湊かなえ「告白」 教師として生徒の殺人を許せるか

『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』(2010)を始め、立場による人の倫理観を問う書籍は数多くある。堅苦しい言葉を並べた哲学書から、子どもや児童に向けた絵本まで、それは多くの人に向けて売られている。

今回はそういった作品の1つである、湊かなえ作「告白」について取り上げる。教師として罪を犯した2人を許すか、親として少年院すら手ぬるいと扱うか。彼女の選択と、彼らの末路を描いた作品であった。

あらすじ

女性教師の娘である森口愛美は学校の中で水死した。それは事故ではなく、自分が担当している生徒による意図された殺人だった。真実を知った森口悠子は1つの決意をする。

最期の日、森口裕子はホームルームで全てを告白する。犯人とされる2人へと残酷な置き土産を残して、この学校を去った。

級友(第2章)、犯人の家族(第3章)、2人の犯人(第4章、5章)の視点から、彼女の残した爪痕と広がる波紋を描いていく。

主要登場人物

森口 悠子

第1章「聖職者」、第6章「伝道者」の視点人物。この騒動の被害者というよりも、多くの人を不幸に貶めた加害者と記す方が相応しい人物。

森口愛美を2月半ばに殺害した犯人「少年A」「少年B」に対して、AIDS患者の血液を混入させた牛乳を飲ませる復讐を行う。感染率が低いことを知りながら、当初はこれで仕舞いにするつもりだった

桜宮の死の間際、彼が復讐を未然に防いだことを知る。彼の行為と裁かれなかった「少年A」「少年B」を許せず、寺田や生徒を使って間接的に潰すことを選んだ。

桜宮 正義

森口愛美の父親。第1章ではまだ生きていたが、翌月にAIDSの合併症で亡くなった。

かつて自暴自棄になっていた際にHIVに感染した。後に教職に就き「世直しやんちゃ先生」として名前を轟かせる。5年前森口悠子と子をなしたが、風評を恐れて結婚はしなかった。このとき森口親子はHIVに感染していない。

作中には死の間際の回想(6章)以外で登場することはないが、森口や寺田に大きな影響を与えている。

最期まで教師として生徒2人を許そうとしたことから、森口に「聖職者」と称された

北原 美月

第2章「殉教者」の視点人物。森口を崇拝していた反面、全く空気を読まない寺田を嫌っている。

森口が血液を混ぜていないことをルミノール試薬試験から知っており、2人が感染していないことを知っていながら誰にも伝えなかった。「少年C」騒動や渡部いじめの際も静観よりで、自身が追いつめられるまで関与しなかった。同罪と見做されて渡部とタッグを組んだ後、クラスへと逆襲する。

騒動後しばらくは渡部と一緒にいたが、渡部の事情を知り、「マザコン」と地雷を踏んだことから殺された

家族を毒殺した中学生「ルナシー」に憧れ、美月という名前も「ルナシー」の生まれ変わりと考えていた。彼女のようにと薬品を集めており、上記のルミノール試薬もその1つである。森口悠子やルナシーを崇拝し、殉教者として亡くなった

寺田 良輝

第2章の主要人物。森口悠子が去った後のクラスを持つ新任教師。過去に桜宮正義に救われた経験から、彼のことを心酔している。

険悪なクラスの空気を読まない、下村家の雰囲気を犯すなど教師として高い評価を付けることはできない。前任の悠子と比較され、北原美月からは特に嫌われた。

裏で「桜宮正義ならばこうする」と森口悠子に指図されていたことから擁護はできる。なお、原作では彼のその後について記載されていない。

下村 聖美

第3章の「慈愛者」の視点人物で下村家の次女(大学2年生)。平凡な家庭であった下村家の再生のため、事件の真相を知るために実家へと帰ってきた。

事件の2日後に警察から知らされるまで、直樹が不登校であることを知らなかった。不登校となった原因を知っても、それが原因で母親を殺すとは信じがたく、手掛かりを求めて母親の日記帳を探した。そして母親の心境と弟の変化を知ることになる。

母親は子供へと過剰の愛情を注ぎ、息子に理想を押しこみ続けた。父親は放任主義で、同じ家に住んでいながら4か月もの間息子の不登校を知らなかった。そんな中で、弟の真実を知ろうとわざわざ戻ってきて、真実を知っても面会に向かった下村聖美は「慈愛者」と呼べるだろう。

下村 直樹

第4章の「求道者」視点人物で「少年B」の正体。

学童の面で友人に抜かされ、塾でも伸び悩んでいた。過保護な母親と過放任の父親の3人暮らしで、誰にも認めてもらえないことをコンプレックスに思っていた。事件を傍観し情報を広めてくれる駒として選ばれたことで、彼は渡部修哉の事件の共犯者になった。

当時はようやく認めてくれたと喜んでいたが、事件当日に渡部から「人間の失敗作」と言われたことで激昂する。気絶しただけだった森口愛美をプールへ突き落として水死させた。そのときの感情は殺したことによる罪悪感ではなく、渡部が失敗した殺人を成し遂げた達成感だった。

「あ、そうだ。共犯とか、気にしないでね。最初から仲間だなんて思ってないから。能なしのくせにプライドだけは高い、そういうヤツが一番嫌いなんだ。発明家の僕からしてみれば、君はあきらかに人間の失敗作だよ」

「話しかけないでよ、仲間でもないのに。あ、それから僕、昨日のことは誰にも言うつもりないから。言いふらしたければ自分でどうぞ」


(上)192ページ、(下)197ページより引用。2人とも共犯者を見下していた。

HIVに感染したと勘違いして以降、排泄物を出さず人と関わらないように気にするなど、もとの心が脆く優しい態度のままであった。しかし心の弱さに気づいた森口の手によって安楽の空間が崩壊した。意図して愛美を殺したことを知った母親に殺されそうになるが、「失敗」と地雷を踏まれて反射的に殺害してしまう

渡辺 修哉

第5章の「信奉者」の視点人物。森口愛美をターゲットに定め、意図して電気ショックを与えた「少年A」である。

天才の母親のもとに生まれたが、母親がK大の准教授に雇われたことをきっかけに連絡を取れなくなる。父親や再婚した義母を馬鹿だとけなし、母親に認めてほしいと勉強をしていた。

彼が犯した犯罪の内、美月を殺した1件以外は全て母親に知ってもらうため。最初は全国的な賞に表彰されることで目にしてもらう予定だったが、ルナシー事件が大々的に報道されたことをきっかけに歪んでいった

瀬口 喜和

第5章の重要人物。K大学の教授であり、渡部修哉の「びっくり財布」を評価した人物。当人の意図とは異なる解釈をされたことによって、愛美殺害事件へと繋がっていった。

渡部の母親の再婚相手でもあり、12月末に一児の父親になるはずだった。浮ついた話を渡部にしてしまい、縋っていたものを奪ってしまった。後日、研究室に渡部の爆弾を仕掛けられたため爆死した疑いがある(被害が描写されていないので不明)。

ストーリーpickup

教師としての説教

第1章「聖職者」は森口悠子のモノローグである。犯人が仕掛けに引っかかったことを知ったうえで、真実をクラスの前で語った。

前半では聖職者のような素振りを見せていたが、徐々にその仮面は剥がれていく。少年Bを努力不足と、少年Aを天才と勘違いしただけの凡人と罵る。そしてモノローグの最後、森口は彼氏の血液を牛乳に混入させたという置き土産を残して去っていった。

ちなみに第6章で森口が語っているように、血液を経口摂取した場合のHIV感染率は0.1%以下と相当低い。また、性感染症でない人が○○を行ったときの感染率も1%程度と、世間の想像以上に低い割合となっている。現に悠子、愛美の2人は感染していない。

復讐に利用されたピエロたち

○○のメールから事件の共犯者「少年C」がでっち上げられた。渡部を助ける者は共犯者だとして、今でも平然と中学に来る渡部をいじめる生徒たち。一方で逃げた下村には、寺田が誰かからのアドバイスに従って通っていた。誰も○○が背後にいることを知らず、自分から動いているかのように少年A、少年Bを追い詰める。

委員長の視点から渡部いじめを描いた第2章は、この作品でも特に1周目と2週目で違った世界が見えてくる。1周目で寺田に嫌悪感を持った人は、もう一度見直してほしい。

「認めてほしい」という思い

下村は誰かに自分の価値を認めてほしかった。だからこそ渡部に協力し、渡部が為せなかったことを完遂させた。HIVに感染したと勘違いしたとき、母親を傷つけないように立ち回ったり、ふっきれて自分の血をまき散らしたりした。

第4章に付けられた「求道者」とは、悟りなどを求めて修行する人を指している。他人に迷惑をかけない、価値を認めてもらうといった思いを一貫する姿勢から付けられたと考える。

渡部は母親に自分の存在を認めてほしかった。だからこそ下村を利用し、誰かを猟奇的に殺して自分の名前を日本中に伝えたかった。ルナシーのように家族構成を、事件の背景を広めることを望んでいた。

HIVに感染していないと美月に知らされたとき、彼はショックを受ける。母親と会うきっかけを1つ失ったからだった。そして母親がわざと接してこないことを知ると、馬鹿どもごと自爆する計画を立てた。

第5章に付けられた「信奉者」とは、特定の人物や教えを無上のものとする人を指す。母親が薦めた書籍を一貫して守り、その知識を利用して数々の犯行をした彼に相応しい名前であった。

まとめ:生徒の過ちを許すべきなのか

この本では、少年少女が興味や目的のために他人を殺め、傷つけた。そして教師たちは、教師として許すべきか、親として裁くべきかの選択に迫られ、森口と桜宮は違う解をだす。

何が正しいのか探しているような中高生から子どもを持っている大人まで、幅広い人に考えさせる内容の小説であった。

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