「数学ガール」新しい、数学への第一歩

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今回は結城浩さん作「数学ガール」の記事になっています。後に数学教師となる主人公と、少女たちが学校以上の数学をもとに話が進んでいきます。

あらすじ

高校1年生の春、数式が好きな少年「僕」は、桜の木の下でミルカと出会う。「僕」が「1、1、2、3(フィボナッチ数列)」という数列クイズに答えたことから、2人の距離は縮まっていった。高校2年の春、新入生の少女テトラから万年筆で書かれた手紙を受け取る。定義の重要性から、図書館で勉強する仲間が増えた。

当初、中学時代と同様に独りで解くと思っていた生活は、彼女達との出会いをきっかけに「僕」の生活は変化していく。

 

感想

中盤以降は、数学教師である村木先生からの問題を解いていくお話です。問題自体は調和級数の無限和、バーゼル問題など理系に進む人たちはおろか、工学系の大学生すら悩ませる問題が続いていきます。おそらく、ただ問題を羅列しただけでは難解な専門書と変わらなかったかと。

しかし、この作品にはその問題点を払拭するほどの特長が2点ありました。

1つ目は、数式を無視したとしても物語として成立している点です。最悪、全ての数式を読まなかったとしても、学生の趣味に勤しむ温かい物語として読むことができると思います。

以下の様に、少々数学用語を元にした比喩も出てきますが、それもまた味があります。

僕たちの距離は、ゼロから一気に伸びる。

二人の腕の長さの和まで。(p.159)

僕は、もう、何を考えているかわからなくなる。気持ちがぴったりと一致することはありえなくても、一致しているとみなせるほどにじゅうぶん近づくことはできるのかな。たっぷり時間をかけるなら――漸化式のような歩みでも。(p.209)

 

 

2つ目に、数学を熟知している「僕」やミルカさんだけではなく標準的な高校生としてのテトラがいることです。

例としてバーゼル問題を取り上げます。

\[
f(2) = \sum_{k=0}^\infty \frac{1}{k^2}
\]

1735年にレオンハルト・オイラーが解くまで、約1世紀間悩ませた難問です。「僕」とミルカの2人だけでは勝手に大学数学に発展していってしまいます。しかしテトラに解説する建前のおかげで、「三角関数のテイラー展開」と「恒等式」という高校生で習う分野からデザインされていました。(下式)
\[
(1-\frac{x^2}{1^2\pi^2})(1-\frac{x^2}{2^2\pi^2})(1-\frac{x^2}{3^2\pi^2})\cdots=1-\frac{x^2}{3!}+\frac{x^4}{5!}-\frac{x^6}{7!}+\cdots
\]
ただし、前提式
\[
\lim_{x \to 0}\frac{\sin x}{x}
\]
より4次以上の項は無視できるので次の式が成り立っています。
\[
-\frac{1}{1^2\pi^2}-\frac{2}{2^2\pi^2}-\frac{3}{3^2\pi^2}-\frac{4}{4^2\pi^2}-\cdots=-\frac{1}{3!}
\]
これを解くことでバーゼル問題の解が導かれました。

「はい、これでひと仕事おしまい」人差し指を立てて、ちょっと首を傾げ、にっこり笑う。最高の笑みだ。
「な、なんでっ! い、いつのまにっ! お、おかしいっ!」
テトラちゃんはまだ混乱している。(p.255)

 

この本は、数学という分野に青春をかける物語でした。そういう意味では甲子園とか全国大会を目指すものと大きな違いはないと考えます。どちらかというと、数学に対してあまり良くない印象を持っている人にこそ、読んでほしい一冊です。

 

引用図書

結城浩「数学ガール」(2007)、ソフトバンククリエイティブ

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