入江君人「神さまのいない日曜日」 生が途絶えた世界で夢を語る

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今回は、入江君人作「神さまのいない日曜日」という作品の感想になります。月曜日に世界を作り日曜日に……という、旧約聖書の天地創造と似た文章から始まる作品です。2013年夏にアニメ化されました。

15年前、人が生死することがなくなった世界。子供が生まれず、死体が蠢く世紀末に人類は嘆きます。神は最後の軌跡として、ただ死者を殺すための存在である”墓守”を生み出しました。
最後の世代の主人公たちが、夢を求めて世界を回る物語です。

人物紹介

アイ→アイ・アスティン

”天国”と呼ばれた谷で暮らす、12歳の墓守の少女。自分を除く47人分の墓を形見のシャベルで掘りつつ、村人に甘やかされて見守っていた。噂を聞いてやってきた人食い玩具に出会ったことで、村の外側を知ることになる。

感情の揺れが少ない連中と一緒にいることもあり、喜怒哀楽の起伏は激しく、地の文にもよく映し出される。しかし、銃口を向けられようが信念を曲げることは決してない。

母親は”天国”を作った、先代の墓守であった。金髪緑目の容姿と、大きなシャベル(柄まで含めると、頭から尻までの長さ)を振り回す体力は親からの遺伝である。

「すべて忘れて、死んだふりして生きていく事は、出来ません」
アイは顔を挙げた。
弱弱しく目尻の垂れた瞳は灼熱の眼光に晒されて、さらに怯えて縮こまる。もう一蹴り二蹴りで崩れそうな眼だ。実際にハンプニーはそのようにした。
しかしアイは崩れなかった。負け犬のような目で逃げる事も立ち向かうこともせずに。(p.106)

 

人食い玩具(ハンプニーハンバート)→キヅナ

十代後半に見える不老不死の青年。銀糸の髪、紅玉の瞳のアルビノであるが、虚弱の気配は一切ない。「ハナと呼ばれる、茶髪黒目でハッキリとした顔立ち」の恋人を探している。13年前の死者狩りで一緒だった青年から噂を聞き、”天国”にやってきた。

後天的な不老不死、死ぬと体力が回復する性質を最大限に利用している。疲れたら刺す、自分ごと爆発に巻き込む、嫌悪による死者狩りなど、死に関しての間隔が自他ともに薄い。

夢は『友と妻と子どもたち……後に続くものを泣かせて、少しばかりの未練を残し逝くこと』。子供が生まれなくなった世界で、達成困難な望みであった。

「よっし! まだまだ行くぞ!」
「ちょっと待って下さい! いま何をしたんですか!? まさかまた……」
「うん、死んでた」
「いやーー!! 私の腕の中で死なないでください!」
「うるせえなぁ……。お、そうだ、寝ないなら定期的に心臓突いてくれないか?」
「絶対嫌です!」(p.146)

これは2人が出会った次の日である。とても山道を歩いていく光景ではなく、重たい展開の多い作品中で珍しく明るいシーンであった。当然、両者ともにいたって真面目である。

 

ユリ―・サクマ・ドミートリエビッチ

黒い髪、青い瞳のおじ様。人食い玩具と同年代で親交があったが、6年前人食い玩具に死人の妻を殺されて以来別れていた。娘に先立たれたことをきっかけに彼を追っており、旅に出る前の2人に遭遇する。

その後、人食い玩具に川底まで蹴っ飛ばされた逃がされたアイを救出する。仇敵ではあるが、友と呼んでくれたことを思い出す。偶然会った墓守スカーと3人で、彼を助け出すべく山小屋に突撃した。

原作では描写がなかったが、アニメ版第3話ではユリ―の家族3人、人食い玩具、ハナが写った写真が見られる。そのときのハナは、茶色というよりは金色の髪であり、彼が詮索していた情報と齟齬が生じていた。

「あ、ああ。そうか墓守か……」
「……納得するの早いな」
「そりゃ、こんな年ごろの人間がいるはず無いからな」
「……なに?」
ハンプニーの目が見開かれた。そしてなにかに気付いたようにアイに聞く。
「……アイ。お前何歳になる?」
「十二歳ですけど」(p.117)

 

引用先

入江君人「神さまのいない日曜日」(2010)、富士見書房

 

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