「二度めの夏、二度と会えない君」紹介(後編)、膨らみ続けるずれの先に

 赤城大空作「二度めの夏、二度と会えない君」あらすじの後半となっています。好きだった燐に告白したくない、その思いから智は世界を逆行しました。前半ではタイムリープ前と同様に五人を集めることに成功します。しかし燐との亀裂は徐々に進行しており……
この記事では、後半部分(3章、4章)の大筋になっています。核心に踏み込まぬよう、3章を中心とした記事になっていますがご容赦ください。

3章 揺れ動く軌跡

相手はPTA総会と校則。

演奏が合わない2人に、

一足早いバイトの知らせ

突如空いた席に燐は座る

1章で出来た借金を返す為、5人は夏フェスに参加することに。

一方、PTA総会からバンド許可を得るため、模試の勉強も必要。

更には燐と智の演奏も思うようにいかず、途中で止まってしまう。過去との齟齬を恐れて、2人の距離が開いてしまっていた。

説明を聞き終えた会長は眉間をつまみ、
「……そういうことなら、仕方ないわね。勉強会のスケジュールを組みなおすことにするわ」
地獄の勉強会が本物の地獄になった瞬間だった。(pp.222)

この前後で、会長が燐にアイアンクローをかましています。「そんなに(10万円)借りてないよっ!」という自爆が原因ですが。なお、借金額は8万円、どちらにせよ大金です。

その結果、海に行っても練習と勉強に捧げられることになりました。水着、浴衣……そんなものはありません。

代わりにあるのは、真夜中の海岸での1シーン。一周目に存在しなかった場面、燐と会長の密会を智は盗み聞きします。

会長は篠原(智)と何かあったのかと刺々しく訊く

燐は、仲間として好きと明るい声で、異性として好きじゃないと氷のように冷たい声で答える

「好きじゃないよ」
「……あなたでも、そんな嘘がつけるのね」
本当はそれほど冷たい声音ではなかったかもしれない。
「嘘じゃないよ。あたしは智君のこと好きだけど、そういうんじゃない」
けれどその声はあまりに無機質で、突き放すようで。(pp.236)

既に余命を知っている燐にしてみれば、突き放さなければならないと思っていたのかもしれません。ただ状況が悪かった。余命からの罪悪感なのか、恋愛感情がなかったのか。どちらの可能性にしても、智にダメージを与えます。

事情を知らない会長は追及し、燐は「知らないよ。せっかく仲良くなれたのに、おかしいのは、智君……だもん……」(pp.237)と言い残して去っていきました。

自分の恋心のせいで、燐と会長を歪めてしまった。過ちを繰り返さない為に道化を演じなければ。去った後、彼は独りで砂浜に座り込んでいました。それが一時の解決にしかならないことを考えずに。

遂に始まった夏フェスのバイト。智は心機一転して燐と関係を戻す。以前の様に燐は笑顔を向けてくれるようになった。

ただし問題をすべて自意識過剰による勘違いとする辺り、鈍感な主人公なのでしょう。

順調に思えた夏フェスであったが、最終日に問題が生じてしまう。目玉のバンドが天災によって到着が遅れてしまったのだ。有名バンドの穴埋めなど比較される対象になるだけで、誰もやりたがらない。Primemberにとっては、さらにバンド活動禁止令を解きにくくなる。

よって会長も躊躇していた。

「やろう」
しかしそんな状況にかけらも臆することなく、まったくひるむことなく、燐はまっすぐ言うのだった。(pp.245)

だが燐は違った。険しい顔を見せる会長、失神しそうなヒミコなどを鼓舞し、飛び入り参加することを決める。

一方で智も違った。1周目では緊張と興奮でいっぱいだったが余裕があった。だからこそ、燐の微かに震えている手に気付く。

燐が緊張することは1周目ではありませんでした。それが智の不注意なのか、それとも燐の感情の変化なのか。この章からは判別できません。

無事にバトンを渡せた一行は、舞台裏で倒れていました。

挿絵が挟まっていますが、倒れ方が特徴的です。あと燐の笑顔が、にへ~としています。とろけています。彼女曰く”最高に幸せ”なようです。

幸せそうな笑顔を見て、智は一つの決断を強固にします。

想いを殺し過去と同じように振る舞うこと、を。

総括 二度めの祭、二度と聴けない歌

なんか出てきた謎のファンクラブ。会長は会長だった。

そんな一方で、燐の持病が牙を剥く。

階段からこけ、行方をくらまし、ベッドに寝込む。

燐の明日は、智の引きこもりは変化するのか。

夏フェスを助けたことと勉強漬けが功をなし、一行は無事に文化祭ライブができることに。しかし、それは平坦な道ではありませんでした。

1つめの要因は、Primemberの正式ファンクラブ『プリメン隊』の登場でした。

壊滅的にダサい組織名と地の文と評されています。仮面を被った3人衆と相まって、燐すら唖然とする存在感です。中心にいたのは、当然あの人で。燐が転校してきたころの彼女は何処に行ってしまったのでしょうか。

2つ目の要因は、燐の不調にありました。寿命は約1月、体力を精神も限界が近づいています。PTAへのコンサートは階段からこけて参加できず、学園祭ライブには30分遅れ……。

「智君さー、結局最後まで歌ってくれなかったよねー」
と、燐が不満そうにふくれっ面で睨んできた。(p.276)

それでも燐は変わりません。ここまで揺るがないキャラクターも珍しい。

智の歌がこの作品のカギとなっています。小説の最初(=1章の前)はどの場面から始めてもよく、物語の主張が現れる場でもあります。

その中、この作品が選んだ選択肢は

「森山燐という少女は、とにかく阿保の一言に尽きる存在だった。」

智の黒歴史CDを、昼休憩に流すという行動でした。仲間集めの前に行われた燐の奇行は、会長と教頭の目くじらを立てるという結果に終わります。

教頭、会長がなぜ敵対しているかを知らずとも、この先の流れが掴めるプロローグだと感じました。

「あたしもきっと、智君と同じ気持ちだったよ」(p.319)

やるべきことが過ぎ、智は冬の河川敷に独り戻されます。”ごめんなさい”と書かれた紙は形を変えていました。上記の文は隅に書かれたものであり、智だけへのメッセージと考えられます。

燐の寿命を知っているからこそ、互いに気持ちを伝えられなかった。智に、伝えられない苦しみが再び訪れます。

全てを吐き出した彼は、今度こそ燐の願いを叶える為に……

燐の未来がわずかだからこその、後先を一切考えない行動。

智の未来を知っているからこその、想いを伝えることへの葛藤。

読者視点で両者の破綻は容易に推測できます。しかし、それでも実らない恋心は見ていて切なくなります。燐が、燐だからこそライトノベルとして成り立った作品だと、私は思いました。

引用図書

赤城大空「二度めの夏、二度と会えない君」(2015)、小学館

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