赤城大空「二度めの夏、二度と会えない君」(前半) たった一言を覆すために

今回は赤城大空作「二度めの夏、二度と会えない君」の紹介になります。

たった一言、縁に立っていた森山燐に伝えてしまった失言。
その日を最後にバンドは、ボーカルを失った。
”ごめんなさい”くしゃくしゃに書かれた紙を残され、篠原智は不登校に陥る。
2月の時が経ったある雪の降る夜、突如聞こえた燐の歌声へ一歩踏み出した。

赤城大空さんの前作「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」、次回作「出会ってひと突きで絶頂除霊!」は共にタイトルからしてとてつもない雰囲気を出していますが、今作は落ち着いたタイトルでした。

親戚から放たれる「どんな本書いてるの?」にお茶を濁す日々から解放された系ライトノベル作家。


表紙カバー内側より

このように、作者としても前作と今作で纏っている雰囲気が違うことに言及されています。

余談ですが、赤城大空さんは第6回小学館ライトノベル大賞にて優秀賞を受賞しデビューしました。同年、審査員特別賞として水沢夢さんが選ばれています。両者ともにデビュー作が10巻以上出版しているのですが……どちらも癖が強すぎる作品であり、この年は印象に残っています。

1章:Refrain

燐が消えたことを受け入れられない。文化祭のときをリピートし続ける日々。
歪んだ文字の”ごめんなさい”、伝えてはいけない気持ちを送った後悔と現実からの逃避。智は不登校になっていた。
ある雪の日燐の歌声に一歩踏み出すと、燐と出会った夏の昼間であった。

こんなこと、夢に決まっている。
だがいくら都合のいい幻のなかであったとしても、俺が燐にそんなことをしていいはずがなかった。燐は俺を拒絶して、俺は燐を悲しませたのだ。
早く醒めろ。とっとと消えろ。
燐を直視してしまったら自分を制御できなくなりそうで、俺は顔を伏せたまま幻が消え去るのをじっと待った(p.55~p.56)

燐を求めて籠っていた2月、体は燐を求めていた。それでも智は燐の笑顔を守るために遠ざかることを選択する。たった3か月、と傷つく心に言い聞かせて。

しかし、事情を知ってはいても燐は想像以上にしぶとかった。転入初日から時間問わず「バンドやろう」とメッセージが投げてくる。

……それはたとえ幼馴染の生徒会長が乱入してこようとも。バンド活動が禁止されていることを知っても。

本来智が話していた言葉を会長が話す。智が最初から答えを知っている。

この時点で流れは変わりだしていた。


燐と再び出会い、改めてバンドを組むまでの章になっています。バンドを断らなければならないと智は決めるが、強く断ると燐が悲しむ。その背反に苦しんだ結果、仮加入、正式加入へと流れていきました。それでも「告白した過去だけをなかったことにする」と胸に誓っています。

慌てて追いかけると、燐は階段の中腹からこちらを見下ろしていて、
「それ以上近づいたら、そっちに向かって飛び降りるよ、フライングボディプレスだよ!」
ギターを抱えたまま、その目に強い意志を湛えて言い放った。
「……」
なんでそこまで。(p.77)

この章においてとにかく燐の珍行動が目立ちました。鍋にコオロギを入れる、授業中に紙を投げつけるなどなど。

智の家に来てまで勧誘する燐。智のギターを返すことなく、バンドに入るように頼みます。この直後に重たいシーンがあるのですが、ここだけ切り取ると別のジャンルにしか思えない場面です。

そこだけ切り取ると笑えてくるのに、事情を知っている視点からだと燐が元気を取り繕っているようにも見える。作品の序章として素晴らしいものだと感じました。

2章 2回目のPrimemberへ

夜、学校を徘徊する幽霊の相手探し

現行犯逮捕される変態と捨てられた作品

体調を落としていく会長に水面下で膨らむ爆弾

バンドPrimember完成を目指し智と燐は動きだした


花京院姫子

ギター(智)とボーカル(燐)だけでは足りない。バンドに必要な楽器演奏者(ドラムとベース)を求めて、学園を歩き回る章になっています。3人分と長いため、それぞれの場面で1箇所ずつ拾っていきます。

前章にて色々とマークをされていた燐は、ニヨニヨ動画に投稿することを思いつく。智は反対するが、燐はとあるドラマーを紹介する。

ここまでは想定通りだった。ここまでは。

「特定したの」
燐がさらっと犯罪めいたことを言った。
「ツイッターやブログの内容を全部漁って推理して、大体の住所は掴んでるよ!」
アホのくせになまじ勉強できる上に行動力もあると本当に厄介だなと改めて思う。(p.124)

燐さんは智と違って1周目です。1周目にバンドが組めた理由がこの行動力と推理力ゆえですが、少々強すぎる駒といいますか。それも”大体の住所”と言ったあとに”特定した住所”と言い直したことも付け加えておきます。
なお、後々述べられる燐の学力、学年トップだそうです。

人に会うのが苦手な不登校生、(とあるドラマーこと)ヒミコを説得することに。
解答を知っている智は情緒不安定なヒミコに細心の注意を払っていました。燐は……未遂ながらとんでもないことをしでかしそうになっていましたが。
最終的に単位ギリギリというタイミングで高校に来てくれ、ドラマーが加入しました。

石田六郎

次にベーシストを求める一行は、変態を探します。燐には「ベーシスト=変態」の等式が成り立っているそうです。

その等式に従い、ストーカー六郎を現行犯逮捕します。六郎は北高きっての奇人であり、燐と同じく外面と内面が乖離している変人でした。智が不祥事の総合デパートと称しただけあり、篭絡、露出、修学旅行での行方不明etcというハイスペックな人材です。

作者赤城さんが奇人を書くときに、特に映えるのはなぜでしょうか。

失われた龍の彫刻を求め、ゴミ処理場に直行する一行。暮れた日が昇っても見つからない、以前あった場所を何度探してもない。3人の疲労度が溜まっていきます。結局壊れてしまったパーツを見つけるまで、約24時間作業を続けていました。

ここまで真剣に捜索するのは、燐の熱意からでした。

「入賞できなくたって、あの作品は、ずっと残るかもしれないものだよ! もし君が明日死んでも、君の代わりに、ずっとずっと残っていくかもしれないものなんだよ!?」(p.175)

1周目では燐の激昂した理由が分からなかった智ですが、今は分かってしまいます。智は壊れたように聞き続けた燐の歌声を思い出しました。歌声を残そうとしている燐にとって作品を捨てようとする六郎は許せなかった、と解釈しています。
六郎は葬式にて智にこの彫刻の欠片を送りました。当時は理解できなかった謎の贈り物へ、一つの解を得ます。

菅野瑛子

4人集まり、バンドとしても体裁は保てた4人組。古い(燐)、平凡(智)、厨二(ヒミコ)、理解不能(六郎)と各々別ベクトルに残念な命名をする泥仕合を展開します。結果、再び燐が決めたPrimemberになりました。

順調に進んでいる4人組に対し、会長の調子は悪化していく。Primemberへの酷評を生み出した、六郎の彫刻を破壊したという冤罪をかけたことへの責任感に苛まれていました。なので、演奏で会長を元気づけることに。だけど手段は簀巻きにしての誘拐という力押しでしたが。

演奏は成功し、無事に会長の協力が得られた一行。これで1周目のメンバーが全員揃いました。

しかし、徐々に確実に1周目との乖離が表にでてきました。智の変化に応じて燐の言動が変化していきます。切り抜き方次第で二重人格疑惑を作れそうなほど、重たい一側面が現れます。

燐にとって智は最初にできた異性の友人でした。それ故にふと芽生えた心境を抑えきれなかったのかもしれません。

 燐がちょいちょいと袖を引いて、尋ねてきた。
その顔は思わずぞっとしてしまうくらい、無表情であった。
「智君は、会長のことが好きなの?」
「……なに、言ってんだよ、お前」
また唐突に訪れた記憶にない燐の言葉に、表情に、俺は狼狽した。(p.202~p.203)


精一杯威嚇する会長に、燐が悪い笑顔で、
「へっ、へっ、へ。いまから会長に毒電波を流し込んで洗脳してやるのだ」
などと嘯いている。(p.204)

後編:3章、4章に続きます。

引用図書

赤城大空「二度めの夏、二度と会えない君」(2015)、小学館

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