当時の岩手県産米は危険だったのか?(後編)

セシウムさん騒動を振り返ったので、次いで本当に危険だったのかを考えていくことにします。

現在の福島県内陸部の空間線量は、2011年当時の岩手県に相当します(どちらも0.2μSv/h程度)。だから当時の岩手県産の安全性を知れば、2017年の”ふくしま”産についても判断できると考えました。

なお米国の模倣すらできないのに原発に拘った要因や経費の無駄使いなど、東京電力の倫理問題については除外します。参考になる情報源が見つかれば書いてみたいのですが。

前編のまとめ

  • セシウムさん騒動とは不適切だとされるテロップを報道した事故である。東北産の米への風評被害が疑われた
  • 放射線はα線(ヘリウム)、β線(電子)、γ線(光子)の3種類に分けられており、それぞれ性質が異なる
  • 放射線関連の国際単位系はベクレル(Bq)、グレイ(Gy)、シーベルト(Sv)の3つ
  • 実効線量は体全体の負荷、等価線量は特定臓器の負荷、吸収線量は一定面積に与えたエネルギーを表す

前編のアドレスは下になります。

”ふくしま”の食材を積極的に食べようとした活動が、今でも時折見られます。今なお残る放射性物質を危惧して、徹底抗戦の構えを見せる動きもあります。風評被害の橋掛けとなった「セシウムさん騒動」からお米の安全性について今一度考えていきます。

賛成側の視点

賛成派から見ていきます。金銭を稼ぐ、流通量を確保する、大衆などのアピールといった様々な陰謀があるかもしれませんが、基本的に行政はこのスタンスに立っています。

放射能を測定する機械(線量計)の値を信用しており、その値をベースにして安全性を保障するケースが(販売業者など)多く見られています。

適切な放射性検査

放射線測定は事件当時から現在まで継続して行われています。これは福島周辺だけでなく、稚内市から石垣市まで、全国的なデータが公開されています。ただし北海道は19か所、東京や愛知は5か所(大阪は9か所と少し多い)と比べ茨城57か所、福島3705か所と歴然とした差はありましたが。

また、流通時には放射線検査が行われています。ここで基準値を超えているものがあれば、消費者に届く前に弾かれます。

放射線に対する管理は事件前と比べて明らかに良くなっており安全になっている、というのが賛成側の意見です。

塩化カリウムという救世主

農林水産省と福島県より、土壌中の交換性カリ含量と玄米中の放射性セシウム濃度が反比例する結果が得られています。

この研究は平成23年度(2011年)に500Bq/kg以上の放射性セシウムが検出された地点において、平成24年度に4地区分現地試験を実施したものです。基準値以下に必要な量は25mg K2O/100gと試算されました。これは交換性カリ含量による収穫量増加効果が見込まれる限界値40 mg/100gよりも小さい。

つまり一般的な量の肥料を与えるついでに対策ができるということになる。

『図10 交換性カリ(K2O)含量と収量増加指数』(参考文献1より引用している)

反対側の視点

次に反対側について。こちらは主に専門家やブログなど零細メディアによって投稿されています。大手メディアが、報道をしない措置をとっているだけかもしれませんが……

ここでは、残留放射能や被曝量、検査の不鮮明からくる反対意見について列挙します。

この記事では「放射線=危険」という発想だけから反対するものは含みません。
計算で判断するという流れに会わないこと、一方の意見を押し上げる気がないこと、「危険」という考え方が異なること、以上の3つからブラウザバックを推奨します

杜撰な放射性検査結果

富士電機の「広エネルギーレンジX/γ線測定用シンチレーション式サーベイメータ」は0.001μSv/h(年間9μSv)単位(誤差25%)、日立の「ICS-1323」では1.00μSv/h(年間8760μSv)から0.01μSv/h単位(誤差15%)で測定できます。

0.01μSv/hという単位は、自然中の放射線量による実効線量と比べ小さい値です。(27日の地元は0.038μSv/hでした)自然中の放射線による影響と人体中の変異を区別することは不可能であり、これらの機械を十分に活用すれば判断できると考えられます。

ちなみに0.038μSv/hを減衰なしと仮定して成人が50年分を蓄積させると16.6mSvになります。137セシウムでも半減期が30.17年なので、実際はここまで溜まりません。

で、ここからが本題。

放射線検査において、一定値未満のものは全てND(Not Detected:不検出)とされます。定義上は測定値が測定誤差の3倍以下とのこと。つまり測定誤差が大きい杜撰な機械を企業が使っていれば、NDの範囲も広くなり放射線検査がぬるくなります。

また「100Bq/kg以上を弾くとしても、99Bq/kgの商品は出荷するのか」という問題も取りざたされます。どんなものであれ、基準を決めるときに必ず生じる課題です。3分とか5kgなどと違って100Bq/kgは、数字の程度が予測できないことも要因だと考えられます。

未だに残る放射性

放射性物質を福島第一原発が放出してから早7年。時が経つのは早く、セシウム134(半減期2.0652年)は既に10%程度にまで減衰しました。

しかし、まだ放射線は残っています。爆心地直近では8.35μSv/h(年間73mSv)という途方もない数値が残り、半減期を考慮しない危険水準0.2μSv/h(成人の基準である50年間で100mSvを突破)を超える箇所が内陸部にも数多く存在しています

果たしてこんな土地から送られてくる食材は安心なのか、ということです。陰謀論のような言い方をすれば、官僚側はデータを正確に測定させないようにし意図的に隠ぺいしているといったところでしょうか。

なお隣の茨城県と宮城県は最大でも約0.07μSv/hとなっており、事故の影響こそ受けていますが、基準上は胎児でも問題のない値になっていました。

廃棄物の行方は

玄米時点で測定して、異常値を叩きだしたものは何処へ行くのでしょうか。BSE(狂牛病)の際は有機由来なので焼却処分されましたが、放射性物質は焼却処分しても解決しません。たとえ米が灰になろうが放射性物質は放射性物質です。

原子力発電所で使い終わった燃料は、一般的に青森県六ヶ所村(下北半島の右下に位置する人口10500人の村)の施設にて、30~50年間保管されます。岩盤処理の効果が大きいのか、六ヶ所村の放射線量は東京よりも低いと報じられていました(0.017<0.03μSv/h)。

しかし中には異常値を示した米を売却しているのではないか、という仮説をたてる者もいます。加工食品や外食産業など、生産地や出荷元を表示しない箇所はいくらかあります。これらにとって経費削減は(客の満足度が下がらなければ)至急課題であり、捨て値で売られるであろう問題商品は、利益のチャンスでもあります。

中立的な観点

賛成派、反対派双方の意見を上記にまとめました。

ここから、実行線量係数を用いた被ばく量を考え、安全性を評価します。なおシーベルトの安全性の基準は「放射線医学総合研究所」のものを使用しています。

以下の数値はあくまで参考であり、有効数字1桁くらいしかないことを事前に警告します。これはどれだけ米が土壌から吸収するかについて、正確な放射線物質量がはっきりしていないことに由来します。
実は福島県のHPで『土壌と玄米の放射性セシウム濃度に相関は見られない』と書かれてしまっています。なので、仕方なく代表値から概算することにします。

代表値の取り方

計算のため、参考文献8の図3「土壌及び米の放射性セシウム濃度の関係」(上図)もしくは参考文献3の図4「土壌中の放射セシウム濃度と玄米中の放射性セシウム濃度の関係」(下図)から引用しました。

(下図について、pdfの図を引用した時点で横軸が抜けてしまいました。横軸ラベルは「土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg DW)」、目盛は原点から2,500ずつ増加しています)

実効線量係数とは

前編でも少し触れましたが、放射線量から実効線量(もしくは等価線量)へ変換する必要があります。

比例する4つのパラメータ{放射線量(Bq)、吸収線量(Gy)、等価線量(Sv)、実効線量(Sv)}のうち放射線量Rと実効線量Eの係数を、実効線量係数kと呼んでいます。
\[
E[Sv]=k[mSv/Bq]\times R[Bq]
\]
実効線量係数は年齢、性別、摂取方法(吸入と経口)、放射性同位元素の種類に依存します。年齢と性別は、多くの場合青年以上の男女平均を用いています。また放射性が2種類以上のときは、それぞれの実効線量を求めてから足すことで求まります。

計算ー2011年岩手の場合ー

平成23年(2011年)7月5日に、岩手県から土壌の放射能測定結果が報告されています(参考文献10)。このうち最も高いデータ「一関運動公園多目的グラウンド」がある一関市は、岩手県南端に位置しています。したがって岩手県の土壌の中で最も汚染されていたと判断し、代表値として計算していきます。

一関運動公園多目的グラウンド(6月28日採取)の結果、セシウム134が390Bq/kg、セシウム137が414Bq/kg採取されました。

合計値が約800Bq/kgとなるので、10Bq/kg(中央値)の代表値とする。またセシウム134とセシウム137の比率が採取比率と等しいと仮定して計算する。

Step 1 平衡量の測定

平成25年(2013年)時点の米の食料需給量は56.9kg(農林水産省より)とのことです。毎年減少傾向にあるそうですが、今回は一定値としておきます。

日毎の放射線吸収量は
\[
10[Bq/kg]\times 56.9[kg/year]=1.55788[Bq/day]
\]
となるので、放射性セシウムの平衡量は次のようになります。(上:成人(70kg相当)、下:15歳(55kg相当))
\[
\frac{1.55788}{\ln(2)}\times(0.1\times 2+0.9\times 110)=222.96
\]

\[
\frac{1.55788}{\ln(2)}\times(0.13\times 2.2+0.87\times 93)=182.43
\]

Step 2 年間被曝の計算

以下、成人(70kg相当)の方にて計算過程を示していきます。

年間被曝量は日毎の被曝量が上記なのですから、それを一年単位に変換すればよいことになります。
\[
(222.96\times \frac{390}{804}\times 1.9\times 10^{-8}[Sv/Bq]+222.96\times \frac{414}{804}\times 1.3\times 10^{-8}[Sv/Bq])\times 365.24
\]

\[
=0.751+0.264=1.015[mSv]
\]

なお15歳(55kg)換算では0.83mSvでした。

Step 3 半減期を考慮した50年被曝量

長年放射線濃度が変化せずに摂取しているのであれば、上記の数値を50倍してください。しかし土壌中の放射線濃度は一定比率ずつ減少します。セシウム134の半減期が2.0652年、セシウム137の半減期が30.08年ということを利用して、50年間被曝量を概算します。
\[
0.751*\frac{2.0652}{ln(2)}\times (1-2^{-\frac{50}{2.0652}})+0.264*\frac{30.08}{ln(2)}\times (1-2^{-\frac{50}{30.08}})
\]
\[
=2.238+7.837=10.074[mSv]
\]

15歳換算時では8.241mSvになりました。

まとめ

どれくらいだったのか?

1人あたりの自然放射線からの年間被曝量2.1mSvと比較すると、50年で10.1mSvが多いかというと微妙な値になります。玄米だけで考えると大した値でなくとも、多くの品種からの摂取を踏まえれば想定外に蓄積している可能性もあります。

あくまでこれは玄米換算です。放射性物質が精米過程で減ると考えると、実際の内部被曝はこれ以下になる可能性が高くなります。この筋から安全と捉える説も間違っていないでしょう。また塩化カリウムの効果を含めていないことからも、米が安全であった可能性は増加します。

ただし今回のデータは二次性徴を終えた人を対象に行っています。子供の場合は数倍程度被害が大きくなるため、空間線量を含め細心の注意が必要となります。

ちなみに上記の計算の10Bq/kgを100kg/kgにすると、50年換算で大体100mSvになります。 果たしてこれが基準なのかは分かりませんが、もしそうなら早急に基準を厳しくしてほしいものです。

セシウムさん騒動の風評被害

ここで話を戻しましょう。セシウムさん騒動による被害は風評被害だったのか、という問題です。

上記の結果をどう捉えるか次第ですが、本当に10mSv以下であったならば風評被害となります。県内トップの土壌汚染地区での水稲を前提条件にしているので、実際の被曝量は間違いなくもっと少なかったでしょうから。

残された問題点

ただしここで終了するほど単純な問題ではありません。これだけで結論付けるのは、少なくとも下に挙げる様な難点が残されています。

  1. 15歳以下の場合実効線量係数が変化する
  2. 代表値の取り方
  3. 精米による除染の効果
  4. 土壌汚染と玄米汚染に相関がみられない点
  5. 玄米の放射性濃度が20Bq/kg以上になる割合
  6. 高濃度放射線米ができた要因

次回は補足事項として、高濃度放射線米と関係があると考えられる要因と、放射線にちなんだコラムについて取り上げていく予定です。

追記(2018/02/18)補足事項が完成しましたので、リンクを貼っておきました。

2011年岩手県産のお米は安全だったのか? この問題を解決すべく小難しい数式を並べて考えてみました。 そのときに代表値の取り方や高濃度汚染米ができた要因が不十分であったことを最後に書いています。また中立的な位置を保とうとはしていましたが、放射線を使用する利点について記していませんでした。これらのことから、補足記事を作製していきます。

参考文献

以下賛成側など紹介した順番通りに記していくが、サイト側の指針とは全く関係ないことを伝えておく。

賛成側

1)高橋良学・島輝夫・高橋好範・高橋正樹・小野剛志、「水稲無カリ栽培が可能となる土壌中カリ蓄積水準」、岩手農研セ研報3:49~56(2003)、http://www2.pref.iwate.jp/~hp2088/bulletin/pdf/houkoku_03-05.pdf
2)吉岡邦雄「水稲の放射性セシウム吸収抑制対策について」、http://www.jrsm.jp/shinsai/1-3_Yoshioka.pdf
3)「放射セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について~要因か遺跡調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~(概要)」、https://www.pref.fukushima.lg.jp/download/1/youinkaiseki-kome130124.pdf

反対側

4)富士電機「シンチレーションサーベイメータ」、http://www.fujielectric.co.jp/products/radiation/servy/nhc.html

5)日立「ICS-1323:ヘルスケア:日立」、http://www.hitachi.co.jp/products/healthcare/products-support/radiation/surveymeter/ics1323/index.html

6)北海道電力「高レベル放射性廃棄物の処理・処分」、http://www.hepco.co.jp/energy/atomic/explanation/disposal_high_waste.html

計算用資料

7)「新・全国の放射線能情報一覧」、http://new.atmc.jp/

8)佐藤睦人「福島県における作物と土壌の汚染」、https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/17/10/17_10_17/_pdf

9)文部科学省「平成十二年科学技術庁告示第五号(放射線を放出する同位元素の数量等)」、http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/k20001023001/k20001023001.html

10)岩手県「青森県の原子燃料サイクル施設に係る」、https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/005/949/h2375_dojyou.pdf

11)放射線モニタリング情報「原子力規制庁及び福島県による土壌試料の測定結果」、http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/list/482/list-1.html

12)「国際放射線防護委員会の2007年勧告」、http://www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf

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