射性被害に大きく寄与しえます。
β線
β線は電子線で電子もしくは陽電子が飛んでいます。電子を飛ばして安定化させるβ崩壊によって発生します。
エネルギーは0.2MeV程度、空気中の飛距離は数十cmです。アルミ箔で防ぐことができるので、放射線物質の保管時はアルミホイルでくるみます。
反応性は中程度で、外部からの被曝では皮膚の表面に遮られます。
しかし内部からの被曝ではα線と同じく細胞破壊に寄与してしまいます。
γ線
γ線は素粒子、光の流れです。波の大きさやエネルギー量で分けられる、光の呼び方の1つとなっています。
透過率が高く空気中でも数十メートル飛ぶことができます。そのため外部からの被ばくと言えば、このγ線のことを指しています。
おまけに内部からの被ばくでも影響を与えます。
\[
E=\frac{h\times c}{\lambda}[J]=\frac{(6.626*10^{-34})*(2.998*10^8)}{(1.0*10^{-9})*(1.60281*10^{-19})}=1.3*10^3[eV]
\]
複雑な単位の関係
放射線を表す単位はいくつかあり、これらを誤解すると判断ミスの元になります。
整理のため簡単に紹介していきます。
ベクレル(Bq)
ベクレルは壊れた個数を表す単位です。
厳密には「放射性物質が1秒間あたり崩壊する原子の個数(以下、放射線量とする)」の単位で、半減期と質量が分かれば計算できます。
線量計の原理や測定に使われています。
シーベルト(Sv)
シーベルトは人への被害の大きさを表しています。
「特定組織への被曝の影響の大きさ(等価線量)」や「全身の被曝を評価する量(実効線量)」に分けられます。
直接計測することができない値なため、放射線量(Bq)→吸収線量(Gy)→実効線量(Sv)→等価線量(Sv)という変換で求められました。
国際放射線防護委員会2007年勧告による定義(要約)
実効線量[Effective dose]:人体のすべての特定された組織及び臓器のおける等価線量の組織荷重合計
等価線量[Equivalent dose]:組織または臓器が放射線から受ける平均吸収線量へ放射線加重係数をかけたもの。
グレイ(Gy)
グレイは吸収したエネルギー量の単位です。シーベルトと違って測定することができます。
あくまで物理量なため危険性と直接結びつきません。足にぶつかるのと肺にぶつかるのでは被害が全然違ってきます。
放射線治療など医療分野の被ばく量として用いられています。
まとめ
今回はセシウムさん騒動、放射線についての予備知識の2点について書いてきました。
- セシウムさん騒動とは、テロップ事故による風評被害の流布が疑われた事件である
- 放射線はα線(ヘリウム)、β線(電子)、γ線(光子)に分けられ、それぞれ性質が異なる
- 放射線関連の国際単位系はベクレルBq、グレイGy、シーベルトSvの3つであり、物質や放射線の種類を特定すれば変換できる
参考文献
「放射線と原子力発電事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説」http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/index.html
コメント